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ここではないどこかで神をしのぐ謀

原作: その他 (原作:PSYCHO-PASS サイコパス) 作者: 十五穀米
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亀裂

「……なにがいいたい? おまえ、執行官じゃないな? 誰だ!」
「……元監視官だ。元執行官であったと言ってもいいか」
 その会話を聞いていた分析室の宜野座は歯ぎしりをしながら「狡噛のやつ……」と怒りを露わにしていた。
「その元執行官……ん? はっ、そうか。その姿はホロだな。中にいるのは誰だ? 槙島か? 槙島には困ったものだと母さんは言っていた。今、おまえをどうにかしたら、母さんは喜んでくれるだろうか」
 分析室にいる槙島が苦笑いを浮かべる。
「ボロが出始めましたね。僕と美沙子の関係を言ってしまうなんて。それに、僕がホロを被っていると思っている。これはどういうことだろうね。チェ・グソンはどう考える?」
「そうですね。こちらの東金朔夜はドミネーターで処理をされたんでしたっけ? 脳がどれだけ残れたかにもよるとは思いますが……」
 と、執行官の面々を見回した。
 直接下したのは霜月監視官だが、彼女はそれに答える気はないらしい。
 代わりに六合塚が話す。
「どこに標準をあわせるかにもよるけど、だいたいは頭ごと……かしら。脳の一部が残っていたというなら、奇跡かもしれないわね」
「……ありがとうございます。あの東金朔夜の記憶は作り物でしょうね。最高傑作と自賛していようで、育成記録はかなりとっていたようです。ところが、朔夜を置いて美沙子が逮捕される。そこで記録が止まってしまい、それ移行はそういうものだとして必要な情報を覚えさせたのでしょう。精神面も低く、駆け引きでは負けるでしょうね」
「つまり、チェ・グソンは、東金朔夜の記憶をそっくり受け継げているはずがないと?」
「そういうことです。槙島さん。と当時に、縢のクローンも同じ。秀星とそっくりな記憶は受け継いでいない。むしろ、まっさらのままでこの世に出したのでしょうね。それで疑問なんてすけどね。どうやって秀星の細胞を接種できのでしょうか? 公安はそういったものを保管するのですか?」
 それには唐之杜が答える。
「イエスかノーでいえば、ノーよ。とはいえ、私たちの知らないところでなにをしているのかは不明。組織なんて、そんなものでしょう?」
「……たしかに。となれば、ラスボスが出てこなければ収束しないようにし向けてしまえばよいのですが、さてさて、どうなりますことやら」
「……狡噛なら、やる」
「おや、仲違いしているようで、実は信用しているのですね、宜野座執行官は。そういうの、ツンデレというのでしたっけ?」
「……っう、うるさい!」

※※※

「母親を喜ばせたい。考え方が幼稚だな。あんたくらいの歳にもなれば、母親にらくさせてやりたい、くらいのことを考えるんじゃないか? おまえ、見た目よりガキだな」
 狡噛が責める。
「うるさい! おまえになにがわかる! 母さんは俺のすべてだ!」
「その母親の愛情確認のために、おまえはなにをやってもいいと勘違いをしている。そうではないというなら、誰の指示で常守監視官を拉致した?」
「その女は、母さんの邪魔をする。だから隠した」
「隠した?」
「ああ、そうだ。隠しただけだ」
「本当は指示をされたんだろう? たとえば、公安の誰かに……」
「ち、ちが……こ、公安に、知り合いはいない」
「公安に顔見知りがいるのかとは聞いていないが、その言い方だと、いると言っているようなものだ。それは誰だ? まさかとは思うが、禾生局長じゃないよな?」
 流れを見守る宜野座は、責めすぎだと感じる。
 しかし、朱はまだ狡噛のやりたいようにやらせるつもりらしい。
「ん? 禾生局長じゃないのか……じゃあ、誰だ? ふん、黙秘か。ならば質問を変えようか。おまえ、自分の生い立ちを覚えているな? 覚えているかぎりことを話せ」
 狡噛はなにを聞き出したいのか、意図が見えない。
 それは聞かれた朔夜も同じらしい。
 疑心に満ちた視線で狡噛をみながら、ポツリポツリと生い立ちを語る。
 人は一番古い記憶は何歳の頃だろうか。
 インパクトのあるなにかを体験すれば、かなり昔の記憶も鮮明に覚えているかもしれないが、だいたいの人は小学生くらいからだと思う。
 ところが、朔夜は、小学生よりも幼い、幼少の頃からのことを事細かく語っている。
 しかし、十代半ばを過ぎると、記憶があやふやになり、二十代三十代になると、数日前のことは話せても先週、先月の話になるとアバウトな記憶へと変わっていく。
「おかしいな。普通は今の歳に近い記憶ほど鮮明になるものだ。先週のことも思い出せないなんて、記憶障害でも起こしているんじゃないか? それとも、その記憶は植え付けられたものか?」
 植え付けられた……という言葉に過剰反応した。
 発狂したように叫び、爆発したように暴れる。
 まるで、子供が自分の思い通りにならないことで癇癪をおこしている時と似ている。
 相手を説得させられるだけの知識や語弊に乏しいからこその現れであると読みとれる。
 鎮静剤投与で落ち着かせ、今日の取り調べはここまでとなった。

※※※

「狡噛! やりすぎだ!」
 戻ってきた狡噛を見た宜野座は、彼の胸ぐらを掴み怒鳴る。
 しかし、自分のホロを被っている狡噛相手ではなんとも妙な気分になり、バカらしくなる。
「まあまあ、宜野座執行官。これはこれでいいデータが取れたことですし。結果がよければすべてよしということで」
 と、チェ・グソンが場を和めた。
 朱は彼らのやりとりをスルーして、征陸と槙島の前に一歩進み出る。
「おふたりの意見を聞かせてください」
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