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少しは自覚して?

原作: その他 (原作:刀剣乱舞) 作者: 秋海
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少しは自覚して?

審神者の仕事というのは意外と忙しく、多岐に渡る。
刀剣男子たちの維持はもちろん、本丸の整備、審神者たちが集まる会議への出席、他の審神者との連携、担当地域の安全確認、出陣命令などなど…。
基本は刀剣男子たちに任せられるまでになったものの、新しい刀剣が出現するたびにその輪が乱れたり、誰かといざこざが起きたり。
まだうちの本丸は平和なほうですよ、なんて他の審神者に言われたりもしたけれど、男所帯に1人紅一点というのもなかなか大変なものがある。

「ああ~誰か1人でもいいから女の子がほしいなぁ~」
「え~?ボクじゃだめ?」

うわ!と思わず声を上げて振り返れば、そこにいたのは乱だった。

「なんだ乱ちゃん、脅かさないでよ」
「ごめんごめん、そんなに驚くと思わなかったの」

はいこれ、と代わりに差し出されたのは、昨日の遠征で持ち帰ってきた資源を入れた袋。
新しく出現した短刀たちを連れての練習を兼ねた遠征だったため正直資源は期待していなかったが、少しは確保できたらしい。

「ありがとう、確かにいただきました」

偉いね、と頭を撫でてあげると、えへへと首をすぼめて笑う。
刀剣男子の中では唯一スカートと呼べる服を身にまとっているせいか、どうにも乱だけは女の子扱いしてしまうというか、こういう行為をするのにも抵抗がない。
本人もそれが嫌ではないようなので、どちらかというと妹のような気持ちで接してしまっていた。

「さっき言ってたのさ、何だったの?」

さっき…と言われるまで忘れてしまっていたので、自分でも何のことか思い出すのに少し間が空いてしまった。
女の子がほしいと言っていたことについてと指摘されてやっと、あああのことか、と手を打つ。

「本丸ってさ、当たり前かもだけど男所帯でしょ?」

1人くらい女の子がいてもいいかなって思ったんだよね、なんて心境を明かすと、乱はそういうことねと納得してくれた。
もちろん、さっきも話したように乱は見た目もさることながら、話し方や声まで、女の子といっても過言ではない。
だからこそ親しみやすくはあるが、結局のところ彼も刀剣男子の1人に変わりはないので、問題の解決にはなっていないのだ。

「主さんはどうしてそんなに女の子がほしいの?」
「そりゃだって、女の子には女の子としかできない話もあるもの」

例えば恋の話とか?なんて半分冗談のつもりで引き合いに出すと、途端に乱の顔が輝きだした。しまった、乱にこういう話は逆効果だったかもしれない。

「主さん好きな人いるの!?」

誰だれ!?なんて急接近で聞いてくる乱を、落ち着くように諭しながら距離をあける。
別に恋バナがしたかったわけではないのだけど、例えば刀剣に女の子がいたら、そんな話も聞いてみたいと思っただけだ。
刀剣男子たちの中には密かに、といっても周囲にはバレバレだが、関係をもっている者たちもいる。
私はそういう恋愛事に男も女も関係ないと思っているので本人たちの好きにさせているのだが、もし仮に、そこに女の子の刀剣がいたらどうなっていたのだろうか。
好きな刀剣男子がいる話だったり、逆に刀告白されたり、なんて甘酸っぱい展開があってもいいのではないだろうか。
仕事の息抜きに、なんて言い方をしたら失礼かもしれないけれど、たまには本丸でそういう話を聞いてみたいな、なんて思ったのは、審神者という立場が半分親のようなものになってしまっているからかもしれない。

「私じゃなくって、刀剣に女の子がいたらね、そういう話をしてみたいなって思ったの」
「ふ~ん、なんだぁ」

少し残念そうにする乱に、心が少しうずいてしまったのはいけなかったかもしれない。
本当は審神者として、自分の本丸にいる刀剣男子たちの関係を乱すような行為はよくないのかもしれないけれど、一度気になってしまったものは仕方ない。

「…ちなみにさ、乱ちゃんは好きな刀剣男子いないの?」

それは本当に興味本位で、返事はどちらでもよかった。
もしいるのなら聞いてみたいし、いないならいないで、藤四郎兄弟をはじめとするうちの本丸の男子たちの恋愛事情についても聞いてみたかった。

「ボク?いるよ」
「え、いるの!?」

まさかの返事に、我ながら思わず声が裏返ってしまう。
そりゃあ乱は可愛いし、男子とはいえ多少なりとも色気もあるし、恋愛事の1つや2つ抱えててもおかしくないのかもしれない。

「そ、それって私は聞いていいこと?」
「う~ん、本当は言わないつもりだったんだけど、主さんにだけ教えてあげようか?」

そう言うと、乱の口元がにやりと上がる。
男子とは思えないその妖艶な笑みに小さく頷くと、乱は私の手を取って耳元で小さく囁いた。

「ボクの好きな人はね…あなただよ、主さん」
「え?」

気づいたときには頬に触れるだけのキスをされて、ふんわりとピンク色の髪が離れていく。
スローモーションのように感じたそれが部屋の入口の襖で振り返ると、ふふっといたずらっぽく笑っていた。

「油断しないでよね、ボクも一応、男子なんだから」

他の奴には駄目だよーなんて声が聞こえてきたのはすでに部屋から出ていった後のことで、私はその場にぺたりと座り込む。
やられた……なんて、思っても時すでに遅し。
私の中で乱が、ただの仲のいい刀剣男子から少しだけ変化した日の出来事だった。
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