四章 交換条件
車は王宮周辺の栄えた街を出て簡素な場所へと出る。
辺りには家と呼べるようなものは建っていないが、古い城壁の跡地のよう場所をくぐると、古い家が在った。
そこに車が停まり、降りるように促される。
「ここは?」
悪ガキたちが探検遊びでもしそうな雰囲気がある。
「先代が隠れ屋として持っていたものです」
「隠れ屋? 先代って前の王様? 王様がこんな場所を?」
「ここは以前、軍の補充基地にも使われていたところで、その昔はここに城があったそうですよ。城壁が活用できると思って軍の基地に再利用しようと思ったのでしょうね。停戦になり放置していたところ劣化してしまい、隠れるにはちょうどよいと父が先代に勧めたらしいです」
「ああ、アーノルドの父は俺の父の軍師だったんだよ。根っからの軍人気質で、アーノルドはそれが嫌で学問の道に行ったんだけど、徴兵制度でいやいや軍に入ったんだよな。で、俺の護衛なんか押しつけられて」
そう言われてみれば、アーノルドはどちらかといえば知性で勝負するところがあるように感じる。
クラウディアはなるほど……と、ふたりの関係性に納得できた。
「まあ、そういうことですので、この場所を知っているものは限られていますし、入ることのできる鍵を持っているのはダジュール様だけですので、存分に話し合いができるかと思います。自分はここで見張りも兼ねて待っておりますので」
そう言って、一歩下がった。
中に入ると普段使用していないためか誇りっぽくてカビ臭い。
それにひんやりとするのは、夜風があるからだけではなさそう。
建物の作りが石でできているからだと思われる。
また扉は銅や鉄のようなもので、さび付いているのかダジュールは開けるのにも力をいれている。
「よし、こんなものでいいだろう。こっちに来いよ。明かりはアーノルドから手渡されたランプで十分だろう」
ダジュールに中に入るよう促されたクラウディアは周りを警戒しながら足を前に進める。
ダジュールが椅子を引いてくれているので、その椅子に腰をおろした。
椅子に座ると、円卓であることがわかる。
軍で使用していたというこの建物、ここは会議などをする場所だったのだろう。
ダジュールはクラウディアの隣の椅子をひとつあけた次の椅子に座る。
足を組み、背もたれに重心をかけると、軽く肩の力を抜いた。
「さっそくだが、いくつか質問がある。この質問はおまえの素性を探るのが目的ではない。しいていうなら、本当に俺の協力者になれるのかの確認だ」
「いいわよ、回りくどいこと言わなくても。嘘は言わない。だけど言いたくないことは言わない。それでいい?」
「かまわない。じゃあ聞くが、なぜいわくつきの宝石ばかりを狙う? 黒ダイヤなんて欲しがる奴はこの国にはいない。物珍しさで見たいという者はいるが、手に入れようとは思わない。そう思わせるだけのことが度々あったからだ。そんな黒ダイヤを欲しがる物好きは、他国の盗人くらいだと思っていたが、おまえは旅をしてこの国に移住したと言っていた。俺の想定内だ。だが、なぜ狙うのかがわからないな。収集家という感じでもない」
「答える前にわたしもひとつ確認。わたしはあなたが新人の軍人で功績欲しさに張っていたのだと思ったけれど、実は王様だった。功績に対してのあれこれの必要はないわけだし、王としてでもいいし、ダジュールというひとりの人としてでもいいわ。あなたに協力をしたらわたしの願いを聞き入れてくれる交渉の話に嘘はないのよね?」
「俺は嘘は言わない。王としても俺本人ダジュールとしてもだ。信じられないというなら、先にそっちの願いとやらを言ってもかまわないが?」
「ううん、平気。そうはっきり言ってくれるのだから、守ってくれると信じることにする。わたしがこの国で言ういわくつきの宝石ばかりを狙うのはね、本当の持ち主の手に戻ることを希望しているから。それと、黒ダイヤを手に入れれば行方のわからない本当の両親のことがわかると聞かされたからよ」
「本当の持ち主に戻す? おまえの両親の行方? つまり、おまえの両親はあの国の出ということか?」
あの国。
ここの国の人はあの国のことをはっきりとは言わない。
その理由はわからないが、確かに滅亡してしまった国の話など話題にもしたくはないだろう。
そもそも、あの国はこの国にとって敵対していた国の傘下にいた国だ。
「レイバラル大国にとって敵国の傘下だもの、口にもしたくないでしょうね。わたしにとって亡国カルミラ国は父の祖国。あの日、滅亡した日から行方がわからない。養父である鍛冶職人が、父の古い知り合いらしくて、あの騒ぎの中、生まれて間もないわたしを連れ出して育ててくれた」
「二十年前に生まれた……おまえ、二十歳か。俺と五歳違いだな。俺はまだ五歳で、なにが他国で起きているのかを理解していなかった。また戦争になるのだと大臣たちの意見が割れ、板挟みになった父はいつも暗い顔をしていたことくらいしか覚えていない」
「わたしは実際に経験しているのに記憶にはないのよ。養父に聞かされてもわたしにとっての故郷は転々と旅をしながら立ち寄った国すべてが故郷のようなものだし。でもね、いろんな国を旅していると生まれた国が亡くなるってどれほどのことなのかを痛感せずにはいられない。だからわたしは必死に祖国について知ることにした」
「愛国心が芽生えたから、散り散りになったカルミラ産の宝石を集めているのか?」
「ん~、ちょっとそこは違う。不正に持ち出されたり売買されたりしたものだけよ。特に黒ダイヤはカルミラ国の王室の象徴のようなものだから。それが他国にあるって、奪われたみたいで嫌なのよ」
辺りには家と呼べるようなものは建っていないが、古い城壁の跡地のよう場所をくぐると、古い家が在った。
そこに車が停まり、降りるように促される。
「ここは?」
悪ガキたちが探検遊びでもしそうな雰囲気がある。
「先代が隠れ屋として持っていたものです」
「隠れ屋? 先代って前の王様? 王様がこんな場所を?」
「ここは以前、軍の補充基地にも使われていたところで、その昔はここに城があったそうですよ。城壁が活用できると思って軍の基地に再利用しようと思ったのでしょうね。停戦になり放置していたところ劣化してしまい、隠れるにはちょうどよいと父が先代に勧めたらしいです」
「ああ、アーノルドの父は俺の父の軍師だったんだよ。根っからの軍人気質で、アーノルドはそれが嫌で学問の道に行ったんだけど、徴兵制度でいやいや軍に入ったんだよな。で、俺の護衛なんか押しつけられて」
そう言われてみれば、アーノルドはどちらかといえば知性で勝負するところがあるように感じる。
クラウディアはなるほど……と、ふたりの関係性に納得できた。
「まあ、そういうことですので、この場所を知っているものは限られていますし、入ることのできる鍵を持っているのはダジュール様だけですので、存分に話し合いができるかと思います。自分はここで見張りも兼ねて待っておりますので」
そう言って、一歩下がった。
中に入ると普段使用していないためか誇りっぽくてカビ臭い。
それにひんやりとするのは、夜風があるからだけではなさそう。
建物の作りが石でできているからだと思われる。
また扉は銅や鉄のようなもので、さび付いているのかダジュールは開けるのにも力をいれている。
「よし、こんなものでいいだろう。こっちに来いよ。明かりはアーノルドから手渡されたランプで十分だろう」
ダジュールに中に入るよう促されたクラウディアは周りを警戒しながら足を前に進める。
ダジュールが椅子を引いてくれているので、その椅子に腰をおろした。
椅子に座ると、円卓であることがわかる。
軍で使用していたというこの建物、ここは会議などをする場所だったのだろう。
ダジュールはクラウディアの隣の椅子をひとつあけた次の椅子に座る。
足を組み、背もたれに重心をかけると、軽く肩の力を抜いた。
「さっそくだが、いくつか質問がある。この質問はおまえの素性を探るのが目的ではない。しいていうなら、本当に俺の協力者になれるのかの確認だ」
「いいわよ、回りくどいこと言わなくても。嘘は言わない。だけど言いたくないことは言わない。それでいい?」
「かまわない。じゃあ聞くが、なぜいわくつきの宝石ばかりを狙う? 黒ダイヤなんて欲しがる奴はこの国にはいない。物珍しさで見たいという者はいるが、手に入れようとは思わない。そう思わせるだけのことが度々あったからだ。そんな黒ダイヤを欲しがる物好きは、他国の盗人くらいだと思っていたが、おまえは旅をしてこの国に移住したと言っていた。俺の想定内だ。だが、なぜ狙うのかがわからないな。収集家という感じでもない」
「答える前にわたしもひとつ確認。わたしはあなたが新人の軍人で功績欲しさに張っていたのだと思ったけれど、実は王様だった。功績に対してのあれこれの必要はないわけだし、王としてでもいいし、ダジュールというひとりの人としてでもいいわ。あなたに協力をしたらわたしの願いを聞き入れてくれる交渉の話に嘘はないのよね?」
「俺は嘘は言わない。王としても俺本人ダジュールとしてもだ。信じられないというなら、先にそっちの願いとやらを言ってもかまわないが?」
「ううん、平気。そうはっきり言ってくれるのだから、守ってくれると信じることにする。わたしがこの国で言ういわくつきの宝石ばかりを狙うのはね、本当の持ち主の手に戻ることを希望しているから。それと、黒ダイヤを手に入れれば行方のわからない本当の両親のことがわかると聞かされたからよ」
「本当の持ち主に戻す? おまえの両親の行方? つまり、おまえの両親はあの国の出ということか?」
あの国。
ここの国の人はあの国のことをはっきりとは言わない。
その理由はわからないが、確かに滅亡してしまった国の話など話題にもしたくはないだろう。
そもそも、あの国はこの国にとって敵対していた国の傘下にいた国だ。
「レイバラル大国にとって敵国の傘下だもの、口にもしたくないでしょうね。わたしにとって亡国カルミラ国は父の祖国。あの日、滅亡した日から行方がわからない。養父である鍛冶職人が、父の古い知り合いらしくて、あの騒ぎの中、生まれて間もないわたしを連れ出して育ててくれた」
「二十年前に生まれた……おまえ、二十歳か。俺と五歳違いだな。俺はまだ五歳で、なにが他国で起きているのかを理解していなかった。また戦争になるのだと大臣たちの意見が割れ、板挟みになった父はいつも暗い顔をしていたことくらいしか覚えていない」
「わたしは実際に経験しているのに記憶にはないのよ。養父に聞かされてもわたしにとっての故郷は転々と旅をしながら立ち寄った国すべてが故郷のようなものだし。でもね、いろんな国を旅していると生まれた国が亡くなるってどれほどのことなのかを痛感せずにはいられない。だからわたしは必死に祖国について知ることにした」
「愛国心が芽生えたから、散り散りになったカルミラ産の宝石を集めているのか?」
「ん~、ちょっとそこは違う。不正に持ち出されたり売買されたりしたものだけよ。特に黒ダイヤはカルミラ国の王室の象徴のようなものだから。それが他国にあるって、奪われたみたいで嫌なのよ」
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