ネット喫茶.com

オリジナル小説や二次創作、エッセイ等、自由に投稿できるサイトです。

メニュー

ここではないどこかで神をしのぐ謀

原作: その他 (原作:PSYCHO-PASS サイコパス) 作者: 十五穀米
目次

縢秀星

「そうなると、ますますその縢のぼっちゃんは俺の知っている縢秀星に間違いないな。コウもそれで異論はないだろう?」
「ああ、そういうことならな。巻き込まれて飛ばされたか」
「実はな、あの家もいろいろあってな」
「金持ちの考えることなんざ、凡人にはわからないね。俺としては、まずは俺自身がどうするかが問題だ」
「まあ、そう急くなコウ。戻れるまで休戦、共同戦線といこうじゃないか」
「警察が俺を見逃すのか? ありえないな。戻った瞬間とっつかまえるとかごめんだぜ」
「それはしない。約束する」
 ふたりの会話から、征陸は刑事、狡噛は刑事と敵対する側であることがわかってくる。
 朱は思う、狡噛が監視官から執行官へと格下げになり、そこから潜在犯ではなく犯罪者となっても自身の正義を貫こうとする思いはどの世界の狡噛も同じなのだと。
 刑事と敵対しているから悪というわけではないことを、狡噛の姿を見て知った朱には、目の前にいる狡噛が悪であると簡単に片づけられないような気がした。
 なにより、刑事である征陸が、狡噛のことを信頼しているのだ。
 敵対関係にありながら信頼し合える関係とは、最終的な思いは同じだけど経緯が受け入れられない、またはそれでは達成できないという思いがあるからだろう。
 ふたりの抱えている問題は、単にもとの世界に戻るだけで終わるようなことではない。
 戻ってもまだ先があるのだと感じた。
 朱がこんなことを考えている間、狡噛も落としどころを考えているのか、黙ってしまう。
 征陸は狡噛の出す答えをただ黙って待っている。
 朱と宜野座はふたりの出す答えを待つしかなかった。

 その同時刻、この様子を見ていた別室の一係と唐之杜は……

※※※

「相手の意見や考えは関係ない。潜在犯なんだから拘束して無理矢理にでも聞き出せばいいのに」と、霜月美佳。
「薬を使ってでも……てことかしら? 私は嫌よ。命令には従うけれど、後味が悪いもの。それに、朱ちゃんに見損なわれたくないし」と唐之杜は過去の経験から好ましくない選択肢であると意見した。
「常守監視官なら、もっと別の考えを提案すると思います」と六合塚。
 それに雛河が頷くと、霜月監視官は誰にも同意されないことに苛立ちを募らせる。
 須郷は黙って成り行きを見守っていた。
 もともと征陸と狡噛と面識がある者としては、同一でありながら別人であると頭では理解していても感情はそうではない。
 できるだけ穏便にこの件を完結したいと思うのは、人としての感情として普通のことだろう。
 しかし、公安局の刑事課としてはそう生ぬるいことは言っていられない。
 感情抜きでいけば霜月監視官の言っている方法が一番手っ取り早いのもわかっていた。

※※※

 沈黙は時の流れを長く感じさせてしまう。
 どれくらいの沈黙だっただろうか、狡噛が顔をあげ、征陸をみる。
「いいぜ、とっつあん。こっちにいる間だけ停戦だ。それで、そっちの監視官、あんたたちは俺たちになにを望む?」
「望むとは?」
「決まっている。あんたたちとしてはこの世界にいないはずの俺たちにはさっさと出て行ってほしいはずだ。こちらとしては戻る方法を見つける間の保護を求める。その見返りだ。まあ、だいたいの予測はできる。縢のボンボンも連れて戻れってことだろう? 子供の保護は警察の管轄だから、頼めばとっつあんが責任もって対処する。だろう?」
 と語尾は征陸へと視線を向けた。
 向けられ同意を求められた征陸はただ頷く。
「わかりました。三人を監視官権限で保護します。ただ、外に出るときは私たちも同行します。また情報の共有を求めます」
「同行するのはいいが、情報の共有ね。俺は構わないが、警察の方はどうだろうな」
 狡噛が征陸をみた。
「そりゃダメに決まっているだろうが。だがな、緊急事態であるわけだし、それに知ったところでこっちの世界の者たちがその技術を得てしまえる可能性はほとんどないと考える。問題はないんじゃないか、コウ」
「……だそうだ。なら俺としては問題はない。全面的にそちらの要求を聞き入れる」
「ありがとうございます」
「それで、保護はどうするつもりだ? 俺はともかく、とっつあんはもう亡くなっているんだろう? そんな人間が彷徨くのは……」
「ホロで誤魔化そうと思います。該当スキャンにも引っかからないよう、その辺りは唐之杜さんと相談してみないとわかりませんが」
「人の知能とシビュラの知恵比べか。楽しそうだな」
「そうなりますね。シビュラを欺けるか自信はありませんが。ところで狡噛さん、ずいぶんとこちらのことをご存じですね。そのあたりを聞いてもいいですか?」
「シビュラに管理されているあんたたちが、こちらの技術をまねできるとは思わないっていうとっつあんの意見を信じるってことで説明するとな、俺たちの組織はあっちこっちといろいろ飛び回っている。潜入するのに必要な情報を調査員が集め共有する。こっちの世界ではシビュラってコンピュータに管理された世界だから、侵入者はすぐにバレてしまうとかな。もちろん追われる立場なもんで、行った先の警察関係の情報も把握しているってわけだ。本来なら……」
目次

※会員登録するとコメントが書き込める様になります。