ACT173 『チーム・オーガその4』
圧倒的な戦果を叩き出してはいるオーガ隊ではあるが、その機体はどんどん消耗していく。
高スペックな機体を圧倒するための戦闘用マニューバを刻めば、どうしたってモビルスーツの関節部には熱が蓄積されてしまうし、弾薬などとっくに尽きて、敵のそれを奪い取って使うような状況だった。
スラスターの燃料も切れかけて、グフ・カスタムの高速機動を使える回数は、どんどん少なくなっている。どんなに強靭なモビルスーツであったとしても、そういった消耗の定めからは逃れることはない。
どれほど有能なモビルスーツ・パイロットがその機体を操ったとしても、どうにもならないことがある……。
質では勝っていたジオン軍が、決して地球連邦軍に勝つことが無かったのは、結局のところ、そういう理屈だってことさ―――隊長は疲労していく肉体に対して、その強靭な闘争本能で動くことを強いながら、頭ではそんなことを思っていた。
ジオンに対しては、思い入れがない―――と断じることまでは、ヒトである以上は出来ないのだ。かつては、勝利のために何でもすると誓った存在だ。
スペースノイドの大願を成就させるための、銃弾になるのだ。自分の命は、そういう行いのために使い切るのだと決めていたのだから。軍国主義にかぶれた、バカなガキだった。
いや……優生主義もか?宇宙に出た人間が、進化している?……バカなハナシだ。地球の人類と、何もやることは変わっちゃいない。
嘘をつき、騙して、快楽のために努力し、イヤがりながらも死んじまう。そういう下らない動物であることには、変わりはないのだ。宇宙に上がったぐらいで、スペースノイドと呼ばれる存在になったところで、ヒトは、ヒトでしかない。
せっかく生まれて来たニュータイプも、戦争の道具にして消費しちまった。
あれらは、たしかにヒトではなく、新たな存在なのかもしれないが……オールドタイプと呼ばれる、フツーの人類が大多数を占めるような世界では、ヤツらなんて、オレたちオールドタイプが使って、潰しちまうってことなんだよ。
世界は不変だ。
人間もまた然り。
ゆっくりと運命が定めた滅びに向かいながら、ちょっとずつ砕け散って壊れていくまでのことだ。オレたちは、そんな終わりが来るまで、こうやって殺し合いを続けるだけの、最高に可愛げのある生き物だ。
「燃料タンクを、焼き払えッ!!」
『イエス・サー!!』
『どんどん、燃やすぞッ!!』
『基地ごと、焼き払っちまえッ!!』
青い戦鬼……グフ・カスタムどもが、容赦なく破壊を実行するのだ。敵から奪ったビーム・ライフルをぶっ放し、燃料タンクを爆破していく。
闇に暗む宙を明々と照らすほどの火柱が、あちらこちらで発生していった。戦場に混乱を深めるための攻撃だった。
そうだ、十分に敵を仕留めてはいる。これ以上、地球連邦軍のモビルスーツ・パイロットたちを殺したいわけではない。
とっくの昔に、隊長のジオニズム活動は終わりを告げているのだ。
ルオ・ウーミンの与えてくれた道を、本能のままに進む男は……ジオン公国軍のエースとして、地球連邦軍の数多のモビルスーツを破壊し尽くしていた頃とは、まったくもって違う種類の忠誠を胸に抱いている。
ミシェル・ルオと、彼女の呼び起こす未来のために……オーガ隊は生け贄となるのだ。彼女に大いなる力を授けるために、オーガ隊は全てを投げ打った。
代償は金だ。この世界で最も安心することが出来る、裏切らない力の一つ。金があれば、まあ楽には暮らしていけるのがヒトの世の普遍的なルールだった。
オーガ隊の家族は、人並み以上の富を手にして、幸せな暮らしを人生において享受することが出来るだろう。ヒトを幸せにしてやれるなんてことは、傭兵稼業に在る罪深い存在からすれば、最良の行いではあるのだ。それ以上を、期待することは難しい。
金を与えてやる意外には、粗暴で、乱暴で、幼く、邪悪で、欲深な戦士には……全てのことが難しいものだ。
だが、不器用で血なまぐさいながらも。これも我々の愛情の証明ではあるのだ。我々は誰よりも自由に生きて、誰よりも自由に死んでいけるのだ。大金のために死ねる。
そいつは、男にとっちゃ、他のどの死に方よりも納得の行く死に方でもあるんだよ。
オレたちは、人生を愉しんでいるのだ。誰よりも血を流した。自分のも、他人のも。誰よりも死に詳しくなった。死の影は、冷たい指をいつだってオレたちのすね毛だらけのふくらはぎに絡めて来やがるんだ。
そんなことをしながら、敵と殺し合いをして―――生き残ってみた時の達成感というモノは他には替えがたい最良の感動なのさ。
残虐な本性のままに、生き抜いて、戦い抜いて、死んでいける……ああ、最高の終わりではあるな。ジェスタと刺し違えるようにして、オーガ3がヒートブレードを突き刺していた。
ビーム・サーベルを突き立てられながらも、見事にオーガ隊の戦士であることを、オーガ3は果たしていた。死に行く彼は、ニヤリと笑い。自分の人生に、その表情をもって採点をつけていた。悔いなど、どこにもなかった。
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