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悪役令嬢が悪くてなにか悪いかしら?

ジャンル: 異世界(恋愛) 作者: 藤原遊人
目次

八方美人作戦

やっぱり恐怖政治よりも懐柔する方がいいわよね。
目の前でぷるぷる態とらしくと思うまで震えているヒロインを見下ろして、自論に納得した。

「も、申し訳ございません!」

絨毯に躓いて、ソファ席にダイブしてきた。傍から見ると、結構面白い。
私の手元にあったグラスやお皿、花瓶が割れたのもあり、相手が王族と認知はしていないもののヒロインは慌てて大きな声で謝ってくる。
驚いて固まっているフリをしながらヒロインを眺めて観察する。

柔らかそうな栗色の髪の毛に、すべすべのお肌、パッチリした目に涙を潤ませている様子は正にヒロインとしか言いようがない。まだ結いているアクセサリーは貰い物ではない、ということは専用ルートには入りきれてないのかもしれない。
私がヒロインの違うところを観察していると、ケモ耳もない、精霊も連れてない、色気もないと判断し終えた王子ズが動き出した。

バンパイアの令嬢の一人かという確認の意味だろうリリトスの視線に首をふると、ふつりとリリトスが微笑んだ。動作の一つ一つが切り取ればスチルになる、心臓に悪い。

このあと王子ズがとる行動は人族の王子が謝って、場を戻すために誰かが連れ出すというのが典型例になる。
これがどのルートにも入っていなかった場合と、アレウスルートの対応。
この場合なら、ぶっちゃけ標準ルートでもアレウスルートでも、ハビラントには関係ないからヒロインはそのまま放逐になる。

「誰も怪我してないから大丈夫だよ。君は苦しくない?なにか身体にはいってない?」
「普通に割れたガラスで怪我してないか?って聞きゃいいだろ。なんで、いちいちエロくするかな」

リリトスとレオナルドが、ゲームのセリフそのままで会話をはじめる。
デジャビュどころではないが、ここからが肝心だ。
現実だからスキップ機能はないけど、見逃すとあとからめんどくさいことになる。

そうそう、そのまま進んでくれ。

「申し訳ございません。人族のクラスメイトです」
「アレウス、別に気にしないよ」

アレウス、クリストフの順で予定通りのセリフが続く。
知ってる知ってる。
この後誰が発言するかが、大事になる。

思わず息を詰めてハラハラしていると、ジルが私のことを抱えて立ち上がった。

突然の行動に全く対応できず、されるがままに姫抱きにされる。
固定されていなかったグリーンのヒールつきパンプスが音を立てて落ちる音がした。

「アレス、その子、怪我してると思う。ハビー連れて一旦下がるよ」
「あ、あぁ、分かった。すまない」
「あ、あの!気分悪くさせてしまって、ごめんなさい」
「近寄るな!」

ただでさえ注目されていたソファ席から主賓の怒鳴り声が聞こえれば、そりゃあ場が凍る。
このあとのセリフを聞きたくて息を詰めてました。特に血が欲しくなって、気持ち悪くなったわけじゃないよなんて今更いえる空気でもない。

大人しく気持ち悪くなったお姫様しておこう。意外と頼れる厚さのあるジルの胸板に頭を預ける。
いい子のフリをしながら、ジルのヒロインへの好感度を下げるチャンスだ。

ジルから渡されたハンカチで口元を抑えながら、ヒロインを見やる。

「慣れてなくてごめんなさいね」
「本当に申し訳ございません……」

意味はわからないものの、王子たちと一緒にいた見慣れないご令嬢が自分の仕出かしたことのせいで体調不良ともなれば、萎縮する。
本人から謝られたら尚更だ。

人族に寄り添う姿勢をヒールを履いたことで表現していたハビラントが、人族の女生徒のミスで途中退場することになる。
攻略王子たちは、ヒロインからの強制力が働くとしても周囲へのアピールはバッチリすぎる。

ヒロインのルートがどこかがわからなくなったのは残念だけど、ハビラントからしたら兄のジルと幼なじみのリリトスの支えがあれば国に戻されることはあれど、最悪なバッドエンドは免れる。

そんなイベントとも言えないイベントで、ハビラントへの好感度をカンストさせたらしいジルが周囲の視線を全く気にせず私を抱えたまま控え室へ運んでくれた。
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