六章 密談
四人は地下へと場所を変えた。
レイバラル大国では地下室を造ることが義務づけられていた。
争いごとの耐えない国であったため、自分の身は自分で守れということだろう。
他国との戦争中、地下で生活を強いられることになる。
しかし貧しい人には地下室を造る余裕も労力もなく、攻撃の的にされれば命を守るすべはない。
焼け野原となり再建はマイナスからになるため後回しにされてしまう。
王宮付近だけが栄え、そこから離れれば貧しい土地ばかりになっているのは、こういう連鎖が続いていたからだった。
地下室には電気を通していないため、明かりはランプや松明に頼るしかない。
わずかな空気しかない場所なため、明かりは最低限にした。
明かりを囲むようにして四人が向かい合う。
話し出したのはクラウディアの養父、名をケイモスという。
「レイバラルの若き王が、父王の死に疑問。ふっ、甘ったれた考えだが悪くはない」
「ちょっと養父さん、そんな言い方」
「いや、いいんだクラウディア。実際、アーノルドにも同じ事を言われた」
ダジュールは苦笑いを浮かべながら、横目でアーノルドをみた。
見られた彼は小さく頷く。
「まずは我々の経緯を話したい。クラウディアも黙って聞くように」
「……うん、わかった」
「これはクラウディアにも話していないことだが、私はカーラ帝国の出身だ」
「え? どういうこと?」
「今から話すから黙っていなさい、クラウディア」
驚いて思わず声を発してしまったクラウディアだが、ダジュールやアーノルドも驚いた顔をしている。
今でこそ一般市民であればカーラ帝国とレイバラル大国との行き来ができるが、身元を証明する書類から敵国出身であるとわかると害がないと判断されるまでしばしの拘留を強いられる。
明確な理由が必要だからだ。
そのため、理由もなく興味本位でそれぞれの国を行き来する者はいない。
「そっちのふたりも驚いているな、まあ、当然か。私はカルミラ国に嫁がれることになったマリアンヌ様の護衛兵としてカルミラ国に入り、そして国王と王妃を陰ながら見守る任を任された。私の家系はカーラでずっと鍛冶職人をしていたが、私は地道な仕事よりも一旗揚げた方がよい生活ができると思い、志願兵に名乗りをあげた。もともと鍛冶職人でもあったため、戦地ではそちらの知識も重宝され、思っていた以上に取り立ててもらえた。その後、傭兵の方が稼ぎがいいと知り退役、傭兵としていろんな戦地に赴いた。結果、他国の情報にも長けてな、当時のカーラ帝王に情報部員としての役割を仰せつかった。カルミラの持つ技術を余すことなく収集しカーラに持ち帰れ。私はマリアンヌ様のおこしいれに乗じてカルミラに入ることにした」
しかしカルミラ王の人柄に触れ、またカルミラの国民の人柄に心打たれ、すべてを打ち明けた。
「斬首も覚悟していたが、王はあっさりと許された。さらにカーラに残る私の家族を案じ、ひとつだけ情報流出の許しをくださった。カーラ帝王はえらく喜んでいたが、その技術は簡単に真似できるものでもなく……私自身が取得して持ち帰れという流れになった。当然、数年で得られるものでもなく、修行の身であることを理由に隠れ蓑にし、私は私を許してくださったカルミラの王と、王を心から愛され身ごもったマリアンヌ様にすべてを捧げようと誓った。本当に、なんの落ち度もない国王一家と民たちだったのに、なぜ急にカーラ帝国はカルミラを攻撃したのか……国旗は別の国だったが、カーラの軍に属していた私にはすぐにわかった。あれは他国を装ったカーラ軍だ」
と、ここまで一気に話すと、聞いていた三人の反応に差が出てくる。
養父であるケイモスは国王や王妃と信頼関係にあった。
となれば、突然の攻撃から逃げてきたケイモスとクラウディア。
命をかけて守りたいといっていた国王一家。
「クラウディアはカルミラ国の忘れ形見なのか?!」
思わず大きな声を発してしまったダジュール。
静かにと諭すアーノルドもクラウディアを見る視線が違ってくる。
だが、クラウディア本人はさほど驚いてはいなかった。
「おまえが持ち主に返したいって、それは自分こそが持ち主だからってことか」
「そういうことかな。でもね、わたし自身はそれほど自覚しているわけじゃないの。だって両親の顔さえ記憶にない。わたしにとって父は養父であるケイモスだけ。でもね、生きているなら会いたい。もし辛い目に遭っているなら救って差し上げたい。そのためには、わたしがカルミラの正当な王位継承者であるという証明が必要なの。黒ダイヤがあれば、それを持っている者こそが後継者であると証明できる」
「なぜそう言い切れる?」
ダジュールはクラウディアに訪ねたが、その質問に答えたのはケイモスだった。
「それは、黒ダイヤがいわくつきの宝石だからです。この国でもいわくつきとされていましたね。ですから、あえて説明の必要はないと存じますが、レイバラル王」
「……っう、それはつまり、正当な持ち主以外には災いが起きるということか」
「はい。カルミラでも、触れられるのは国王とその血筋だけで、王妃であられたマリアンヌ様は触れられませんでした」
レイバラル大国では地下室を造ることが義務づけられていた。
争いごとの耐えない国であったため、自分の身は自分で守れということだろう。
他国との戦争中、地下で生活を強いられることになる。
しかし貧しい人には地下室を造る余裕も労力もなく、攻撃の的にされれば命を守るすべはない。
焼け野原となり再建はマイナスからになるため後回しにされてしまう。
王宮付近だけが栄え、そこから離れれば貧しい土地ばかりになっているのは、こういう連鎖が続いていたからだった。
地下室には電気を通していないため、明かりはランプや松明に頼るしかない。
わずかな空気しかない場所なため、明かりは最低限にした。
明かりを囲むようにして四人が向かい合う。
話し出したのはクラウディアの養父、名をケイモスという。
「レイバラルの若き王が、父王の死に疑問。ふっ、甘ったれた考えだが悪くはない」
「ちょっと養父さん、そんな言い方」
「いや、いいんだクラウディア。実際、アーノルドにも同じ事を言われた」
ダジュールは苦笑いを浮かべながら、横目でアーノルドをみた。
見られた彼は小さく頷く。
「まずは我々の経緯を話したい。クラウディアも黙って聞くように」
「……うん、わかった」
「これはクラウディアにも話していないことだが、私はカーラ帝国の出身だ」
「え? どういうこと?」
「今から話すから黙っていなさい、クラウディア」
驚いて思わず声を発してしまったクラウディアだが、ダジュールやアーノルドも驚いた顔をしている。
今でこそ一般市民であればカーラ帝国とレイバラル大国との行き来ができるが、身元を証明する書類から敵国出身であるとわかると害がないと判断されるまでしばしの拘留を強いられる。
明確な理由が必要だからだ。
そのため、理由もなく興味本位でそれぞれの国を行き来する者はいない。
「そっちのふたりも驚いているな、まあ、当然か。私はカルミラ国に嫁がれることになったマリアンヌ様の護衛兵としてカルミラ国に入り、そして国王と王妃を陰ながら見守る任を任された。私の家系はカーラでずっと鍛冶職人をしていたが、私は地道な仕事よりも一旗揚げた方がよい生活ができると思い、志願兵に名乗りをあげた。もともと鍛冶職人でもあったため、戦地ではそちらの知識も重宝され、思っていた以上に取り立ててもらえた。その後、傭兵の方が稼ぎがいいと知り退役、傭兵としていろんな戦地に赴いた。結果、他国の情報にも長けてな、当時のカーラ帝王に情報部員としての役割を仰せつかった。カルミラの持つ技術を余すことなく収集しカーラに持ち帰れ。私はマリアンヌ様のおこしいれに乗じてカルミラに入ることにした」
しかしカルミラ王の人柄に触れ、またカルミラの国民の人柄に心打たれ、すべてを打ち明けた。
「斬首も覚悟していたが、王はあっさりと許された。さらにカーラに残る私の家族を案じ、ひとつだけ情報流出の許しをくださった。カーラ帝王はえらく喜んでいたが、その技術は簡単に真似できるものでもなく……私自身が取得して持ち帰れという流れになった。当然、数年で得られるものでもなく、修行の身であることを理由に隠れ蓑にし、私は私を許してくださったカルミラの王と、王を心から愛され身ごもったマリアンヌ様にすべてを捧げようと誓った。本当に、なんの落ち度もない国王一家と民たちだったのに、なぜ急にカーラ帝国はカルミラを攻撃したのか……国旗は別の国だったが、カーラの軍に属していた私にはすぐにわかった。あれは他国を装ったカーラ軍だ」
と、ここまで一気に話すと、聞いていた三人の反応に差が出てくる。
養父であるケイモスは国王や王妃と信頼関係にあった。
となれば、突然の攻撃から逃げてきたケイモスとクラウディア。
命をかけて守りたいといっていた国王一家。
「クラウディアはカルミラ国の忘れ形見なのか?!」
思わず大きな声を発してしまったダジュール。
静かにと諭すアーノルドもクラウディアを見る視線が違ってくる。
だが、クラウディア本人はさほど驚いてはいなかった。
「おまえが持ち主に返したいって、それは自分こそが持ち主だからってことか」
「そういうことかな。でもね、わたし自身はそれほど自覚しているわけじゃないの。だって両親の顔さえ記憶にない。わたしにとって父は養父であるケイモスだけ。でもね、生きているなら会いたい。もし辛い目に遭っているなら救って差し上げたい。そのためには、わたしがカルミラの正当な王位継承者であるという証明が必要なの。黒ダイヤがあれば、それを持っている者こそが後継者であると証明できる」
「なぜそう言い切れる?」
ダジュールはクラウディアに訪ねたが、その質問に答えたのはケイモスだった。
「それは、黒ダイヤがいわくつきの宝石だからです。この国でもいわくつきとされていましたね。ですから、あえて説明の必要はないと存じますが、レイバラル王」
「……っう、それはつまり、正当な持ち主以外には災いが起きるということか」
「はい。カルミラでも、触れられるのは国王とその血筋だけで、王妃であられたマリアンヌ様は触れられませんでした」
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