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ヤクザに天誅

原作: その他 (原作:ブラック・ブレット) 作者: 金右衛門
目次

第一話

§

杉浦剛一はよくいる哀れな人間であった。



妻子を失い、職も失い、生きる意味を失った。

彼は幸せと呼べるものすべてを失ったが、これは特別彼に起こったことではない。

ガストレア大戦、西暦2021年に突如として世界中に現れたガストレアと人間の初めての戦争。

通常兵器の通用しないガストレアに人類は生活圏のほとんどを奪われ、今の閉鎖的なモノリスに囲まれた空間に追いやられた。

この悲劇を経験した者は”奪われた世代”と呼ばれ、彼もまたその一人である。



それでも彼は立ち上がることができた。

それは幼いことから彼の肉体と精神を鍛えたカラテの成果だったのか。

生来かれがそういう人間だったのか。

それとも天誅ガールズというアニメに心を癒されたのか。

それは定かではない。



だがかれは立ち上がる。

一人の男として、一人の正義の味方として、そして一人の魔法”少女”として。





§

「つまんないぃ」



六畳間に敷いた座布団に寝転がる少女、藍原延珠はそうつぶやく。

いまは丁度お昼を過ぎて直ぐ、蓮太郎が作り置きしてくれたお昼を食べ、さて一人でどう暇を潰そうかと一考。



そう、一人。

今日は平日であり、蓮太郎は当然学校に行っている。

延珠はというと、当然小学校に通わなければならない年齢なのだが、先日、自身が『呪われた子』であることが小学校にばれてしまって以来、追い出される形で自主退学し、そのまま次の受け入れ先待ち、といった次第である。



つまるところ、一人。



テレビをつけるも、つまらないドラマや興味のないニュースばかり。

大好きなアニメの録画も擦り切れるほど見てしまってはさすがに飽きてしまう。



「うが~~~~」



変な声を出してみるも、それで心が満たされる訳もなく。

とりあえず惰性でニュースを眺めてみる。





-続いてのニュースです。東京エリアに不審者出没とのことです。

不審者はアニメのコスプレをし、困った人を助けているようで。

本来であれば、非常に素晴らしい行動なのですが、その恰好が公序良俗に反するとのことで、警察は事情聴取のため現在捜索中とのことです。

この犯人については見つけ次第速やかに警察に連絡し、けして話しかけないようにしてください。



不審者は、40代前半とみられる男性。身長は190cm。黒いレオタードに白い着物を合わせたような、大人気アニメ『天誅ガールズ』のコスプレをしているとのことです。



繰り返します。この犯人については見つけ次第速やかに警察に連絡し、けして話しかけないようにしてください。--



藍原延珠は即座に理解する。黒いレオタードに白い着物。それは間違いなく天誅ブラックの衣装そのもの。

それを着て街で人助け。



「これだ!!」



天啓を得た延珠は先程の倦怠はどこへやら、満面の笑みをうかべ、押し入れをガサゴソと探索し始める。



「あった!」



これから始まる”事件”の現況とも呼べるアイテムを発掘されてしまう。



「くふ、くふふ」



”それ”を手にした少女は楽しそうに笑うのだった。





§



「あの、延珠さん」

「ん?どうしたのだ?ティナ」

「この格好…」

「おう、似合っておるぞ」

「…いえ、そういう訳ではなく」



そこには魔法少女が2人立っていた。

スカートと呼ぶにはあまりにも短い布に、大きなお友達に人気の露出が結構多い衣装。

それを身に包むのは友人である藍原延珠と、私。

ティナ・スプラウトはなぜこうなってしまったのか思案する。



朝、いつも通り眠りながら木更さんを見送り、そのまま眠り続けて午後1時。

突然、延珠が押しかけてきて一言。

「ティナ!妾たちで天誅ガールズをやるぞ!」



この時点で意味不明だったのだが、それを聞き返す能力が寝ぼけた自分にあるはずがなく。

寝ぼけまなこの自分がなんと返事をしたのか明確に覚えていないけど、おそらく「はい」とかそんなことを言ってしまったのだろう。

あれよあれよという間に、以前、蓮太郎さんに見せるために着た天誅ピンクの衣装を着せられてしまっていた。

回想おわり。



スカートを下に引っ張ってみるが、膝どころか太ももすらろくに隠れていない。

よくも過去の自分はこれで人前、それも蓮太郎さんの前に立ったものだ。



「ん?」



横の魔法少女、天誅レッドこと藍原延珠はとても無邪気な笑顔を浮かべている。

実際彼女には邪気のかけらもないのだろう。

蓮太郎さんたちが学校に行っている時間暇なのは一緒だし、暇を潰そうとよく2人で過ごしている。

今日もおそらくその延長であり、延珠のテンションの上り様からしてよほど彼女の中でいい思い付きがあったのだろう。

文字通り目がキラキラしている。

そんな彼女の期待を裏切ってしまうことを考えると、今からイヤとは言いずらい。



「それで、何をするんですか?」

「おぅ、大事なことを話してなかった!妾たちはこれから天誅ガールズとして困っている人を助けるのだ!」

「…はい?」



ティナは後に、ここで強く断っておけばあんな面倒なことにはならなかったのに、と後々後悔することを今はまだ知らなかった。

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