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fate もしもモードレッドが喚ばれたら

原作: Fate 作者: MM
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決着を迎えて、日常へと歩みを進めていく

 天の杯を紅の雷が消滅させた。愛情を得られた彼女の全力の力は、最強の聖剣にも劣らぬ破壊力だった。
 さすがはアーサー王の子と言えよう。泥は溢れず全て消し飛ばして、まるで聖杯に意思があるかのように。何の災厄も残らずに消滅した。
 
 静かな夜空を取り戻した。漆黒の太陽は残滓すら残っていない。後腐れなく。宝具の力で全てを終わらせた。不思議と感慨はない。息を吐いた。疲れが出てきている。
「帰ろうシロウ。疲れちまったぜ」
 始まりからここまで戦いきったんだ。正直に言えば、もう寝てしまいそう。

 
「そうだな…俺達の家に帰ろう」
「にひひ。家だな!」
 ボロボロの姿でも穏やかに微笑む彼女は美しい。見惚れているが、魔力の消耗激しく。士郎の負担も大きかった。確かに二人での決戦だったんだ。

「じゃあ行こうぜ」
「おう」
 疲れても手を繋いで、絆を忘れずに道を歩いて行った。

 帰り道に色んな話をした。今まで歩んできた道の話。これからの話。作りたい料理だとか、行ってみたい場所を考えた。日常を愛している話をした。幸せに溢れた想いを語り合っていた。
 ころころと変わるモードレッドの表情に飽きなかった。良い時間だったと思う。
「子供の名前は…なんてな」

「あんまりからかってくれるなよ」
 顔を真っ赤にする士郎に気を良くしている。子供なんて急だけど、とても幸せな話をしたんだ。
「将来を考えるなんて、オレらしくねえな」

 困った様に笑っていた。短命で燃え尽きるように生きてきたんだ。幸せな悩みと言えよう。
「でもそうありたいと思えたなら、幸せを望んでも良いだろう」
「へへまあな!」
 先程から本当に楽しそうな笑顔を浮かべていた。本当の意味で吹っ切れたのだろう。

 不安はいっぱいある。モードレッドの肉体だって、寿命があるのかも分からない。士郎の性質も完全には直っていない。互いに許し合って生きていくんだ。
「シロウ。手、まだ離さないでくれよ」
「もちろん。モードレッドの方こそ、照れたってのはなしだぞ」

 幸せだった。繋いだ手の熱が愛しい。笑い合って進む道が楽しい。そうして、衛宮邸へと二人がついた。
「「ただいま」」
 穏やかな声で家へと入って。にこりと二人で顔を見つめ合いながら。
「「おかえり」」

 くすりと二人で笑った。彼はぎこちなく、彼女は照れながら笑った。
 短くも濃い聖杯戦争の時を過ごしていた。戦争は終わり。彼と彼女は日常へと戻っていく。幸せを許す心を互いに抱えながら、穏やかに過ごす時間が訪れたんだ。


 そうして、聖杯戦争を終えた翌朝である。疲労に寝込む士郎の体を揺すって、モードレッドが起こしてくれた。
「シロウ、朝だぞ!」
 元気で楽しそうな声にうながされて、眠そうな顔のまま士郎が起き上がった。愛おしそうに彼女が微笑んでいる。優しい時間が流れていた。

「おはようモードレッド」
 のんびりと流れる日常が愛おしい。朝日が眼に沁みるようだ。まだ疲れは残っているのだがね。

「へへ。おはようさん」
 楽しげに笑う彼女の姿を見ていると、不思議と力が戻ってきた。昨日の決戦もなんのその。彼女は元気いっぱいに笑っている。お互いの寿命などの問題は残っているけど、二人ならば超えられる気がした。
「今日はオレが作ったんだ。大河が待ってるぜ」

 二人でいっしょに料理した思い出を頼りに、色々と調べてやってくれたらしい。素直に嬉しい話だ。誰かの手料理を、それも愛しい女の子の手料理を食べるなんて、生まれて初めての経験だった
 ぎこちなく微笑んで、お礼の言葉を言う。

「ありがとう」
 立ち上がり身支度を調えようとする彼へ。どこか不安げに揺れながらも、彼女が静かに問いかける。
「なあ、幸せを許してやれるか?」
 重たい言葉だ。一日経ったからこそ、問いかけられる言葉でもある。

「俺達はどこまでいっても忘れられない」
「なかった事には出来ねえよな」
 互いに抱えるは煉獄の記憶だ。モードレッドは、いつまで経っても失わせた命を忘れないだろう。父の額を砕いた一撃を覚えている。抱える罪を忘れる事はできないんだ。
 
「アーチャーに認められたからこそ、絶対に忘れない」
 士郎は、いつまで経っても見送られた事実を忘れないだろう。炎の中、たった一人生き残ってしまったんだ。抱える罪は忘れられない。
 それでも、彼女に幸せを許してほしい。彼に幸せを許してほしい。相手の笑顔が見たいんだ。止まってはいられない。
「全部終わって、一日経ったからさ。答えを聞かせてくれ」
「君と共にならどこまでも」
 迷いのない答えだった。見果てぬ先へと進む不安は、隣立つ相手のおかげで耐えられる。生きる恐怖を抱えながらも、抱きしめ合う喜びを知っているから。

 どこまでだって進んでいけるさ。笑って死ねる。いつかの終りを目指して生きていける。
「よし。そんなら今日も楽しんでいこうぜ!!」
 快活に笑う彼女に手を引いて貰いながら、今日も彼の日常は幸せに包まれていた。
 正義の味方の果てに至る可能性は消えた。愛を求めた少女と共に、士郎は日常を歩み始めていく。
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