ACT141 『進化したサイコフレーム』
「したとしても、おかしくはないわ。サイコフレーム内のサイコミュの配置は、まるでヒトの脳細胞みたいだって言われているし……それに、パイロットとして搭乗したニュータイプの思考能力を、サイコミュ内のメモリーにストックしておけば?モビルスーツは、より早く動く」
「……クッキーみたいな効果がある?」
「お菓子すかー」
「美味そうだ」
「……ああ、残念だが違う。つまり……サイコミュに、パイロットの考え方を記憶させておけば、反応がよりスムーズになる……ただでさえ通常よりも早い処理が、より速度を上げるというわけか」
「限界を超えて、機体が動けるようになるし……ニュータイプの能力を、バックアップして増幅させる、拡張型のユニットとしても、サイコフレームは自己進化するかもしれないわね」
「……蛇の道は蛇ってか。どこか……昨夜のアレに似ているなあ、ジュナ・バシュタ少尉よ」
「……ああ。『外付けの脳』……サイコミュや、ニュータイプ研究者の行き着く先ってのは、そういう発想だったのかもしれないな……」
「学習機能を、サイコフレームは持っているのよ。だからこそ、異常なまでの変異を行えるのでしょうね……まあ、推測だけでは、どうしようもないわね」
「……とにかく。連邦軍としては、暴走状態のモビルスーツというだけでも看過することは出来ない。『フェネクス』のパイロットが……ニュータイプであろうとなかろうが、彼女が生きていようがいまいが……民間施設を破壊するのであれば、狩るしかない」
「……ええ。捕まえる。『フェネクス』を捕獲して、その機体からリタ・ベルナルを救助する……それが、『不死鳥狩り』よ」
「……協力は惜しまんよ。シェザール隊と―――オレの部下たちと合流出来たら、すぐにでも作戦に取りかかりたいところだ」
イアゴ・ハーカナ少佐は腕を組み直しながら、そう語る。語りながら、ミシェルに強い力を込めた貌を向けた。
「……それで。オレたち以外にも、『不死鳥狩り』を行っているヤツらがいるわけか?」
「ええ。そうよ。『フェネクス』が単独で大暴れしていたわけじゃない。『袖付き』のモビルスーツたちが、『フェネクス』と交戦していたみたいね」
「『袖付き』だと?……ヤツらに、まだそんな戦力が残っているのか?」
「……どうかしらね。報告によると、『袖付き』たちが好むようなデザインを装甲に刻みつけていたらしいけれど。私の『よく当たる占い』によると……フェイク」
口もとをニタリと歪ませながら、ルオ商会の特別顧問、ミシェル・ルオは自信ありげにそう語っていた。
「ニセモノだっていうのか?」
「そうよ。『袖付き』の保有しているモビルスーツの数は、かなり少ないはずよ。マーサ・ビスト・カーバインからの情報によるとね」
「……世間のお騒がせババアのことっすかー?」
「……あれって、あれだよな?……アナハイム・エレクトロニクスの社長のヨメだろ?」
社長夫人という単語を頭に浮かべられなかった双子の片割れは、そんな言葉で表現していた。ミシェルは、そのバカさ加減が楽しいようだ。
「そう。アナハイムの社長のヨメよ……今、身柄は私が確保している」
「マジかー!!」
「スゲーな!!」
「……ルオ商会の特別顧問なのだから。これぐらいの力はあるのよ」
「クールだー!!」
「サイコーだな!!」
マフィアあたりに憧れる、バカな若い男たちみたいだなと、ジュナ・バシュタ少尉は考えていた。実際のトコロ、ルオ商会には……そんな顔もあるのかもしれない。
ジェスタを揃えやがったんだからな……いや、そうか。
「マーサ・ビスト・カーバインが提供したのは、情報だけじゃないということか」
「……ご明察よ、ジュナ。さすがに『奇跡の子供たち』の一人よね」
「ふん。それなりに、経験を積ませてもらったからな、おかげで勘は冴えているぞ」
薬物で変異している左眼に、ジュナ・バシュタ少尉は力を込めていた。
「……かなりムチャなことをしているようだが……それで、お前の立場は大丈夫なのか?」
「……あら。心配してくれるのね」
「……ふん。リタを『助け出す』までは……休戦しておいてやる」
「そうしておいてくれると助かるわ…………それと。ルオ商会のゴタゴタの方は、貴方が心配することじゃないわ。私が……『跡目』を継ぐか、ステファニーお姉さまがそうなるのか……決めなきゃならない時が近づいただけよ」
「ステファニー・ルオと、戦うってのか……それなら、私も力を貸してやってもいい。アイツは……私にリタの一部が使われた兵器を差し向けて来たわけだからな」
変異した左眼に、獣の鋭さを宿らせながら……ジュナ・バシュタ少尉は牙を剥く。許せないのだ。自分に……いや、自分たちを実験台にするかのような戦場を組まされたことを。それが、例えステファニー・ルオの趣味でなかったにせよ……。
……殺されそうになっていたことは、事実だからな。
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