1話 プロローグ
正直に言うと、こんな能力を持って生まれてきたくなかった。
ごくごく平均に、平凡に。
特異な能力はもちろん、秀でた才能だっていらない。
だけど、自分の親を選ぶことができないのと同じで『どんな人間として生まれてくるか』を自分で決めることはできない。
それが忌々しくてたまらなかった。
ーーうわっ、今日もあいつの服装やばすぎ。
ーーあー……。学校だる……。
ーーホントつまんねぇ。
この街は常に喧騒に包まれていて、あたしのような人間は普通の人間と比べたら、もっともっとうるさく感じる。というか、うるさい。
周りの人たちの心ない言葉とか、訳のわからないこととか、冷たい思考とか。その全てが筒抜け。
ねえ、みなさん。全部聞こえてますよー。
これだから毎日疲れるし、人混みが大嫌いだ。
『本日未明、××区の女子中学生が首を吊った状態で発見されました。警察の調べでは自殺であるとされ、学校側はーー』
ちょうど近くの大きなモニターに移されたニュースと、聞こえてきた音声にふと足が止まる。
『……やはり、自分で命を絶ってしまうことが多いみたいですね』
『ええ。その特異な体質がいじめの標的となりやすいのでしょう』
『どうにかならないのでしょうか。近年、精神遠隔感応者の自殺が増えています。我々はーー』
モニターを見つめていた顔をおろし、あたしはまた歩き始める。
あの先の言葉にはもう興味がない。どうせ、専門家に話を伺いに行ったとか、そんなところだろう。
話を伺いに行ったところで、どうにかできる問題でもないのに。
「あれ〜柚木さんじゃん! 偶然だね〜、こんなところで」
後ろから肩をぽんと叩かれ、振り向く。
「わぁ、びっくりしたっ。……天笠さんか。ホント偶然だね」
本当はびっくりもしていない。彼女があたしの半径三十メートル以内に足を踏み入れた瞬間から、心の声がばんばん聞こえてきていた。
漢字にすると、精神遠隔感応。英語ではテレパシー。
あたしは、テレパシーが使えてしまう特異な体質とやらであるテレパシストと呼ばれる人間だった。
「ごっめーん、驚かせちゃって!どこか行くところだったの?」
「うん、ちょっと買い物でも行こうかと思って。天笠さんは?」
「私はこれからデートなんだぁ〜」
「へぇ、良いねっ。彼氏?」
「うん、そんなとこ〜」
ーーまぁ彼氏じゃなくてお姉ちゃんなんだけどねっ。っていうか立ち話なんかしてる場合じゃなかった! お姉ちゃんもう着いてるかなぁ〜。
「それじゃ柚木さん、また学校でね!」
「うん、楽しんできてね」
ーーはぁ〜緊張してきたっ。お姉ちゃん、今日の髪型褒めてくれると良いなぁ〜。
ーーお姉ちゃんと久しぶりのデート、嬉しすぎて心臓やばっ……。
ぱたぱたと駆け足で、天笠さんがあたしの前から居なくなっていく。
ふーん……。自分の姉と会うだけなのに、何故ウソを吐く必要があるのだろう。
まあ、そんなことどうでも良いか。
誰だって、人に言いたくないことや知られたくないこと、秘密の一つや二つは持っているものだ。
あたしのようなテレパシストがいつから生まれるようになったのか……。
前に歴史の授業で習ったような記憶があるけど、興味がなかったので覚えていない。
そしてあたしたちテレパシストは、普通の人たちに嫌われている。無理もない話だ。
さっき見たニュースの通り、テレパシストであるが故に周囲の人から恐れられ、避けられる。
そういった負の感情はよくも悪くも大きなエネルギーとなり、やがていじめへと発展させる。
信じていた人たちから裏切られ、その苦痛と孤独感に耐えられずに、自ら死ぬことを選択する。
しかし、そういう人たちはテレパシストの中でもほんの一握りだ。
不謹慎かもしれないけれど、そういう人たちというのは自分がテレパシストであることを周囲に打ち明けても『きっと受け入れてくれる』という何の根拠もない夢を見た人たちである。
そんな希望を抱きさえしなければ、あたしたちがいじめに遭うことはない。
だって、人の心が読めるから。
顔色を伺うとか、そんなレベルじゃなくて、そのまんま。人が考えていること、思っていることがそのまま分かる。だから相手の欲しい言葉や欲している態度、全てが分かってしまう。
そういうわけで、滅多なことがない限りは遭わない。絶対に。
それと、テレパシストは希少な人間であるとされている。
ああやって自らテレパシストであることを打ち明ける人たちが、ほんの一握りだからそう思われているんだろうけれど、実際のところその数はかなり多い。
少なくとも世間の想像よりは遥かに多いはずだ。
身近なところで言うなら、クラスメイト。
あたしのクラスには、今分かっているだけでもあたしを含めて三人もテレパシストが存在している。
これにはさすがにあたしも驚いた。
まあ、あの子とあの子がテレパシストだと判明したところで、他のクラスメイトにバラしてやろうとか、そんなことは微塵も思わないし、他の二人だって同じ考えだろう。
テレパシストの苦悩は、テレパシストである本人が一番理解している。
あたしの願いはただ一つ。
ごくごく平凡に、いたって普通の生活を送りたい。
ただそれだけだった。
ごくごく平均に、平凡に。
特異な能力はもちろん、秀でた才能だっていらない。
だけど、自分の親を選ぶことができないのと同じで『どんな人間として生まれてくるか』を自分で決めることはできない。
それが忌々しくてたまらなかった。
ーーうわっ、今日もあいつの服装やばすぎ。
ーーあー……。学校だる……。
ーーホントつまんねぇ。
この街は常に喧騒に包まれていて、あたしのような人間は普通の人間と比べたら、もっともっとうるさく感じる。というか、うるさい。
周りの人たちの心ない言葉とか、訳のわからないこととか、冷たい思考とか。その全てが筒抜け。
ねえ、みなさん。全部聞こえてますよー。
これだから毎日疲れるし、人混みが大嫌いだ。
『本日未明、××区の女子中学生が首を吊った状態で発見されました。警察の調べでは自殺であるとされ、学校側はーー』
ちょうど近くの大きなモニターに移されたニュースと、聞こえてきた音声にふと足が止まる。
『……やはり、自分で命を絶ってしまうことが多いみたいですね』
『ええ。その特異な体質がいじめの標的となりやすいのでしょう』
『どうにかならないのでしょうか。近年、精神遠隔感応者の自殺が増えています。我々はーー』
モニターを見つめていた顔をおろし、あたしはまた歩き始める。
あの先の言葉にはもう興味がない。どうせ、専門家に話を伺いに行ったとか、そんなところだろう。
話を伺いに行ったところで、どうにかできる問題でもないのに。
「あれ〜柚木さんじゃん! 偶然だね〜、こんなところで」
後ろから肩をぽんと叩かれ、振り向く。
「わぁ、びっくりしたっ。……天笠さんか。ホント偶然だね」
本当はびっくりもしていない。彼女があたしの半径三十メートル以内に足を踏み入れた瞬間から、心の声がばんばん聞こえてきていた。
漢字にすると、精神遠隔感応。英語ではテレパシー。
あたしは、テレパシーが使えてしまう特異な体質とやらであるテレパシストと呼ばれる人間だった。
「ごっめーん、驚かせちゃって!どこか行くところだったの?」
「うん、ちょっと買い物でも行こうかと思って。天笠さんは?」
「私はこれからデートなんだぁ〜」
「へぇ、良いねっ。彼氏?」
「うん、そんなとこ〜」
ーーまぁ彼氏じゃなくてお姉ちゃんなんだけどねっ。っていうか立ち話なんかしてる場合じゃなかった! お姉ちゃんもう着いてるかなぁ〜。
「それじゃ柚木さん、また学校でね!」
「うん、楽しんできてね」
ーーはぁ〜緊張してきたっ。お姉ちゃん、今日の髪型褒めてくれると良いなぁ〜。
ーーお姉ちゃんと久しぶりのデート、嬉しすぎて心臓やばっ……。
ぱたぱたと駆け足で、天笠さんがあたしの前から居なくなっていく。
ふーん……。自分の姉と会うだけなのに、何故ウソを吐く必要があるのだろう。
まあ、そんなことどうでも良いか。
誰だって、人に言いたくないことや知られたくないこと、秘密の一つや二つは持っているものだ。
あたしのようなテレパシストがいつから生まれるようになったのか……。
前に歴史の授業で習ったような記憶があるけど、興味がなかったので覚えていない。
そしてあたしたちテレパシストは、普通の人たちに嫌われている。無理もない話だ。
さっき見たニュースの通り、テレパシストであるが故に周囲の人から恐れられ、避けられる。
そういった負の感情はよくも悪くも大きなエネルギーとなり、やがていじめへと発展させる。
信じていた人たちから裏切られ、その苦痛と孤独感に耐えられずに、自ら死ぬことを選択する。
しかし、そういう人たちはテレパシストの中でもほんの一握りだ。
不謹慎かもしれないけれど、そういう人たちというのは自分がテレパシストであることを周囲に打ち明けても『きっと受け入れてくれる』という何の根拠もない夢を見た人たちである。
そんな希望を抱きさえしなければ、あたしたちがいじめに遭うことはない。
だって、人の心が読めるから。
顔色を伺うとか、そんなレベルじゃなくて、そのまんま。人が考えていること、思っていることがそのまま分かる。だから相手の欲しい言葉や欲している態度、全てが分かってしまう。
そういうわけで、滅多なことがない限りは遭わない。絶対に。
それと、テレパシストは希少な人間であるとされている。
ああやって自らテレパシストであることを打ち明ける人たちが、ほんの一握りだからそう思われているんだろうけれど、実際のところその数はかなり多い。
少なくとも世間の想像よりは遥かに多いはずだ。
身近なところで言うなら、クラスメイト。
あたしのクラスには、今分かっているだけでもあたしを含めて三人もテレパシストが存在している。
これにはさすがにあたしも驚いた。
まあ、あの子とあの子がテレパシストだと判明したところで、他のクラスメイトにバラしてやろうとか、そんなことは微塵も思わないし、他の二人だって同じ考えだろう。
テレパシストの苦悩は、テレパシストである本人が一番理解している。
あたしの願いはただ一つ。
ごくごく平凡に、いたって普通の生活を送りたい。
ただそれだけだった。
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