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ここではないどこかで神をしのぐ謀

原作: その他 (原作:PSYCHO-PASS サイコパス) 作者: 十五穀米
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真っ黒

 征陸はじっと青柳を見据えた。
 無理して聞き出そうとは思わない。
 彼女が提供者の人命を優先するように、自分が訊ねてきたことで彼女を危険にさらすわけにはいかない。
 ただ、彼女の覚悟の度合いを知りたかった。
「いい目をしているな、あいかわらず。新人の頃とかわらない、澄み切った強い目だ」
「力は弱い者を助けるためにふるうものと思っています」
「ああ、そうだな」
「征陸さんも、出会った頃とかわらず、まっすぐな思いが伝わってきます。あなたの正規を貫いてください。征陸さんが部署異動してから、あまり顔を合わせませんでしたが、お変わりなくて安心しました。関連資料は、こちらです。私は席を外します。好きなだけみていってください。お帰りの時にお声掛けください。ただ、黙って書き写して持ち出すのはやめてくださいね」
「……わかっている。すべて、俺の脳に記憶して持ち帰る」

※※※

 征陸が戻ったのは、ほぼ半日ほど時間が過ぎた頃だった。
 残っていた面々はそれぞれで時間を使い、朱に至ってはこのところまったく休めていなかったこともあり、十分な睡眠をとることにした。
 今では頭がスッキリとし、冴えている感がある。

「待たせたな」
 と、征陸が戻ると、「まったくですよ」とチェ・グソンが野次る。
 それくらいのゆとりが戻りつつあった。
 捜査に進展を求めるなら、リセットは欠かせない。
 休憩をとり、別の視点から物事をみる。
 今の彼らにそれを求めるこたができると確信し、征陸は持ち帰った情報を共有するため、口を開いた。

「今回の件な、奥が深すぎる。またここ数年じゃすまないくらいの年月をかけて行われているとも考えられる。情報提供者の人命を優先したい。メモはとるな、記憶に刻め、いいな?」
 場にいた者たちが頷くのを確認した。

「かなり前だが、縢家当主夫妻が不在中に、赤ん坊が消える事件があった。任されていた乳母が少し目を離した隙に忽然消えてしまう。焦った乳母は屋敷中を捜し、そして当主夫妻に連絡をした。すると知人の刑事に連絡をするようにと言われ、乳母は指示通りに動いた。ところが知人の刑事が到着する少し前に、消えたはずの赤ん坊が戻っていた。そのため、乳母の精神状態が疑われることになる。縢家使用人の勤務状態なども徹底的に調べられ、結果、乳母には精神鑑定が行われた。正常な精神状態ではなかった。縢家の息子を預かる重責に堪えられなかったための虚言であるとして片づけられている」
「それはいけませんね」とチェ・グソン。
「虚言は自分に得がないとする意味がありません」
「まったくもってその通りだ。だから乳母は自分の証言は正しいと、鑑定した医師を相手に訴訟を起こしている」
「起こしている……という言い方は、却下されたということですか?」
「ああ、圧力で却下、さらにもみ消されている。その乳母は自らの命をかけて自分の証言が正しいと訴えた。縢家の前で焼身自殺をしたんだ。で、この事件の初動に俺は加わった」
「……ん? 妙に他人事のように聞こえますが?」
「関わったはずなのに、すっぽりと記憶が抜け落ちているんだよ。でな、まあ、もろもろ詳細は省くが、警察組織が記憶操作を捜査員にしたいたらしいんだ」
「おやおや、これは大問題だね。警察を信じている庶民への裏切り行為だよ?」と槙島。
「今は、その件はスルーしてくれ」
「別にいいですよ。警察組織相手に喧嘩売れるほど、今の僕にはまだ力はないですから」
「助かるよ。で、話を進める。その乳母は亡くなる前に信用している人物にすべてを告白している。その内容がな……」
「もったいぶらないでくださいよ、征陸さん」とチェ・グソン。
 だが、征陸はもったいぶっているわけではなさそうである。
 単純に、とてもいい難そうなだけのように見えた。
「表向きには、赤ん坊が縢家本家の嫡男ってことになつているが、実はもうひとり息子がいたのだという。出生届がでていないことから、もしかしたら養い子や使用人の子供ではないかとも思われるが、乳母がいうには縢家の嫡男だとはっきり言っている。ただ、それを知っているのは限られた使用人だけで、いつもはある部屋に隔離されていたという。赤ん坊が消えた時、親がいないこともあり、その子は約束を破り部屋を出た。赤ん坊が寝ていたゆりかごの近くに立つ子供、そして赤ん坊は絶命していた」
「征陸さんは、乳母がそれを隠すために隠蔽行為をし、その後、罪の呵責に耐えかね真実を語ったけれどもみ消されたと?」
 朱はそう読み解いた。
 しかし征陸は首を横に振る。
「隠蔽指示をだしたのは当主夫妻だ。最初の連絡先は東金財団」
 場の者たちの顔色が変わる。
「死者の蘇生でもしたのか、東金は」と、怒りを表す槙島。
「それはまずありえません。だが、警察の目は誤魔化さなくてはならない。なにかカラクリがあるはずです」とチェ・グソン。
「そうじゃない、警察もグルなんだ、そうだろう? あんたは最初に言った。知人の刑事に連絡をするようにと指示を出したと。順番は、東金、そして刑事だ。東金も警察と繋がり、それぞれが結託して隠蔽し、乳母にすべてを背負わせ死なせ、終わらせた」
 狡噛の見解に、征陸が強く頷いた。
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