第20話「絵里、ありふれた悲しみの果て」
「……あ」
俺は帰宅していると、会長を見つけた。悲しそうなそれでいて苛立っているような表情でこちらを見ている。
「あなた、μ'sの……」
あ、表情が苛立ち成分多めになった。はっきり言って怖い。
女性にこんな表情をされていい気持ちになる人なんておそらくいないだろう。それだけ憎しみに満ちた表情を向けられている。
「そうだよ。μ'sのマネージャーだよん。早く許可証返してくださいな」
俺はいつも通りお調子者な対応をする。これがベターかどうかさておき。
「ふざけないで! 誰が返すもんですか!」
「何意地張ってんのよ。俺より年上なのに大人げない」
「あなただって、そのヘラヘラした態度なんなの!? いっつも私の邪魔ばっかりして!!」
いつも以上にヒステリーじみた対応をされる。もっと真面目に向き合った方がいいのだろうか。
「μ'sってそんなに邪魔なんですか?」
「そうよ! あんな低レベルのアイドルパフォーマンス、音乃木坂の恥よ!」
「まーたそれですか。正直目が肥え過ぎですよ、会長」
「そうよ、何か悪い? あんな好きなことだけやって周りからちやほやされて……そんなの許せない……許せないのよ!」
出た、これが本音だ。「低レベルのくせにちやほやされて腹が立つ。」これが彼女の本心だ。そうに違いない。
「んー……だったらやってみませんか? スクールアイドル」
まさかこんな言葉が出るとは思わなかっただろう。しかし、会長はルックスがいいし、声もきれいだし、それに俺たちをコケにできるほどの自信がある。
これアイドルに向いてるって言っても過言じゃないよな?
「なんで私が!?」
「だってさっきの言い方じゃ、スクールアイドルみたいに楽しいことだけしてチヤホヤされたい……そういうふうに聞こえちゃうんですもの」
会長は耳を塞いで叫び散らす。もう惨たらしいとさえ思う。
「何言ってんのよ……。今更私がスクールアイドルやりたいなんて言えるわけがないじゃない! 私だってやりたいのよ……好きなことだけやりたいのよ……。そんなの楽しいに決まってるじゃない!!」
「だったらやりましょうよ! 誰だって文句は言いませんよ。それにもし誰かが文句を言ったら……」
俺はそう言って会長の背中に手を回す。
「っ!?」
「俺が守りますから」
分かってる。こんなクサい台詞タイプじゃないことくらい分かってる。
でも、こうでもしなきゃこの件は解決しないような気がして。
ごり押しでも丸め込んでやる。
「やめなさい! セクハラで訴えるから!!」
「訴えないくせに」
「アンタなんか大っ嫌い! 大嫌いよ!!」
会長はそう言ってぽこぽこと俺の背中を叩く。
「はいはい。でも、俺は嫌いじゃないですよ。あなたみたいな強気な人」
「~~~~っ!!」
会長はもはや声にならない声を出してうずくまってしまった。
「チェックメイトやね、えりち」
物陰からそんな声がした。俺は気にしないことにした。
☆ ☆ ☆
俺は、会長に連れられて彼女の家にやってきた。
「お姉ちゃん、ただいま!」
すると、亜里沙ちゃんが笑顔で出迎えてくれた。あんまり意識していなかったが、会長の妹なんだよなこの子。
「家で迎える時はおかえりって言うのよ、亜里沙」
「えへへ、日本語、難しいね」
亜里沙ちゃんと会長は楽しそうに会話する。単なる日常の一コマからも姉妹仲が感じられていいな。
「やぁ、亜里沙ちゃん」
俺は気さくに声をかける。すると、亜里沙ちゃんはあっと驚いた表情をした。
「竜さん! どうしたんですか?」
俺は亜里沙ちゃんの問いにサプライズのように答えようとした。
「実はな……絵里ちゃんがμ'sのメンバー入りを果たしました!!」
その盛大な発表に亜里沙ちゃんは唖然とする。
それもそうだ。さっきまであんなに争っていたようなことを聞かされていたのに、突然これなのだから。
驚かない方がおかしい。
「えっ……」
続けて会長も口を開く。
「そういうことなの」
俺は会長の照れた表情を見てすこしからかってみることにした。
「だって、入りたいって言うからさ~」
「あなたに無理矢理入れられたようなものでしょ!?」
「だったら、やめる?」
「やめないわよ。生徒会長の名が廃るわ」
「だよね~」
「……バカ」
そんな仲良さげなやりとりを見て亜里沙ちゃんはほっとしたようで、まったりと微笑んだ。
「二人とも仲良くなって妹としてはなによりだよ~」
「もう、そんなんじゃないから!」
会長は照れ隠しのようにきつく当たる。その様子に亜里沙ちゃんはさらに微笑んだ。
「そうだ、竜さん。夕飯食べていきます?」
亜里沙ちゃんが問う。ナイス。これで会長とさらに仲を深められるかもしれない。
「いいの!? それじゃあお言葉に甘えて……」
快諾。
そんな様子を見て会長はため息をついた。
「もう、自由気ままなんだから!」
☆ ☆ ☆
ところ変わって穂むら。穂乃果は竜から来たメールを見て唖然としていた。
「『今日は生徒会長の家でご飯食べます』!? 何これ信じられない~!!」
咄嗟にケータイで皆にこのこと知らせる穂乃果。やはり皆が驚いた。
「竜が本当にそういうメールをよこしたのですか?」
海未が怪訝そうに聞く。絶対に何かの間違いだと思っているのだ。
「そうなんだ……絶対生徒会長になにかされたんだ……」
穂乃果の声は強ばっていた。底知れぬ恐怖と憎しみがそこにはあった。
「心配になってきたね」
花陽がつぶやく。
「家凸でもする?」
にこが提案する。
「でも竜さんでしょ? きっと何か考えがあってやってるはずよ。……多分」
亜里沙との一部始終を見ていた真姫だけは冷静だった。
その声を聞いて穂乃果は少し落ち着きを鳥も鳥多様だった。
「そ、そうだよ! きっと大丈夫だよね! あの竜くんだから……」
俺は帰宅していると、会長を見つけた。悲しそうなそれでいて苛立っているような表情でこちらを見ている。
「あなた、μ'sの……」
あ、表情が苛立ち成分多めになった。はっきり言って怖い。
女性にこんな表情をされていい気持ちになる人なんておそらくいないだろう。それだけ憎しみに満ちた表情を向けられている。
「そうだよ。μ'sのマネージャーだよん。早く許可証返してくださいな」
俺はいつも通りお調子者な対応をする。これがベターかどうかさておき。
「ふざけないで! 誰が返すもんですか!」
「何意地張ってんのよ。俺より年上なのに大人げない」
「あなただって、そのヘラヘラした態度なんなの!? いっつも私の邪魔ばっかりして!!」
いつも以上にヒステリーじみた対応をされる。もっと真面目に向き合った方がいいのだろうか。
「μ'sってそんなに邪魔なんですか?」
「そうよ! あんな低レベルのアイドルパフォーマンス、音乃木坂の恥よ!」
「まーたそれですか。正直目が肥え過ぎですよ、会長」
「そうよ、何か悪い? あんな好きなことだけやって周りからちやほやされて……そんなの許せない……許せないのよ!」
出た、これが本音だ。「低レベルのくせにちやほやされて腹が立つ。」これが彼女の本心だ。そうに違いない。
「んー……だったらやってみませんか? スクールアイドル」
まさかこんな言葉が出るとは思わなかっただろう。しかし、会長はルックスがいいし、声もきれいだし、それに俺たちをコケにできるほどの自信がある。
これアイドルに向いてるって言っても過言じゃないよな?
「なんで私が!?」
「だってさっきの言い方じゃ、スクールアイドルみたいに楽しいことだけしてチヤホヤされたい……そういうふうに聞こえちゃうんですもの」
会長は耳を塞いで叫び散らす。もう惨たらしいとさえ思う。
「何言ってんのよ……。今更私がスクールアイドルやりたいなんて言えるわけがないじゃない! 私だってやりたいのよ……好きなことだけやりたいのよ……。そんなの楽しいに決まってるじゃない!!」
「だったらやりましょうよ! 誰だって文句は言いませんよ。それにもし誰かが文句を言ったら……」
俺はそう言って会長の背中に手を回す。
「っ!?」
「俺が守りますから」
分かってる。こんなクサい台詞タイプじゃないことくらい分かってる。
でも、こうでもしなきゃこの件は解決しないような気がして。
ごり押しでも丸め込んでやる。
「やめなさい! セクハラで訴えるから!!」
「訴えないくせに」
「アンタなんか大っ嫌い! 大嫌いよ!!」
会長はそう言ってぽこぽこと俺の背中を叩く。
「はいはい。でも、俺は嫌いじゃないですよ。あなたみたいな強気な人」
「~~~~っ!!」
会長はもはや声にならない声を出してうずくまってしまった。
「チェックメイトやね、えりち」
物陰からそんな声がした。俺は気にしないことにした。
☆ ☆ ☆
俺は、会長に連れられて彼女の家にやってきた。
「お姉ちゃん、ただいま!」
すると、亜里沙ちゃんが笑顔で出迎えてくれた。あんまり意識していなかったが、会長の妹なんだよなこの子。
「家で迎える時はおかえりって言うのよ、亜里沙」
「えへへ、日本語、難しいね」
亜里沙ちゃんと会長は楽しそうに会話する。単なる日常の一コマからも姉妹仲が感じられていいな。
「やぁ、亜里沙ちゃん」
俺は気さくに声をかける。すると、亜里沙ちゃんはあっと驚いた表情をした。
「竜さん! どうしたんですか?」
俺は亜里沙ちゃんの問いにサプライズのように答えようとした。
「実はな……絵里ちゃんがμ'sのメンバー入りを果たしました!!」
その盛大な発表に亜里沙ちゃんは唖然とする。
それもそうだ。さっきまであんなに争っていたようなことを聞かされていたのに、突然これなのだから。
驚かない方がおかしい。
「えっ……」
続けて会長も口を開く。
「そういうことなの」
俺は会長の照れた表情を見てすこしからかってみることにした。
「だって、入りたいって言うからさ~」
「あなたに無理矢理入れられたようなものでしょ!?」
「だったら、やめる?」
「やめないわよ。生徒会長の名が廃るわ」
「だよね~」
「……バカ」
そんな仲良さげなやりとりを見て亜里沙ちゃんはほっとしたようで、まったりと微笑んだ。
「二人とも仲良くなって妹としてはなによりだよ~」
「もう、そんなんじゃないから!」
会長は照れ隠しのようにきつく当たる。その様子に亜里沙ちゃんはさらに微笑んだ。
「そうだ、竜さん。夕飯食べていきます?」
亜里沙ちゃんが問う。ナイス。これで会長とさらに仲を深められるかもしれない。
「いいの!? それじゃあお言葉に甘えて……」
快諾。
そんな様子を見て会長はため息をついた。
「もう、自由気ままなんだから!」
☆ ☆ ☆
ところ変わって穂むら。穂乃果は竜から来たメールを見て唖然としていた。
「『今日は生徒会長の家でご飯食べます』!? 何これ信じられない~!!」
咄嗟にケータイで皆にこのこと知らせる穂乃果。やはり皆が驚いた。
「竜が本当にそういうメールをよこしたのですか?」
海未が怪訝そうに聞く。絶対に何かの間違いだと思っているのだ。
「そうなんだ……絶対生徒会長になにかされたんだ……」
穂乃果の声は強ばっていた。底知れぬ恐怖と憎しみがそこにはあった。
「心配になってきたね」
花陽がつぶやく。
「家凸でもする?」
にこが提案する。
「でも竜さんでしょ? きっと何か考えがあってやってるはずよ。……多分」
亜里沙との一部始終を見ていた真姫だけは冷静だった。
その声を聞いて穂乃果は少し落ち着きを鳥も鳥多様だった。
「そ、そうだよ! きっと大丈夫だよね! あの竜くんだから……」
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