四十八章 アーノルドの素顔
「だとしても、いつまでもこうしてはいられない。俺はアーノルドのことも調べなくてはならない」
「アーノルドだと? あの武器商人の?」
意外なところでルモンドが口を挟む。
「知っているのか?」
「余は利用したことはないし、武器商人に稼がせる義理もないので許可はしなかったが、まあ軍の一部は使用していたようだ。代替わりをしたという噂を聞いたのが、いつだったか……余がまだ囚われていない時であるから、二十年前以上になるな。そのアーノルドか?」
「わからない。ただ、俺の知るアーノルドは俺の右腕で気の利く世話係で護衛で。とにかく信じていたからカーラと繋がり父の死に関係していたのではと聞かされ」
「ひとつ助言をするが、武器商人は片方だけに肩入れをすることはない。もし、カーラにとってよい動きをしたのであれば、レイバラルに対してもよい動きをしたはずだ。そなたの父の死に関係しているというのであれば、そのころ、都合のよいこともあったのではないか?」
「……ほどなくして祖父が亡くなっている」
「その死に疑問が?」
「どうかな。かなりの歳だった。老衰といってもいい」
「ではほかは?」
「だから、思いつかない」
「本当か? よく考えてみるがよい。その時でなく、最近でもいい」
「まさか、この状況か? 俺がクラウディアと会うことになったのも、カーラに行くことになったのも、それらすべてあいつの……」
ダジュールはこれらの経緯を思い返す。
「クラウディアがレイバラルに来たのは黒ダイヤの情報だといったな」
「そうね。カルミラ産の宝石がいっぱいあるとも聞いたわ」
「情報操作をしてクラウディアを呼び寄せ、俺と会わせた。なぜだ?」
「ねえ、ダジュール。彼はあなたに罪滅ぼしをしたかったのではない? 裏の顔より表の顔を優先した……とか」
「なんのために?」
「罪の呵責。あなたと表で関係を築いていく中で先祖のしたことが許せなくなった。調べていくうちにわたしの存在を知り、またカーラの内情も知った。その中でもしかしたらと疑惑を抱き、わたしたちを送り出した。わたしたちが動くことで目を引きつけてくれるから、その間に自分の仕事をする。もしかしたらカーラの偽帝王はもういないかも」
まあ、だとしたら都合よすぎるとクラウディアが付け加えると、
「なかなかいい筋をしていますね」
と、アーノルドの声がした。
「アーノルドか、どこにいる?」
すると船員のひとりが立ち上がる。
顔は違うのに声はアーノルド、どういうことだろうか。
しかし、クラウディアはすぐにそのからくりにきづく。
「ずっとわたしたちの近くにいましたね、アーノルドさん」
「気付いていましたか」
「いいえ、気付いたのは今だけど、今ここにいるってことはずっと近くにいたのかなって」
「ええ。変装は武器商人の十八番ですから。それに、あなたがたが知っているあの顔も真実とはかぎりませんよ?」
「武器商人は決して他人に素顔は晒さない、本当でしたのね」
と、タリアが入ってくる。
タリアとしても思い当たることがあるのだろう。
「それで、真相はどうなのです? リリシア様の推測は当たっていますか?」
「ああ、あの男を始末したかってこと? 当然ですね。そもそも、私が始末していなければとっくに追いつかれてますよ。今頃はおおあらわで他国に構ってはいられないでしょうね」
「なぜだアーノルド。なぜおまえがそこまでする?」
「王妃様がおっしゃっていたではありませんか。罪滅ぼしですよ。そもそも私は武器商人なんかどうでもよかったのです。けれど知ってしまっては知らない頃には戻れません。ダジュールというひとりの青年を知れば知るほど、放ってはおけないと思いました。そんな頃、クラウディア様のことを知りました。彼女がリリシア様である確率も高く、ではカルミラへの罪滅ぼしもできるのではないかと思いました。それをしたからどうというわけではありませんがね。ただ誤算もありました。まさか帝王も救出してしまうとは」
だけどそれはうれしい誤算であると告げる。
なぜならルモンドは唯一、先代で武器商人を廃業できるかもしれないことを使用としてくれていただという。
すでに亡き者と思っていただけに生きて表舞台に引っ張り出そうとしてくれることはうれしい誤算だったのだ。
「そんなわけで、カーラに戻ったところであなた方に危害が及ぶことはないと思います」
「じゃあ、レイバラルに戻るだろう?」
「いいえ。私は王に爵位を返上し、旅に出ようかと思っています。武器を売り富を得たことで不幸になってしまった国にわずかでもなにかを返せたらと」
「だが、今の俺にはおまえが必要なんだ。それに疑ってしまったことを詫びたい」
「いいえ、十分です。まだ必要だと思ってくれただけで十分すぎるほどのお詫びをいただいています。これからはクラウディア様とともにレイバラルの平和な時代を築いてください」
次第に遠のいていく声。
そこにいたはずの人はもういない。
この地中から出られるはずはないのだが、彼なら易々と脱出してしまうだろう。
「今の話を信じるとして、これからどうされますの、ルモンド様は」
「そうだな。もう二度とカーラには戻れないと思っていたのだ、このままでいいのではないだろうか」
「もう帝王はおやめに?」
「もともと余はそのような器ではないのだ」
「では、どうされるのです?」
「もとより産業に興味があったのだ、カルミラの復興の手助けをしたい。ここにはそなたもいるのだし」
「アーノルドだと? あの武器商人の?」
意外なところでルモンドが口を挟む。
「知っているのか?」
「余は利用したことはないし、武器商人に稼がせる義理もないので許可はしなかったが、まあ軍の一部は使用していたようだ。代替わりをしたという噂を聞いたのが、いつだったか……余がまだ囚われていない時であるから、二十年前以上になるな。そのアーノルドか?」
「わからない。ただ、俺の知るアーノルドは俺の右腕で気の利く世話係で護衛で。とにかく信じていたからカーラと繋がり父の死に関係していたのではと聞かされ」
「ひとつ助言をするが、武器商人は片方だけに肩入れをすることはない。もし、カーラにとってよい動きをしたのであれば、レイバラルに対してもよい動きをしたはずだ。そなたの父の死に関係しているというのであれば、そのころ、都合のよいこともあったのではないか?」
「……ほどなくして祖父が亡くなっている」
「その死に疑問が?」
「どうかな。かなりの歳だった。老衰といってもいい」
「ではほかは?」
「だから、思いつかない」
「本当か? よく考えてみるがよい。その時でなく、最近でもいい」
「まさか、この状況か? 俺がクラウディアと会うことになったのも、カーラに行くことになったのも、それらすべてあいつの……」
ダジュールはこれらの経緯を思い返す。
「クラウディアがレイバラルに来たのは黒ダイヤの情報だといったな」
「そうね。カルミラ産の宝石がいっぱいあるとも聞いたわ」
「情報操作をしてクラウディアを呼び寄せ、俺と会わせた。なぜだ?」
「ねえ、ダジュール。彼はあなたに罪滅ぼしをしたかったのではない? 裏の顔より表の顔を優先した……とか」
「なんのために?」
「罪の呵責。あなたと表で関係を築いていく中で先祖のしたことが許せなくなった。調べていくうちにわたしの存在を知り、またカーラの内情も知った。その中でもしかしたらと疑惑を抱き、わたしたちを送り出した。わたしたちが動くことで目を引きつけてくれるから、その間に自分の仕事をする。もしかしたらカーラの偽帝王はもういないかも」
まあ、だとしたら都合よすぎるとクラウディアが付け加えると、
「なかなかいい筋をしていますね」
と、アーノルドの声がした。
「アーノルドか、どこにいる?」
すると船員のひとりが立ち上がる。
顔は違うのに声はアーノルド、どういうことだろうか。
しかし、クラウディアはすぐにそのからくりにきづく。
「ずっとわたしたちの近くにいましたね、アーノルドさん」
「気付いていましたか」
「いいえ、気付いたのは今だけど、今ここにいるってことはずっと近くにいたのかなって」
「ええ。変装は武器商人の十八番ですから。それに、あなたがたが知っているあの顔も真実とはかぎりませんよ?」
「武器商人は決して他人に素顔は晒さない、本当でしたのね」
と、タリアが入ってくる。
タリアとしても思い当たることがあるのだろう。
「それで、真相はどうなのです? リリシア様の推測は当たっていますか?」
「ああ、あの男を始末したかってこと? 当然ですね。そもそも、私が始末していなければとっくに追いつかれてますよ。今頃はおおあらわで他国に構ってはいられないでしょうね」
「なぜだアーノルド。なぜおまえがそこまでする?」
「王妃様がおっしゃっていたではありませんか。罪滅ぼしですよ。そもそも私は武器商人なんかどうでもよかったのです。けれど知ってしまっては知らない頃には戻れません。ダジュールというひとりの青年を知れば知るほど、放ってはおけないと思いました。そんな頃、クラウディア様のことを知りました。彼女がリリシア様である確率も高く、ではカルミラへの罪滅ぼしもできるのではないかと思いました。それをしたからどうというわけではありませんがね。ただ誤算もありました。まさか帝王も救出してしまうとは」
だけどそれはうれしい誤算であると告げる。
なぜならルモンドは唯一、先代で武器商人を廃業できるかもしれないことを使用としてくれていただという。
すでに亡き者と思っていただけに生きて表舞台に引っ張り出そうとしてくれることはうれしい誤算だったのだ。
「そんなわけで、カーラに戻ったところであなた方に危害が及ぶことはないと思います」
「じゃあ、レイバラルに戻るだろう?」
「いいえ。私は王に爵位を返上し、旅に出ようかと思っています。武器を売り富を得たことで不幸になってしまった国にわずかでもなにかを返せたらと」
「だが、今の俺にはおまえが必要なんだ。それに疑ってしまったことを詫びたい」
「いいえ、十分です。まだ必要だと思ってくれただけで十分すぎるほどのお詫びをいただいています。これからはクラウディア様とともにレイバラルの平和な時代を築いてください」
次第に遠のいていく声。
そこにいたはずの人はもういない。
この地中から出られるはずはないのだが、彼なら易々と脱出してしまうだろう。
「今の話を信じるとして、これからどうされますの、ルモンド様は」
「そうだな。もう二度とカーラには戻れないと思っていたのだ、このままでいいのではないだろうか」
「もう帝王はおやめに?」
「もともと余はそのような器ではないのだ」
「では、どうされるのです?」
「もとより産業に興味があったのだ、カルミラの復興の手助けをしたい。ここにはそなたもいるのだし」
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