ドフラミンゴの日記 その8
×月×日
飯を寝室で食うようになって何日経っただろうか。
テーブルが小さいので、やはり少々窮屈だ(特に夕食)。
早くダイニングルームの改修が終わればいいと思う。
×月×日
看守の3人が部屋の改修でもめている件について、カスターから朝食の時に話しを聞いた。
カスターは、ダイニングルームの壁を漆喰の塗りっぱなしにしたいらしい。でも、バーティは漆喰の上に壁紙を貼りたいらしくて、ペラムは壁に風景が描かれているデザインにしたいらしい。
床もそれぞれで希望があって、譲らないらしい。
内装はカスターが決めると言っていたような気がするが、他の二人も口を出しているようだ。
何でもいいから早くしてくれ。
×月×日
今日はペラムが来たので、ペラムから話しが聞けた。と言うか、この丸顔男は自分から話した。
「ここは海中で窓がないので、壁に風景の絵が描いてあったら素敵だと思いませんか。山や森や野の草花などが描かれた美しい風景画が…」
奴は熱弁をふるった。
「私は一日おきに休みがあるので、行きたければ一日おきに地上階に行くことも可能ではあります。でも、ここが建てられているのは海のど真ん中なので、地上階に出ても周りには海しかありません。絵でもいいから、広い草原や高い山が毎日見られたらどんなに良いだろうと」
奴のこの発言で、一日おきに休みがあることと、自由に地上階に出られることを知った。
「なかなかいい勤務条件じゃねえか」と言うと、
「ここ以外で働いたことがないのでそれは分かりませんが、仕事の日の勤務時間が長いので、一概にそうとも言い切れないようです」という答えが返ってきた。
「カスターさんは月に一日しか休みがないから、バーティさんと私のほうが恵まれているかもしれませんね。でも、カスターさんは10時で仕事が終わるから…」とも言っていた。
なるほど。考えてみりゃ、おれも世間一般の勤務条件なんかよく知らねえ。
×月×日
今日はバーティが看守の日だった。この四角顔は他の二人のように自分から話さねえだろうから、昼飯の時にこっちから聞いてみた。
ちなみに昼飯のメニューは、キッシュ(ほうれん草ときのことベーコン、ズッキーニとナスとじゃがいもの2種類)と生野菜のサラダだった。
「ダイニングルームの内装はまだ決まらねえのか?」
「はい。それぞれ希望があるようで…」
「お前はどういう内装にしたいんだ?」おれは真面目な顔で訊ねた。
「壁には以前と同じように壁紙を張りたいんです。どうしてかと言うと…」
バーティが早々に核心に触れてきた。よしよし話してみろと耳を傾ける。
「壁紙にすれば、防音シートを中に入れられるので…。それで…」
「それで?」
奴がなかなか続きを言わないので、促してやる必要があった。するとバーティは、思い切ったようにはっきりと言った。
「ピアノを入れたいんです」
「ピアノ?!」
「はい」
四角い顔で藪から棒にピアノなんて言われたので、おれはちょっとビビった。
「お前はピアノが好きなのか?」
「はい。でも、インペルダウンの中にはピアノがなくて…」
おれは唸った。ピアノなんか認められるものなのだろうか?
「監獄の中じゃなく、地上階とか自分の部屋とか…」
「地上階にピアノなんか置かせてもらえるはずがないじゃないですか。自分の部屋は狭すぎます」
話しにならないと言った表情でバーティは答えた。今思い出してみると、この時の奴の顔はちょっとムカつく。あの時はそんなことまで気にしていなかったが。
「お前がピアノを欲しがってることを、カスターは知ってるのか」
「はい。でも、カスターさんは漆喰だけの壁にしたいので、意見が真っ向から対立していて…」
バーティはここでちょっと黙った。そして、横目でおれの顔を見ながら言った。
「予算がもっともらえれば、カスターさんと私と、それにペラムの意見の全てが叶えられると思うのですが…」
「おれに言ってもしょうがねえだろ」
何でこいつはおれにこんなことを言うんだ?
まさかとは思うが、おれの食費を削って部屋の改装費用に当てるつもりでは…。
「ここでは夕食であっても全部の料理がいっぺんに出されるから、食事中は私はほぼやることがありません。だったら、私のピアノを聞きながら食事をするほうがいいと思いませんか?」
こいつの役目は監視であって、食事の時に料理や飲み物をサーブすることではないのだが。
それに、バーティは食事の時にピアノを弾く気らしい。つまり、囚人に音楽を聞かせるということだ。かわいそうだが、バーティの希望は通らないだろう。
3人のうちの2人に自分の希望を引っ込めさせるか、または妥協点を探れば、止まっているダイニングルームの改修工事が動き出す。そして早く新しいダイニングルームでゆったりと飯が食いたいと思っていた。
しかし、話しを聞いてみると、3人にもそれぞれの思いがあるようだ。
(そういやカスターの意見はあんまり詳しく聞いてなかったが、カスターも同じだろう。)
考えてみると、ペラムの風景画という希望も、囚人の娯楽になり得るという点ではバーティのピアノと変わらない。
だが、それを言ったら、そもそも豪華なダイニングルーム自体が不要だ。
なのに、ここの奴らはあのダイニングルームはあって当然というか、もしかしたら最優先事項だとすら思ってるような気がする。
おれにはこういう部分がさっぱり分からねえ。分からねえから何も言えねえ。
まあ、もともとおれが口を出すことではないのだが。
飯を寝室で食うようになって何日経っただろうか。
テーブルが小さいので、やはり少々窮屈だ(特に夕食)。
早くダイニングルームの改修が終わればいいと思う。
×月×日
看守の3人が部屋の改修でもめている件について、カスターから朝食の時に話しを聞いた。
カスターは、ダイニングルームの壁を漆喰の塗りっぱなしにしたいらしい。でも、バーティは漆喰の上に壁紙を貼りたいらしくて、ペラムは壁に風景が描かれているデザインにしたいらしい。
床もそれぞれで希望があって、譲らないらしい。
内装はカスターが決めると言っていたような気がするが、他の二人も口を出しているようだ。
何でもいいから早くしてくれ。
×月×日
今日はペラムが来たので、ペラムから話しが聞けた。と言うか、この丸顔男は自分から話した。
「ここは海中で窓がないので、壁に風景の絵が描いてあったら素敵だと思いませんか。山や森や野の草花などが描かれた美しい風景画が…」
奴は熱弁をふるった。
「私は一日おきに休みがあるので、行きたければ一日おきに地上階に行くことも可能ではあります。でも、ここが建てられているのは海のど真ん中なので、地上階に出ても周りには海しかありません。絵でもいいから、広い草原や高い山が毎日見られたらどんなに良いだろうと」
奴のこの発言で、一日おきに休みがあることと、自由に地上階に出られることを知った。
「なかなかいい勤務条件じゃねえか」と言うと、
「ここ以外で働いたことがないのでそれは分かりませんが、仕事の日の勤務時間が長いので、一概にそうとも言い切れないようです」という答えが返ってきた。
「カスターさんは月に一日しか休みがないから、バーティさんと私のほうが恵まれているかもしれませんね。でも、カスターさんは10時で仕事が終わるから…」とも言っていた。
なるほど。考えてみりゃ、おれも世間一般の勤務条件なんかよく知らねえ。
×月×日
今日はバーティが看守の日だった。この四角顔は他の二人のように自分から話さねえだろうから、昼飯の時にこっちから聞いてみた。
ちなみに昼飯のメニューは、キッシュ(ほうれん草ときのことベーコン、ズッキーニとナスとじゃがいもの2種類)と生野菜のサラダだった。
「ダイニングルームの内装はまだ決まらねえのか?」
「はい。それぞれ希望があるようで…」
「お前はどういう内装にしたいんだ?」おれは真面目な顔で訊ねた。
「壁には以前と同じように壁紙を張りたいんです。どうしてかと言うと…」
バーティが早々に核心に触れてきた。よしよし話してみろと耳を傾ける。
「壁紙にすれば、防音シートを中に入れられるので…。それで…」
「それで?」
奴がなかなか続きを言わないので、促してやる必要があった。するとバーティは、思い切ったようにはっきりと言った。
「ピアノを入れたいんです」
「ピアノ?!」
「はい」
四角い顔で藪から棒にピアノなんて言われたので、おれはちょっとビビった。
「お前はピアノが好きなのか?」
「はい。でも、インペルダウンの中にはピアノがなくて…」
おれは唸った。ピアノなんか認められるものなのだろうか?
「監獄の中じゃなく、地上階とか自分の部屋とか…」
「地上階にピアノなんか置かせてもらえるはずがないじゃないですか。自分の部屋は狭すぎます」
話しにならないと言った表情でバーティは答えた。今思い出してみると、この時の奴の顔はちょっとムカつく。あの時はそんなことまで気にしていなかったが。
「お前がピアノを欲しがってることを、カスターは知ってるのか」
「はい。でも、カスターさんは漆喰だけの壁にしたいので、意見が真っ向から対立していて…」
バーティはここでちょっと黙った。そして、横目でおれの顔を見ながら言った。
「予算がもっともらえれば、カスターさんと私と、それにペラムの意見の全てが叶えられると思うのですが…」
「おれに言ってもしょうがねえだろ」
何でこいつはおれにこんなことを言うんだ?
まさかとは思うが、おれの食費を削って部屋の改装費用に当てるつもりでは…。
「ここでは夕食であっても全部の料理がいっぺんに出されるから、食事中は私はほぼやることがありません。だったら、私のピアノを聞きながら食事をするほうがいいと思いませんか?」
こいつの役目は監視であって、食事の時に料理や飲み物をサーブすることではないのだが。
それに、バーティは食事の時にピアノを弾く気らしい。つまり、囚人に音楽を聞かせるということだ。かわいそうだが、バーティの希望は通らないだろう。
3人のうちの2人に自分の希望を引っ込めさせるか、または妥協点を探れば、止まっているダイニングルームの改修工事が動き出す。そして早く新しいダイニングルームでゆったりと飯が食いたいと思っていた。
しかし、話しを聞いてみると、3人にもそれぞれの思いがあるようだ。
(そういやカスターの意見はあんまり詳しく聞いてなかったが、カスターも同じだろう。)
考えてみると、ペラムの風景画という希望も、囚人の娯楽になり得るという点ではバーティのピアノと変わらない。
だが、それを言ったら、そもそも豪華なダイニングルーム自体が不要だ。
なのに、ここの奴らはあのダイニングルームはあって当然というか、もしかしたら最優先事項だとすら思ってるような気がする。
おれにはこういう部分がさっぱり分からねえ。分からねえから何も言えねえ。
まあ、もともとおれが口を出すことではないのだが。
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