第七師団所属主
「へえ、6月1日生まれって赤い薔薇が誕生花なんだねー、ロマンチック。」
「そう?どんな花でも同じだと思うけど。」
「神威は女心が分かってないなぁ。
赤い薔薇って女の子の憧れなんだからね。」
「ふーん。」
今日は買い出しに江戸に行った際、薔薇でいっぱいのお花屋さんに思わず立ち寄って、たまには船でお花を愛でるのもいいんじゃないかな?と完全に自分用に赤い薔薇と他に相性の良い花を数本購入してさっそく自分の部屋の机に飾った。
どこか星に降りれば別だけど、宇宙にお花なんて可憐なものはない。
薔薇も地球にしか無いかな。他ではまだ見たことが無い。
だからか、地球離れした内装の部屋にはあまりこの華やかな薔薇は似合っていない。
それでも、心は今も地球人のつもりの私には、この薔薇達は遠く離れた宇宙で地球を感じられるにはとても充分だった。
恋人である私がうっとりと話していることを全く聞いていなさそうな神威は、ぼーっと爪なんか眺めていて。
その様子に苛立ちを感じた私は、声を荒げた。
「聞いてよ!」
「聞いてるよ。」
「お花屋さんがくれた来月の誕生花一覧、薔薇の季節ってこともあって薔薇がたくさん入ってるんだよ。
神威はそのトップバッターなんだね。」
物凄くどうでもいいと言わんばかりに私のベッドにごろんと転がった神威が、大きくあくびをする。
やっぱりぜんっぜん聞いてない。
男の人ってあんまりお花に縁が無いのかな。
花といえば女の人ってイメージ強いもんね。
可憐に、儚く、だけど強く生きる様は、女の憧れ。
江戸が天人をその地に迎え入れた時から、外国の文化も盛んになっていって、お花では特に西洋の薔薇が女の子にはとても人気。
見た目も華やかで、ゴージャスで、有名な花言葉だって愛を謳うものばかり。
いつも恋に恋い焦がれている女の子にとってやっぱり特別なお花なわけで。
私もその一人だったりするのだから。
「そう言えば俺の誕生日もうすぐなんだね。」
「あれっ、意外。
自分の誕生日には関心が無いタイプだと思ってた。」
「やっとお前に歳がひとつ追い付くのに関心無いわけないでしょ。」
神威の突然のカミングアウトに、私は驚きのあまり神威を凝視してしまう。
「…歳の差気にしてたんだ。」
「お前が俺の上って言うのがむしゃくしゃするだけ。」
なんだそれは。あまりに無茶苦茶な不満過ぎる。
呆れてベッドに転がっている神威の顔に目を向けると、神威の耳がいつもより赤く染まっていることに気がついた。
…もしかして、照れてる?
さっきの無茶苦茶な不満はただの照れ隠しだったのかな。
思わず笑いを溢すと、神威がムッとした表情でベッドから起き上がって私を睨んでいた。
「なんで笑うの。」
「いや、可愛いなって思って。」
「…喧嘩売ってんの?」
「まさか。可愛いって言われるのイヤ?」
「…可愛いなんて言われて喜ぶ男はいないよ。」
膨れっ面で私から顔を背ける姿はやっぱり可愛いと思ってしまう。
でも嫌なら仕方ないからね。
私は神威が座るベッドに腰掛けて、わしゃわしゃと頭を撫でる。
不服そうに私に振り返った神威が、私の顔を掴んでその唇を私の唇に押し付けながら私をベッドへ倒した。
「子供扱いすんな。」
「してないよ。」
「してる。」
頭を撫でられるのも子供扱いされていると思ったのか、不機嫌そうな顔のまま私の首元に唇を寄せる。
こういうところ、やっぱり神威は年相応の男の子なんだなぁって思ってしまうのも子供扱いに入ってしまうんだろうか。
「神威。」
「…なに。」
「愛してる。」
私の顔を掴んだままピタッと動きを止めた神威が、バッと上げた顔をみるみる朱に染めて唇を噛んだ。
い、いきなり何のつもり?そんなの別に今更わざわざ言われなくても知ってるし俺もとか言って欲しいならもっとシチュエーションとか考えて…
なんて、もごもごと矢継ぎ早に言い出した神威が、見るからに動揺していて。
ちょっとしたイタズラのつもりで言ってみたのに、そんな反応をされてしまうと、なんだかいたたまれないかも。
「…っていう花言葉を持っているのが赤い薔薇なんだけど。」
「……。」
「あとは美しいとか、情熱って花言葉も持ってるから神威らしい誕生花だよね。」
「…わざとだよね、今の。」
そう言って、ひくひくと口の端を引き吊らせて笑う神威に、しまったやっぱりやり過ぎたと後悔するも遅く。
神威の表情があっという間に悪い顔になっていった。
「お、落ち着いて、ね?」
「…悪い大人のお姉さんにはしっかりお仕置きしないと。」
「そういうところが子供っぽいと思う…っ!」
「うるさい。だったら一生子供っぽくていいよ。」
「そんな屁理屈ばっかり」
「もう黙れよ。」
強い口調でそう言った神威に噛みつくようにキスをされる。
見た目は女の子みたいに綺麗で可愛らしいのに、たまに見せる男の部分はたまらなく私の心を鷲掴みにして離さない。
それを分かっているのか、舌舐めずりをしながら私の服の中に手を滑り込ませて不敵に笑う神威。
そんな彼に、私は『熱烈な恋』をやめられない。
end
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