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初恋キラー

ジャンル: 現実世界(恋愛) 作者: 渚
目次

初恋キラー

初恋。
それは、甘酸っぱく、そして、苦いモノ。
誰でも一度は経験する、奇跡のような出来事。

今日、俺は彼女に告白する。
そう決意を決めて、彼女と二人肩を並べて歩いている。

俺と彼女の出会いは、どこにでもあるありふれたモノだ。
入学式に彼女を見かけた俺は、そのまま気が付くとずっと彼女を目で追ってしまっていた。そして、運命的にも同じクラスで席が隣同士という偶然が続いた。

「おはよう。」

「おぅ。おはよう。」

そんな何気ない会話も、俺にとっては大きな幸せの瞬間だ。
クラスメイトとして、友人として、何気ない会話が出来るという特権をフル活用して、俺は青春の最初のページを彩っていった。
そんなある日、彼女が知らない男と歩いている所を目撃してしまう。楽しそうに会話をしている彼女の笑顔が、俺の心を抉ってきた。
締め付けられる心臓の苦しさで、その日はろくに寝る事も出来なかった。彼女とその知らない男の関係が気になってしょうがない。
何故だろう・・・
俺は、最初この胸の苦しみがなんなのかわからなかった。
そんな日が1週間も続くと、気になって気になって仕方がない。よく話すクラスの友人という特権をここぞとばかりに公使した俺は、震える手足に全神経を集中し、堂々とした態度で彼女にそれとなく男との事を聞き出す勇気を振り絞った。

「あのさ・・・先週、男と一緒に歩いている所を見たんだけど・・・
本当、偶然ね、偶然。
あれって、おまえの彼氏とかなの?いや、別に気になるとかそういうんじゃないんだけど、おまえって、モテるのかなってちょっと気になって。彼氏がいても可笑しくないんだけど、もしかして付き合っている奴とかいるのかなって・・・
大したことじゃないんだけど、少しだけ。少しだけ気になったから、ちょっとだけ聞いてみようかなって思っただけで、そんなに深い意味はなんだけど・・・」

「もしかして見られちゃった?」

「え?」

「先週は偶然親戚のお兄ちゃんが遊びに来てて。いつも仲良くしてるんだけど、おごってくれるって言うから、一緒に出かけてただけだよ。
彼氏は欲しいと思うけど、なかなかね。誰か私と付き合ってくれるような優しい男子はいないもんかね。」

「そ、そうか。いやおまえを好きになる男って、ど、どんな男なんだろうな。
はは、ははは、あ~はぁ。」

彼女との話で安堵した俺は、叫びたくなる気持ちをグッと抑え心の中で大きなガッツポーズをした。そして、足の震えが復活した時には、緩く握りしめた手のひらが汗でいっぱいになっていた事に気が付いた。
そうか、彼氏じゃなかったのか。彼氏っぽくなかったもんな。
彼氏疑惑という俺史上の大問題がすんなり解決した後は、いつも通りの仲良しのクラスメートで友人という当たり前ではあるが、今はまだ大満足という関係に戻った。
彼女は、普段あまり男子と会話をしている姿を目にしない。そういえば、女子とも仲が良いそうにしている奴もあまり見ない。仲良く話をするのは俺くらいなもんだ。
だからきっと、彼女も俺の事が気になっていると思って間違いないはず。
そんな胸いっぱいの期待が、日増しに俺を埋め尽くしていった。
彼女と出会って1年半。2年目も同じくラスという偶然に、俺は神に感謝すらしている。
しかし、友人という関係を続けてきた俺と彼女の関係を大きく変える出来事が、夏を目前した今日、突然起こってしまった。

「俺、隣のクラスの香織と付き合うことになったんだ。」

入学してからずっと仲間の友人に彼女が出来た。

「これで、今年の夏はいつもと違う大人の夏を過ごせそうだぜ。夏休みが楽しみでしょうがねぇ。ところでおまえは彼女と進展あったのかよ?!」

「俺は関係ないだろ。別に。」

「関係あるって。おまえが彼女と付き合えば、ダブルデートだって出来るんだぜ。夏がもっと楽しいモノになりそうな気がしねぇか?」

「ダブルデートか・・・確かに。」

「夏の開放感だけじゃなく、みんな一緒という気持ちの緩みが、身も心も解放してくれるんだよ。だからおまえが彼女と付き合えば、俺も夏はさらに満喫出来るって計画だ。もちろんおまえの夏も大満足な結果が待ってるぜ。」

「結局おまえ得なプランかよ。でも、その案は美味しいな。
よし!男は度胸だ!俺も男を見せてやるか。」

「その調子だ!友よ!!」

「おうよ!そして一緒に大人の階段を駆け上がろう!!」

俺たちは熱い友情でがっちりと握手を交わしたが、俺は内心挙動不審でたまらなかった。
だって彼女に告白するって、どんだけの度胸だよ。
もしこれが失敗でもしたら、目も当てられない。あいつの勢いに乗せられた自分に自己嫌悪した俺は、ベッドの上で枕を相手に告白の猛特訓を開始した。
そして、いよいよこの日がやってきた。一番の友人と交わした約束から1ヶ月たったある日、俺と彼女は下校が重なり一緒に帰る事になった。
この機会を逃すと、次はいつになるかわからん。
周りに誰もいないことを確認した俺は、決死の覚悟で彼女に話しかけた。

「あの、さ・・」

「なに?」

「俺たちって、仲良いよな。」

「?。そうね。でもどうした?」

「いや、あの、別に、いやそういうわけじゃなくて。だから、あのさ・・・」

「なに?なんか恐い顔してどうしたの?」

「お、お、お、お俺達、付き合わね?」

「あ~はいはいそれね。良いよ。私もあんたのこと好きだし。」

「だよな・・・やっぱり俺のことなんて彼氏よりも友人・・・!!
マジ?!マジでマジ?!」

「なに?マジで付き合うよって言ってるんだから、そんなに何度も言わないでよ。」

「いやったーーーーーー!!」

「そんなに嬉しいの?」

「だって、俺ずっと前からおまえの事好きだったから。付き合うとか本当に出来るとか思ってなかったし。」

「そんなに私の事好きだったの?」

「ここだけの話、マジで一目惚れってやつだったから。マジで。」

「ふ~ん。もしかしてコレって初恋?」

「初恋?ん~そう言われてもよくわかんないけど、多分そうじゃないかな?」

「ふ~んそうなんだ。だったら・・・・」

「え?なに?」

彼女の顔が人為らざる顔になっていく様子は、うっすらと靄がかかってうまく思い出せないが、記憶の奥底にある恐怖だけはなんとなく覚えてる。
禍々しい雰囲気をまとった彼女は、もう人の形をしていなかった。

「じゃぁ、いただきます。」

そう言って、彼女は俺の唇を奪った。と言うか、俺の頭をすっぽりと彼女の口が覆った。

キュッポン!

何かを吸い出されたようだが、俺の体に異変はなく、力が抜けたように俺はその場に座り込んで深い眠気に襲われた。そして、そこへ通りかかった警察官に起こされた。

「君!君!大丈夫か?!
こんな道路の真ん中で倒れ込んで、いったい何があったんだ?」

「あ、あぁ・・・ここは?」

「意識はあるようだね。いったい何があったんだ?」

「・・・何があったんだろう。」

気が付くと、俺は一人で下校途中の道端に倒れ込んでいた。
とっても大事な何かを忘れてしまっているモヤモヤが残っているが、何故か頭と心はスッキリしている。そして、さっきまで何をしていたのか全く思い出せない。
何故俺はあんな道端で倒れていたんだろう?
ぼーっとする頭のまま、その日は晩ご飯も食べずに疲れ果てている体をベッドに乗せると、フッと意識を失うように俺は眠りに就いた。
翌日、彼女は学校にいなかった。同じクラスの友人はもちろん、学校の誰に聞いても誰一人彼女の事は知っている奴はいなかった。
俺は、誰かの事をずっと考えていた気がするが、全く思い出せない。
俺は、一体誰の事を想っていたんだろう・・・
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