ACT017 『試験』
ギラ・ズールを二機相手?……この貧弱なナラティブで?しかも、負ければ……リタと会うための『不死鳥狩り』から、排除される!?
「……色々と、ブチ込んで来てくれるものね!!」
『ムダに死んで欲しくありません。我々も、貴重な機体を預かってもいます。信頼に足る実力を、見せて下さい』
信頼。重たい言葉だ。そう考えながらも、ジュナはすでにナラティブを走らせていた。ギラ・ズールのマシンガンの射程から逃れるのだ。左右から来てくれたのは、幸いだと言える。
それに、ミノフスキー粒子散布下でのシチュエーションでないことも、ジュナにとっては有利と言えることの一つであった。ナラティブの観測機器でも、この二機のギラ・ズールの武装が把握出来た。
右から来たヤツはマシンガン。左から来たヤツはシェツルム・ファウスト。右のギラ・ズールのマシンガン掃射に足止めされていたら、左のロケット砲の一撃を浴びせられる。
マシンガンの弾はともかく、ロケット砲はキツい。ナラティブは、追加装甲をまとっていない状態だ。
ネイキッドなナラティブの装甲では、どう考えても破壊力の高い砲撃を受ければ一発で終わりだ。
ナラティブは右へと逃げる。警報が鳴り響き、マシンガンの砲弾が、ナラティブをかすめるように飛んで行くのが、シミュレーターの映像に映し出されていた。ミノフスキー粒子が無いから、あちらの火器官制の精度も高まっている。
だが、火力ならば負けていないし、左から距離を取れたことで砲撃の範囲からも逃れることが出来た。燃料を消費しながら右へと逃げ続けながら、ジュナはナラティブの武装をライフルへと変える。
ガンダム・シリーズ伝統の、高威力のライフル。一応、ナラティブにもそれは装備されている。強力な一撃を放つことが出来る。戦艦の主砲並みと歌われる、ガンダム・シリーズのビーム・ライフル。
ジュナの口元は、ニヤリと笑っていた。マシンガンの射程よりも、はるかに長く、そもそも射撃に関しても、ジュナは中の上の腕前だ。
「当たれ!!」
ジュナは叫び、ナラティブガンダムはビーム・ライフルをぶっ放していた!!
地球の大気を焼き焦がしながら、ピンク色に輝く破壊の一撃がギラ・ズールに直撃……しなかった。足下に命中し、地上に大きな土煙が上がる。
「外したッ!?」
『ジェガンよりも、命中補正が低いんです。旧式で、地上で撃つときに、ビームが2度ほど下を向く』
「マニュアルに、書いてあったな!!」
自分を叱責しながら、遠距離射撃を外した自分を責める。だが、パイロットの体は止まることはない。腕と指と足は動き、マニューバを入力し続ける。左のヤツが、追いついて来ていた。
逃げる獲物には、突撃して来る。悪くない発想だ。しかも数が多いときは、そうやって積極的になるべきだろう。シミュレーターに組み込むべきプログラムだと、ジュナは感じた。追い詰められてしまうからな……ッ。
砲弾が放たれる。
当たれば一撃で撃破されるであろう、砲弾が。しかし、あれは鈍足だ。ナラティブの後ろ跳びなら十分に相対速度を殺しきれる。そして……あの大きな砲弾は、撃ち落とすことにだって向くんだ!!
ダルルルルルルル!!
ナラティブのバルカン砲が再び唸り、ナラティブ目掛けて飛来してきていたシェツルム・ファウストの弾頭に命中する。
ドゴオオオオオオオオオオンン!!
爆炎が上がり、爆音を浴びる。機体が揺れる。軽さが災いしているが……時間は稼げていた。右が迫ってきている。マシンガンを片手に、逃げ回るナラティブを追いかけて来る……ジュナは、焦らない。
全身から熱い汗や、冷たい汗を流しながらも、焦らない。噛み切った唇の端がくれる痛みが、集中力を保たせる。2度下がる。それは学んだ。長距離射程でも、ライフルは当てられる!!
「ナラティブ!!撃ち抜けえええええッ!!」
ジュナは叫び、ナラティブのライフルは再びビームを撃ち放つ!!2度の修正、それをジュナは体感で行っていた。300メートル先で、マシンガンを撃ちながら接近して来ていたギラ・ズールに、今度はそのビームは命中していた。
ドゴオオオオオオオオオオンン!!
ギラ・ズールが、たった一撃で爆散してしまう。やはり、ガンダム・シリーズのビームライフルは、戦艦の主砲並みの威力はあるのだ。このナラティブも、ガンダムの一体だということを証明してくれた気がする。
喜びながら、ジュナはマニューバを刻む。
ナラティブは大砲を捨てて、こちら目掛けて突撃してきている最後のギラ・ズールへと向き直る。間合いは、思ったよりも詰められていた。
ライフルの威力に喜び過ぎて、ムダな時間を使った。百分の一秒か、その倍か。それだけでも、読み合いが主体であるパイロットの戦いは窮地に陥ることだって十分にあるのだ。
ライフルは―――間に合わない。次弾を撃つまでには、まだチャージの時間がある。宇宙よりも、地上は熱いのだ。ライフルが熱を排出するまでに時間はかかる。ならば。当然のことをしなければならない。
ナラティブの細腕がライフルを投げ捨てていた。
身軽になる。身軽になり、敵目掛けて沈み込むようにして走らせる。ギラ・ズールの黒い巨体が肉薄し、ジュナはその顔に獣の色を帯びさせていた。
「うあああああああああああああああああッッ!!」
ギラ・ズールが斧を叩き落とすよりも早く―――ナラティブの放ったビームサーベルによる払うような斬撃が、ギラ・ズールの右腕を斬り裂いていた。
斧を持つ腕を失ったギラ・ズールは、その巨体を使い、ナラティブに体当たりを浴びせようとしてくる。
しかし、ナラティブは跳躍していた。
「小さいからって、舐めるな!!」
宙を舞ったナラティブの蹴りが、ギラ・ズールの頭部を踏み砕き、カウンター気味に浴びた重量のせいで、ギラ・ズールのコックピットが潰れてしまう……ガンダムは、やはり、弱い機体などではなかったのである。
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