二十二章 捜し人来る
体中が痛い。
全身に火傷を負ったようなヒリヒリした痛みと、ジンジンした痛みが交互に押し寄せる。
さらに骨が軋むような感覚、内蔵が腫れているような感覚もある。
そんな中、冷たくて気持ちのいいものが口元におかれ、クラウディアは無心にそれを欲しがった。
乾いた口が潤い、喉が癒されていくと、重い瞼がやっと動こうとしてくれた。
開いたその瞳に映し出されたのは、心配そうにのぞき込むダジュールの顔だった。
「……ダ、ダジュール? どうして? わたし、カーラ二世に……」
「今はなにも言うな。なにも言わなくていい。全部わかっているから。それと、おまえに会わせたい人がいる。いいか?」
「……? う、うん。誰?」
「クラウディアが捜したいといっていた人が、向こうから来てくれた」
クラウディアが横たわっているベッドの脇にひとりの女性が立ち、彼女に顔を近づける。
くっつきりとした目、その瞳は漆黒で、クラウディアの瞳と同じだった。
髪も瞳と同じ黒髪だが、光の加減で青味がかって見える時もある。
顔のパーツひとつひとつがはっきりとしていて、それぞれがいい具合に協調しているので、目を引く美人顔。
歳はどれくらいだろうか、若くも見えるがそれは黒髪の影響だろう。
四十代前半くらいが妥当かもしれない。
「はじめまして、とご挨拶するべきでしょうね、クラウディア様。わたくしはタリアと申します」
(……タリア?)
クラウディアはどこかで聞いたことがある名前だと思った。
まだ意識がはっきりしないのか、記憶が曖昧なのか……
何度もその名前を繰り返すうちに霧がかかったような記憶が鮮明になっていく。
「……あ! 養父から手紙を預かっています!」
「……? おとうさま?」
タリアにしてみれば、クラウディアはリリシア・カルミラでしかなく、その父といえばカルミラ王以外存在しない。
タリアはあの日、カルミラ国が滅亡した瞬間以降のことはなにも知らないのだから。
「あ……えっと、育ててくれた養父です」
「育ててくれた方? わたくしの記憶が間違っていなければ、それはケイモス様ですわね」
「……はい! 養父をご存じでしたか。でしたら話は早いです」
クラウディアはダジュールに黒ダイヤの入ったケースを持ってきてほしいと頼む。
その箱の底に、養父から預かった手紙を隠していた。
「クラウディア様。わたくしはカーラ帝国の者です。今は帝王の愛人という立場にあり、あなたを油断させるために帝王が使わしたかもしれませんよ?」
「だとしても、養父が捜せといった方ですから」
「そう、ですか。人を疑わないところはご両親に似てらっしゃいますね、リリシア様」
「違います。わたしはクラウディアです」
「存じております。ですが、あなたはリリシア様でお間違いないです。今は、その事実をお認めになられた方が保身になりましてよ?」
「どういう、ことですか?」
「そうですわね。わたくしは帝王より同郷のよしみであなた様を説得してこちら側に引き入れるようにと言われてきました。わたくしは立場的に帝王を裏切れませんので、成功するしない関係なく、形式的に説得しているようにしなくてはなりません」
「カルミラの人、ですよね? カーラに囚われているのですか?」
「ある意味ではそうでしょう。しかし、本当の意味で囚われているのは、マリアンヌ様と正当な帝王でしょうね」
「母は生きているのですか?」
「はい、ご存命です。ただ生かされているだけですが」
「そうですか。良かった……。帝王が囚われているとは?」
「言葉そのままです」
「ちょっと待った。話がうますぎる」
ふたりの会話にダジュールが加わる。
「あんたは帝王に差し向けられたと言った、裏切れないとも。だがその帝王がとらわれの身ってなんだ?」
「言葉そのままですわよ、レイバラル王。クーデターを起こしたのが今の帝王、負けたのがとらわれの帝王。殺さずに生かされているのは、死なれては困るからというだけですわ。なぜ殺せないのか。リリシア様の安否確認が正しく行われない限り手を下せないのです。今のカーラにとってリリシア様の存在は驚異なのです。その血筋がレイバラルに繋がることは、もっとも恐ろしいことなのです。そこで今の帝王は捕らえたマリアンヌ様と本来の帝王を幽閉しました。知っているのは限られたものだけです。わたくしは、マリアンヌ様の懇願によって命を救われましたが、この二十年、死んだ方がよかったと思うことは多々ありましたが、こうしてリリシア様にお会いでき、やはりあの時の判断は間違っていなかったのだと、今はそう思います。今の帝王はカーラの医学が世界に誇ると信じ、マリアンヌ様とリリシア様の親子鑑定をするようです。認められれば恐怖政治と独裁国家を確立させるために、罪を作り公開処刑をするでしょう。その前に、お逃げください」
「……え?」
クラウディアとダジュールの声が重なる。
「だって、裏切れないって」
「はい。ですがケイモス様のお手紙を拝見して、考えが変わりました。わたくしは欲深いので、できればマリアンヌ様と本来の帝王もお救いしたいと思っています。ご協力、できますでしょうか?」
全身に火傷を負ったようなヒリヒリした痛みと、ジンジンした痛みが交互に押し寄せる。
さらに骨が軋むような感覚、内蔵が腫れているような感覚もある。
そんな中、冷たくて気持ちのいいものが口元におかれ、クラウディアは無心にそれを欲しがった。
乾いた口が潤い、喉が癒されていくと、重い瞼がやっと動こうとしてくれた。
開いたその瞳に映し出されたのは、心配そうにのぞき込むダジュールの顔だった。
「……ダ、ダジュール? どうして? わたし、カーラ二世に……」
「今はなにも言うな。なにも言わなくていい。全部わかっているから。それと、おまえに会わせたい人がいる。いいか?」
「……? う、うん。誰?」
「クラウディアが捜したいといっていた人が、向こうから来てくれた」
クラウディアが横たわっているベッドの脇にひとりの女性が立ち、彼女に顔を近づける。
くっつきりとした目、その瞳は漆黒で、クラウディアの瞳と同じだった。
髪も瞳と同じ黒髪だが、光の加減で青味がかって見える時もある。
顔のパーツひとつひとつがはっきりとしていて、それぞれがいい具合に協調しているので、目を引く美人顔。
歳はどれくらいだろうか、若くも見えるがそれは黒髪の影響だろう。
四十代前半くらいが妥当かもしれない。
「はじめまして、とご挨拶するべきでしょうね、クラウディア様。わたくしはタリアと申します」
(……タリア?)
クラウディアはどこかで聞いたことがある名前だと思った。
まだ意識がはっきりしないのか、記憶が曖昧なのか……
何度もその名前を繰り返すうちに霧がかかったような記憶が鮮明になっていく。
「……あ! 養父から手紙を預かっています!」
「……? おとうさま?」
タリアにしてみれば、クラウディアはリリシア・カルミラでしかなく、その父といえばカルミラ王以外存在しない。
タリアはあの日、カルミラ国が滅亡した瞬間以降のことはなにも知らないのだから。
「あ……えっと、育ててくれた養父です」
「育ててくれた方? わたくしの記憶が間違っていなければ、それはケイモス様ですわね」
「……はい! 養父をご存じでしたか。でしたら話は早いです」
クラウディアはダジュールに黒ダイヤの入ったケースを持ってきてほしいと頼む。
その箱の底に、養父から預かった手紙を隠していた。
「クラウディア様。わたくしはカーラ帝国の者です。今は帝王の愛人という立場にあり、あなたを油断させるために帝王が使わしたかもしれませんよ?」
「だとしても、養父が捜せといった方ですから」
「そう、ですか。人を疑わないところはご両親に似てらっしゃいますね、リリシア様」
「違います。わたしはクラウディアです」
「存じております。ですが、あなたはリリシア様でお間違いないです。今は、その事実をお認めになられた方が保身になりましてよ?」
「どういう、ことですか?」
「そうですわね。わたくしは帝王より同郷のよしみであなた様を説得してこちら側に引き入れるようにと言われてきました。わたくしは立場的に帝王を裏切れませんので、成功するしない関係なく、形式的に説得しているようにしなくてはなりません」
「カルミラの人、ですよね? カーラに囚われているのですか?」
「ある意味ではそうでしょう。しかし、本当の意味で囚われているのは、マリアンヌ様と正当な帝王でしょうね」
「母は生きているのですか?」
「はい、ご存命です。ただ生かされているだけですが」
「そうですか。良かった……。帝王が囚われているとは?」
「言葉そのままです」
「ちょっと待った。話がうますぎる」
ふたりの会話にダジュールが加わる。
「あんたは帝王に差し向けられたと言った、裏切れないとも。だがその帝王がとらわれの身ってなんだ?」
「言葉そのままですわよ、レイバラル王。クーデターを起こしたのが今の帝王、負けたのがとらわれの帝王。殺さずに生かされているのは、死なれては困るからというだけですわ。なぜ殺せないのか。リリシア様の安否確認が正しく行われない限り手を下せないのです。今のカーラにとってリリシア様の存在は驚異なのです。その血筋がレイバラルに繋がることは、もっとも恐ろしいことなのです。そこで今の帝王は捕らえたマリアンヌ様と本来の帝王を幽閉しました。知っているのは限られたものだけです。わたくしは、マリアンヌ様の懇願によって命を救われましたが、この二十年、死んだ方がよかったと思うことは多々ありましたが、こうしてリリシア様にお会いでき、やはりあの時の判断は間違っていなかったのだと、今はそう思います。今の帝王はカーラの医学が世界に誇ると信じ、マリアンヌ様とリリシア様の親子鑑定をするようです。認められれば恐怖政治と独裁国家を確立させるために、罪を作り公開処刑をするでしょう。その前に、お逃げください」
「……え?」
クラウディアとダジュールの声が重なる。
「だって、裏切れないって」
「はい。ですがケイモス様のお手紙を拝見して、考えが変わりました。わたくしは欲深いので、できればマリアンヌ様と本来の帝王もお救いしたいと思っています。ご協力、できますでしょうか?」
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