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fate もしもモードレッドが喚ばれたら

原作: Fate 作者: MM
目次

日常への回帰

 軽く朝の支度を終えて、改めて二人の会話が始まった。
「気絶していたので答えはしませんでしたが、アーチャー陣営から同盟の提案がありました」
 その時に衣服を家から見繕ったりと、色々と動いていたらしい。

 気絶した士郎を守る為にも、後世話をするためにも。鎧姿のままでいられなかったのだ。かといって、凜から女性服を貰うのも嫌だった。

 結果として、何故かあった黒のスーツを着ている。似合っていた。
「目的はバーサーカーの打破です。立場は対等を望んでいます」

 あれだけの化物を目にしたのだ。士郎の性格も分かっている。善良な同盟相手がいるのだから、利用しない手はない。

「私とアーチャーの性能差と、彼女とシロウの差を考えたようですね」
 どちらが優秀かを言わない辺り、気づかいは出来る性格らしい。
「それがなくても、凜のあの性格なら対等を望みそうでした」

 勝ち気で自信満々な少女だ。なにかと理由をつけて、対等を望むだろう。
「返答はどうしましょう?」

「ありがたく受けよう」
 迷う理由はない。紅い弓兵の殲滅力と凜の腕は確かなものだ。決着をつける時は来るだろうが、彼女が勝者になっても問題はない。

「そう、ですか」
 ぽつりと呟く。
「シロウは私一人では駄目なのですね。そうですか」  瞳からハイライトが消えた。ふふふ。と陰鬱な笑い声を紡いでいる。重い。暗い。ちょっとこわい。
「セイバー?」

「ふふ。冗談です」
 冗談に聞こえなかったが、彼女が言うのだから冗談だ。そういうことだ。そういうことにしておこう。
「まったく。心臓に悪い冗談は止めてくれ」

「気をつけます」
 優しく微笑む彼女を見てると、不思議と責める気にはなれなかった。

「では、承諾の連絡を入れておきますね」
「頼んだ」

 少しだけだけど、セイバーは魔術が使えるらしい。魔術師の逸話も持っているのだろうか? 真名を明かしたがらないから、まだ聞けなかった。
「具体的な作戦などは後の話し合いで決めるとして、今日はどうしましょう」

「どうもこうも登校しないとな。セイバーは霊体化してついてくるんだろう?」
 かなり早く目覚めたおかげで、まだ時間的には余裕がある。朝の支度を済ませて登校しなければならない。
「…正気ですか」

 戦争中の行動とは思えない。アサシンの手にかかりたいのだろうか。
「いきなり酷いぞ。何か変だったか?」
「まず一つ。貴方の背中のケガは完治していません」

 傷口こそ強化魔術と凜のおかげで塞がっているが、まだ完治はしていない。
 妙に肌のひっぱられる感覚で、本人も理解している筈だ。
「次に二つ。戦争中に学び舎へ行く者がいますか」

 戦いに備えて用意するべきだ。
 自身が消滅するのは構わないが、士郎に死んでほしくない。

 たった短いやり取りの中でも、実直で好ましい青年だと思えたんだ。守りたい。
「勉強などと、とても辛くしんどく正直嫌になる事を好んでする必要はありません」

 なんだか本音が聞こえたような。ぽろりと零れていたような。彼の苦笑に気付いたのか、誤魔化すように続ける。
「それならばまだ、遊びにでも出て英気を養う方がよろしい」

「セイバーって勉強嫌いなのか?」
「私の話はどうでも良いのです」
 誤魔化されてしまった。強引な性格である。凜々しい見た目と似合わず、ちょっと乱暴な所もあるらしい。

「そうして最後に。戦争の準備が必要ではないのですか」
 休息による魔力の回復や、そもそも傷を完治させなければならない。投影魔術で礼装を作っても良いだろう。

 彼女にはまだ見せていないが、聖剣に至れそうな残滓を感じている。
「…うん。色々とセイバーの言っている事の方が正しいとは思う」

 それでも日常に拘るのは、身内の事情が絡んでくるからだ。間桐 慎二。友が託すと言ってきた。ならば向かうしかあるまいよ。

「だけど戦争が始まってすぐに行動が変わったら、あからさまだよな?」
「それは…」

「何より生徒達が巻き込まれている可能性もある」
 学校ほど若く生命力に溢れた生け贄を集めるのに、向いている場所もそうはなかろう。

 人道やモラルを守る者ならば、そもそも戦争なんて起こさない。行方不明は戦争が原因ならば、手引きしている陣営が存在する。
 最も妖しいのはキャスター、魔術師の英霊だ。

「背中のケガはしょうがない。動けない程じゃないさ」
 出血のダメージは少ない。動くのに支障はないだろう。
「ここで学校に向かわないで、気付かない所で皆が傷ついていたら嫌だ」

 原初の煉獄を覚えている。多くの命に救われた者として、無意味に日常を過ごす自分を許せない。幸せを享受する己を、吐きそうになる程許せないんだ。
「俺はその結末を許せないんだ」

「分かりました」
 士郎の決意を強く感じたのか、呆れながらも言葉を返してくれた。

「元より私は貴方の剣です。心底からの望みならば、共に戦いましょう」
「ありがとう。頼りになるセイバーのおかげで、俺も動けるんだ」

 何の気もなしに出された言葉が、彼女にとってどれだけの救いになるか知らず。
 新しい者を迎えての日常を始めていく。
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