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キスから始まった恋(忍足侑士×跡部)

原作: その他 (原作:テニスの王子様) 作者: ちゃんまめ
目次

キスから始まった恋(忍足侑士×跡部)

 昼休みに突然、忍足からの呼び出しがあった。

テニスの事の話だろうか……それならば部長の俺としては話を聞かない訳がない。

「跡部様―!一緒に昼食は如何ですか?」「貴女、ずるいわよ。私は最初から跡部様と一緒に昼食がしたくて!」「なによ、先に声を掛けたのは私じゃない!」

なんだか勝手に女同士の喧嘩が始まったが、俺はいつもの様にスル―した。

そんな態度を取った俺に対しても女共は「キャー!クールな跡部様も素敵!」と後方で声が聞こえたが、聞こえない振りをして振り返る事は無かった。

正直この遣り取りは俺にとっては苦痛でしかない。

自分で言うのも何だが顔も良い分類にされるし、家も大金持ちといった家庭だ。

それだけを目当てに俺に近付いて来ている様な気がして好意を向けられても「嬉しい」とは感じなかった。

初対面の女子生徒からの告白も日常茶飯事だ。

「俺様の何処を好きになった?」そう尋ねて返って来る返答に告白してきたクセに黙りこくる。

一体、本当の俺を知っている奴は居るのだろうか。

俺はテニスを何よりも大切にしている。

だからそれで良い。どうしたら部員達の士気が上がるか、そして俺自身も毎日の部活後にはジムに通って自主トレも欠かさない。

忍足は「天才」と異名が付く程にテニスのセンスや技術に長けている。

同じく天才と呼ばれている青学の不二周助にも負けていないと、俺は評価している。

シングルスでもダブルスでも忍足は高い能力を発揮出来る。

何を考えているのか分からない一面もあるが、向日や慈郎の面倒もよく見ているし冗談を言う一面もある。

そんな忍足がわざわざ呼び出すとは何かあったのだろうか……俺は呼び出された場所に急ぐと既に忍足は来ていた。

「待たせたな。お前が呼び出すなんて何かあったのか?」そう俺が尋ねても忍足は黙ったままだ。

これはよっぽど深刻な問題なのだろうか。俺が事の重大さに思考を巡らせていると突然壁際に身体を押しやられて真っ直ぐな眼差しで予想だにしなかった言葉を言われた。

「なあ、跡部。跡部は友人とキスした事あるか?」想像もしていなかった問い掛けに言葉を詰まらせていると、そのまま唇を重ねられた。

一体何が起きているのか考える暇もなかった。

「テメェ、何すんだよ!?」

「俺がしたいと思ったからしただけや。今日はこれくらいにしておくが……取り敢えず覚悟だけはしときや。」

呆然と立ち尽くす俺をよそに勝手な行動をして勝手な言葉だけを残して忍足は去って行った。

今日の部活の時間、俺はどうすれば良い……部長である俺が浮ついた状態で部活に臨んでいると、部活内に大きな影響が出てしまう。大会が近い今、その事態だけは避けなければ……。

午後の授業には身が入らなかったが部活の時間だ。気持ちを切り替えなければならない。

部室へ行くとレギュラー陣はもう来ていてユニフォームに着替えていたり各々時間を過ごしていた。

勿論、忍足の姿もある。忍足は向日と宍戸といつもと変わらない様子で昨日観たバラエティー番組の話をしている。

「なあなあ、侑士。あの芸人のコントってすげー面白いよな。」

「んー。俺から見ればあと一歩ってところやな。」

「忍足は笑いに厳し過ぎんだよ。俺もあのコンビ好きだし漫才もやるけど面白いと思うぜ。」

「だよなー、宍戸もそう思うよな!」

「ああ、漫才はおもろいと思うで。」

俺の姿に気が付くと「跡部、お疲れ。」「部長お疲れ様です。」と挨拶をしてくる部員達、俺はいつも通りを心掛けて「お疲れ。お前等、大会が近いんだから、いつも以上に気合を入れて部活に臨めよ。」と返した。

その日の部活は滞りなく進み、部内の士気が下がるどころか大会に向けて部員達が一丸となって練習に取り組んでいた。

俺もなんとか意識を練習に向けて満足がいく練習が出来た。

偶に忍足の様子を見てはしまったが、忍足は忍足でいつも通りにメニューをこなしていたので意識しない様に自分に言い聞かせていた。



 跡部の事を特別な目線で見始めたのはいつからやったやろか……。

二百人を超える氷帝学園テニス部の部長を務め、更には一年生の時から生徒会長を務めているカリスマ的な人物。

言動は俺様気質、それなのに人気者。レギュラー陣を始め、部員達への気配りを忘れないから信頼も厚い。

他校にも跡部のカリスマ性は名が知れている程や。

俺に持っていないものを全て持っている。最初に興味が湧いたきっかけはその部分やったかなあ。

俺は人付き合いはそつなくこなせるし、自分で言うのも変やけど「器用」な人間や「世渡り上手」な人間やと思っとる。

でも、それはあくまで上辺だけの話や。

俺には心を許せる相手が居ない。

生まれ故郷の関西から出て中学生ながらに一人暮らしをしているから、家に帰り独りだけの空間になると最初は寧ろ落ち着いて、この独りだけの時間が唯一の俺の癒しの時間やと思っていた。

氷帝で過ごす時間を重ねる度に、部員達と過ごす時間が色濃くなる度に俺に気持ちの変化が訪れてきていた。

岳人や宍戸とテレビ番組の話をするのも楽しいし、鳳や日吉といった二年生ながらにレギュラーの座を勝ち取っている後輩から頼られるのも悪い気はしない。

いつも何処でも構わず眠りこけているジローを樺地と供に探しに行っては起こす事も面白く思えていた。

自分は心を開けるタイプの人間ではないのに……いや、そうだからか、周囲の些細な変化や周りの人間の心の変化を読み取る事は得意やった。

いつも明るい岳人が少し変やなと思って「何かあったん?」と尋ねると案の定「親父と大喧嘩したから暫く家出するから侑士の家に泊めてくれよ!」と言われる。

そんな中で俺が一番、心の変化に気になった人物も跡部やった。

俺様な振る舞いや言動は自分にも言い聞かせている事なんやないか、「自分はこういう人間でなければならない」強迫観念にも似た感情を跡部からは読み取れた。

俺が「跡部、何かあったんか?」と尋ねても跡部は「この俺に何かがある訳ないだろう。」と鼻で笑われたんやけど、俺からして見ればその態度こそが、跡部が「誰かに頼りたい、自分の弱い部分も受け入れて欲しい」というシグナルやと思った。

そう考えて跡部と接している内に俺は特別な感情。恋愛感情を跡部に抱いていた。

その事に気が付いた時は正直、俺自身が一番驚いたんやけど、なんとなく跡部になら心を開ける、開いて貰えると思っていた。

恋愛事には疎い跡部やから俺は直球勝負でこの戦いに挑む事にした。

突然呼び出して、それとなく今好きな相手が居るかどうかだけを訊こうと思っていたんやけど自分の意志とは反して身体が先に動いてしまった。

まさか、いきなりキスをしたくなるとは思わなかった。

してしまった以上、もう後戻りは出来へん……。これからは俺の事を好きになって貰うしかない。

大会の直前で暴挙とも言える行動に出てもうた事は跡部には申し訳なかったから、せめていつも通りの忍足侑士を装った。

跡部はかなり動揺していたから練習に支障をが出てもうたらどないしようかと思ったが、跡部は跡部でいつも通りの跡部景吾のまま部室に現れた。

練習の最中に跡部の視線をいつもとは違う意味で感じていたんやけど、知らぬ存ぜぬを突き通した。

今は大会直前で俺にとっても氷帝テニス部にとっても大切な時期や。

この気持ちを実らせるのは落ち着いてからや。

恋愛事は時間を掛けて相手を翻弄したり駆け引きを楽しんだ方が結ばれた時の喜びも大きくなるやろうから。

跡部には悪いが俺は容赦なく跡部の気持ちを戸惑わせたり弄んでみたいと思ってもうた。

自分自身でもそんな考えを浮かぶ俺はだいぶ性格が歪んどると思うけど、この恋は始まったばからりやし、必ず成功させると俺自身に誓ったから。
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