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モンスター娘のいる日常~ローカルサイド交流談~

原作: その他 (原作:モンスター娘のいる日常) 作者: sarai
目次

「前途多難な始まりに」

    「「ありがとうございましたー!」」
 
都会とは程遠い、とある閑静な住宅街。そこに佇む異様な大きさのマンション前で、引越し業者の明るく溌溂とした言葉が心地よく響き渡る。作業を終えた彼らは、トラックに颯爽と乗り込み去っていく。
その姿が見えなくなるまで、マンション前で見送る一人の青年、彼の名前は多田野 仁根(ただの ひとね)。映像関係の仕事に就くため勉強中の20歳のフリーターである。
 
 仁根「…ふぅ。さて、っと…。」

仁根は一人暮らしを始めるため、このマンションに越してきたのだ。引越し作業も一段落つき、やれやれと胸をなでおろすように一呼吸おくと、彼は携帯を取り出して誰かに電話をかけ始めた。

 仁根「…あ、もしもし母ちゃん?俺、仁根だけど。今引越し終わった。今日からここでぼちぼちやっていくよ。…うん。…うん。…はいはい大丈夫だよ、あんま心配しなさんなって。」

電話の先は仁根の母親で、現状の報告をする為にかけたのである。母親は心配性のところがあり、引越しを終わらせたら直ぐかけてくるように再三言われていた。必要以上の報告をするつもりはないのだが、ある程度母親が安心するまで話を聞いてあげるのでいつも長電話になってしまうのだ。今回も類に漏れず長くなりそうなので、そろそろかな?と判断したところで「気を付けるよ。ありがとう、また電話するよ。」と言って電話を切り上げた。

報告の電話も済み、いよいよマンションの自室に向かう仁根。新しい生活に期待と不安が入り混じったような感覚に、不思議と足取りが浮ついてしまう。この感覚は、自身で新しい『何か』を始めたことがある人なら誰しもが感じる経験であろう。

 仁根(ここから俺の新生活が始まるのかぁ、どうなることやら見当もつかないけど、まあそこは何とかなるでしょ。…それよりも気になる大きなイベントが一つ残ってんだよな。今からドキドキしてるわぁ。ははは…)

何事も前向きに考えるようにしている彼も緊張する『大きなイベント』。それはこのマンションの大きさにも関係している。それは― 

 ―ドオーーーン!― 

 仁根「ぬわぁーー!!」

自室の扉を目の前に通路を歩いていると、すぐ手前の部屋から激しい音と共に煙を噴き上げ、その部屋の扉を吹き飛ばした。間一髪回避したがあまりの事態に声を上げる仁根。扉のなくなった部屋には今だ煙が立ち込めており、部屋の中がどうなっているか確認できないが、間もなくして煙をかき分け、ゆっくりと人影が現れるのが見えた。

 ??「げ…、げほ…!」

 仁根「え、え?あ、ちょ、ちょっと、大丈夫ですか?!」

部屋から出てきたのは、30代くらいの男性だった。男性は漫画でみるような煤だらけ状態で目の前でぱたりと倒れた。すぐさま駆け寄り安否を確認する。見た目の状態は最悪だがどうやら生きているようだ。
一体何がどうなっているか状況を把握する間もなく、部屋の奥から後を追うように、一歩一歩、鈍重な足音でゆっくりと何かが近づいてくる。目の前の様子と空気感に、仁根は思わず息をのむ。

 ??『ダンナぁ…、ゼッタイユルさない…』

現れたのは、女性の様な風貌をした生き物だった。それは目視でも3メートルはあろうかという大きな体躯に、皮膚は所々岩の様な堅殻に覆われている。

 仁根「こいつは、亜人種?」


―亜人種―
 人類とは異なった進化を遂げた、人の様な風貌をした生き物であり、昔から人類と接触することなく生きてきた種族である。近年にその存在が確認されたが、世間に混乱を招く可能性を考慮し、政府が秘匿として丁重に扱ってきた。そして、数年前に政府からその存在が公表され、亜人種達との文化交流を目的とした「他種族間交流法」が制定され、今では一般社会に溶け込むように生活をしている。
 
 ??『おカクゴを。』

亜人の女性は、その大きな両拳を握りしめ、大きく振り上げる。

 仁根「ちょちょちょ、ちょっと待って!何があったかは知らないけど、法律で人と他種族間での争いはご法度のはずだろ!落ち着けって!」

 ??「そうだぞ!ルガちゃん落ち着いて!」

 仁根「あ、起きた。」

気づくと、さっきまで気絶していた煤だらけの男性が起き上がっていて、『ルガ』と名乗るその亜人を必死に説得しようとする。
しかし、説得するまでもなく、さっきまで激昂の色を見せていたルガは、拳を振り上げたまま特に何をするわけでもなく男性を見続ける。

 ルガ『…シっている。』

 仁根「え?」

 ルガ『タシュゾクがヒトをキヅツけてはいけないことくらいシっている。ホンキではない。これはオドしだ。」

 仁根(手加減?こんな大事になってんのに手加減だったの?この娘怖すぎでしょ。)

すると、振り上げていた拳をゆっくりと下し、ルガはその場にへたり込んでしまった。その瞳にはじんわりと涙を浮かべている。その状況に二人の男は戸惑い、とにかくここではなんだと、今はなくなってしまった扉のない部屋へと後戻りする二人と、関わってしまった手前放っておくことができずお邪魔する仁根だった。

 仁根(あ~、俺の新生活が、遠ざかっていく~~。)
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