反逆の騎士
アサシンの守護を抜けて、神殿へと侵入していった。
士郎に知る由はないが、今の此処は崩壊寸前である。人払いだけが成されていて、殆どの機能が停止している。
セイバーが襲撃したおかげであった。今その彼女は……。
「セイバー」
目の前には赤いドレスを纏った騎士が佇んでいる。その身は霊体にあらず。受肉された姿でモードレッドがいた。
くすんだ金髪、緑色の瞳が印象的な美少女。紅のドレスを纏った姿は、戦場を忘れる位に美しかった。
「ごめんな。君の心を守れなかった」
完全に眼が血走っている。憎悪と憤怒が肌に突き刺さるようだ。
キャスターの姿が見えない。当然か。今にも爆発しそうなセイバーの近くに、好き好んでいる者は馬鹿だ。
「シロウ。あ、あはは、ふははは!!」
狂気に満ちた声で彼女が笑った。壊れたような笑い声だった。
感情の大きな波を感じる。泣き出しそうな表情を見て、死が前にあっても胸が痛んだ。モードレッドの泣き顔は見たくない。
「家に帰ろう。暖かいご飯を用意するからさ」
「シロウ…逃げて」
ぎちぎちと彼女の肉体が軋む。憎悪と狂気を押し留める理性の鎖が――壊れた。
「あ、ああ、あああ!!」
雄叫びを上げて襲いかかってくる。出力は変わらず。彼女の白銀の剣は、何の曇りも見せていない。
本来ならば抗う術はない。理性が飛んで荒々しい一撃でさえ、士郎を殺してあまりある威力を宿していた。
「投影開始」
干将・莫耶の宝剣を投影して、アーチャーの真似事をする。理想は遠く己は歪んでも、錬鉄の英雄が宿した技術は変わらない。
「はああ!!」
白銀の剣戟を双剣で受け止める。一撃は重く。狂気に満ちても、モードレッドの筋力は変わらない。罅割れながらも抗い続ける。
雄叫びと共に、研ぎ澄まされた堅牢なる剣術が、荒れ狂う剣戟を凌ぎきった。
「ひひ。強いなあ、シロウ!!」
歓喜の声を上げて、モードレッドは更に攻め立てた。まるで子供が親にじゃれているよう。こんな状況でもなければ惚れそうだ。
「唯の紛い物だ。誇れる力じゃない」
借り物の理想の果てを、その紛い者の己が振るう。何だか笑ってしまいそうだった。あまりにも道化が過ぎるじゃないか。
それでも良い。目の前で暴れる彼女を取り戻せるならば、何だって構わないんだ。
「何故憤怒を宿す? どうして憎悪を捨てられない」
目の前の彼女の狂気を晴らさなければ、取り戻すことは不可能だろう。
見た所、他の術式は感じられない。何故かキャスターの姿も見えなかった。魔女の裏は感じるけど、今更止まれない。
語り続けながら彼女の剣戟を受ける。全身が粉々になりそうだ。英霊の技術を模倣していても、肉体の性能は大きく変化していない。
食い縛った歯が軋む。両腕の骨に罅が奔った。筋肉が千切れる。限界は近く。
一撃でも受けたならば、あっさりと砕け散るだろう。それでも彼女は止まれない。狂気と憤怒を彼へとぶつけ続ける。
「オレは誰にも愛されなかった!」
剣術は既に捨てられて、受肉した英霊の力を発揮しているだけだ。音速を突破し、凄まじい力で振るわれているが、受けるアーチャーの技術が素晴らしい。防戦に徹すれば、こうまで通さないものかね。
おかげで彼女の全てを受け止められた。
「ならば奪って何が悪い!?」
魂の叫び。これも確かにモードレッドの一部である。
否定されて生まれ出た子供だった。親の愛情はない。認められた事なんてない。たった一度士郎に許されたから、枷が外れて零れてしまった。
愛されたい。もっとほしい。求めている。求め続けている。
「全て、全てが憎い。許せない。生まれ落ちた己自身すら、許せない!!」
憎しみと怒りだけが身を紡いでいる。我が身は憎悪の化身である。
騎士王を殺す為だけに、モードレッドは生まれたのだから。白銀の剣は罪の証。王位を示すこともなく。認められる事もありえない。
血の涙を流しながら、彼女は止まれなかった。平穏な日常に許されても、根底は変わらない。愛情がほしいよ。誰かに認められたいんだ。
それをモルガンは見通していたのだろうか? 分からない。
「この身は罪と悪に塗れている。命を奪い取った。殺戮して悪を成した」
そうして魔女に囚われて利用されている。その裏に何か想いはなかっただろうか?
愛されたいなどと願ってはいなかったか。
セイバーだけでキャスターを討伐して、士郎にもっと認められたいと思わなかった。愛し子を成すことが出来ないならば、せめて騎士として最上の信頼が得たいと願わなかったか。
「どうした。衛宮 士郎。オレは悪だろう。殺すべき悪だろう」
正義の味方こそ貴方の骨子だろうと。荒れ狂いながらも理性は消えていない。せめて士郎に殺されたい。
もう止まれないんだ。憤怒と憎悪が全てを壊している。
「どうか断罪してくれ」
もう抑えが効かなくなりそうだ。憎しみに突き動かされている。
バーサーカーと相打つ事で、モルガンが聖杯を得てしまうのだろう。そんな結末は認められない。士郎になら殺されても良いんだ。
士郎に知る由はないが、今の此処は崩壊寸前である。人払いだけが成されていて、殆どの機能が停止している。
セイバーが襲撃したおかげであった。今その彼女は……。
「セイバー」
目の前には赤いドレスを纏った騎士が佇んでいる。その身は霊体にあらず。受肉された姿でモードレッドがいた。
くすんだ金髪、緑色の瞳が印象的な美少女。紅のドレスを纏った姿は、戦場を忘れる位に美しかった。
「ごめんな。君の心を守れなかった」
完全に眼が血走っている。憎悪と憤怒が肌に突き刺さるようだ。
キャスターの姿が見えない。当然か。今にも爆発しそうなセイバーの近くに、好き好んでいる者は馬鹿だ。
「シロウ。あ、あはは、ふははは!!」
狂気に満ちた声で彼女が笑った。壊れたような笑い声だった。
感情の大きな波を感じる。泣き出しそうな表情を見て、死が前にあっても胸が痛んだ。モードレッドの泣き顔は見たくない。
「家に帰ろう。暖かいご飯を用意するからさ」
「シロウ…逃げて」
ぎちぎちと彼女の肉体が軋む。憎悪と狂気を押し留める理性の鎖が――壊れた。
「あ、ああ、あああ!!」
雄叫びを上げて襲いかかってくる。出力は変わらず。彼女の白銀の剣は、何の曇りも見せていない。
本来ならば抗う術はない。理性が飛んで荒々しい一撃でさえ、士郎を殺してあまりある威力を宿していた。
「投影開始」
干将・莫耶の宝剣を投影して、アーチャーの真似事をする。理想は遠く己は歪んでも、錬鉄の英雄が宿した技術は変わらない。
「はああ!!」
白銀の剣戟を双剣で受け止める。一撃は重く。狂気に満ちても、モードレッドの筋力は変わらない。罅割れながらも抗い続ける。
雄叫びと共に、研ぎ澄まされた堅牢なる剣術が、荒れ狂う剣戟を凌ぎきった。
「ひひ。強いなあ、シロウ!!」
歓喜の声を上げて、モードレッドは更に攻め立てた。まるで子供が親にじゃれているよう。こんな状況でもなければ惚れそうだ。
「唯の紛い物だ。誇れる力じゃない」
借り物の理想の果てを、その紛い者の己が振るう。何だか笑ってしまいそうだった。あまりにも道化が過ぎるじゃないか。
それでも良い。目の前で暴れる彼女を取り戻せるならば、何だって構わないんだ。
「何故憤怒を宿す? どうして憎悪を捨てられない」
目の前の彼女の狂気を晴らさなければ、取り戻すことは不可能だろう。
見た所、他の術式は感じられない。何故かキャスターの姿も見えなかった。魔女の裏は感じるけど、今更止まれない。
語り続けながら彼女の剣戟を受ける。全身が粉々になりそうだ。英霊の技術を模倣していても、肉体の性能は大きく変化していない。
食い縛った歯が軋む。両腕の骨に罅が奔った。筋肉が千切れる。限界は近く。
一撃でも受けたならば、あっさりと砕け散るだろう。それでも彼女は止まれない。狂気と憤怒を彼へとぶつけ続ける。
「オレは誰にも愛されなかった!」
剣術は既に捨てられて、受肉した英霊の力を発揮しているだけだ。音速を突破し、凄まじい力で振るわれているが、受けるアーチャーの技術が素晴らしい。防戦に徹すれば、こうまで通さないものかね。
おかげで彼女の全てを受け止められた。
「ならば奪って何が悪い!?」
魂の叫び。これも確かにモードレッドの一部である。
否定されて生まれ出た子供だった。親の愛情はない。認められた事なんてない。たった一度士郎に許されたから、枷が外れて零れてしまった。
愛されたい。もっとほしい。求めている。求め続けている。
「全て、全てが憎い。許せない。生まれ落ちた己自身すら、許せない!!」
憎しみと怒りだけが身を紡いでいる。我が身は憎悪の化身である。
騎士王を殺す為だけに、モードレッドは生まれたのだから。白銀の剣は罪の証。王位を示すこともなく。認められる事もありえない。
血の涙を流しながら、彼女は止まれなかった。平穏な日常に許されても、根底は変わらない。愛情がほしいよ。誰かに認められたいんだ。
それをモルガンは見通していたのだろうか? 分からない。
「この身は罪と悪に塗れている。命を奪い取った。殺戮して悪を成した」
そうして魔女に囚われて利用されている。その裏に何か想いはなかっただろうか?
愛されたいなどと願ってはいなかったか。
セイバーだけでキャスターを討伐して、士郎にもっと認められたいと思わなかった。愛し子を成すことが出来ないならば、せめて騎士として最上の信頼が得たいと願わなかったか。
「どうした。衛宮 士郎。オレは悪だろう。殺すべき悪だろう」
正義の味方こそ貴方の骨子だろうと。荒れ狂いながらも理性は消えていない。せめて士郎に殺されたい。
もう止まれないんだ。憤怒と憎悪が全てを壊している。
「どうか断罪してくれ」
もう抑えが効かなくなりそうだ。憎しみに突き動かされている。
バーサーカーと相打つ事で、モルガンが聖杯を得てしまうのだろう。そんな結末は認められない。士郎になら殺されても良いんだ。
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