ACT089 『タッグ』
『……か、囲まれたあー!?』
『ほ、ホントだ、いつの間にか、ミノフスキー粒子が撒かれてるぞ!?』
レーダーが曇る。索敵能力が下がり、少数の方が不利になる。
しかも、ちょっとした誤解から体力もエネルギーも、装甲までも大きく消費してしまった。サイアクの判断だったな。オレたちは、疑り深くなり過ぎたらしい……。
『……どうにもならんことは、あきらめろ。いいか、双子ども、深呼吸だ。機体の消耗は回復はしないが、せめて乗っているパイロットの心拍数ぐらい整えておけ』
『気休めくさいぜー』
『ほんと、大尉の作戦っていつも、なんかおかしなことになるし』
『ハハハハ。人生、想定外のことが起きたことが楽しいもんだろうがよ……?おい、ジェスタの兄ちゃん』
「……どうした?」
『誤解があったらしいが、ルオ商会チーム同士、仲良く敵と戦うぞ。相手は、ジェスタが六機いる』
「……ジェスタが6機?……オレの、シェザール隊と同じ数か」
『……はー。読めて来たなあ。オレは、勘違いしていたみたいだ。ルオ商会とアンタたちの敵サンも、ルオ商会と地球連邦軍かもしれん』
『何いってんすかー?』
『意味が分からねえ』
『分からんでもいいさ。生き残れたら、ゆっくりと教えてやるし―――死んだら、あの世でニヤニヤしながら教えてやるとするって?』
『死神ー!!』
『悪魔野郎!!』
『ハハハハ。パイロットとしては、勲章みたいな響きのあるあだ名ちゃんだぜ、まったくよう……』
「……お前らは、特殊部隊に包囲されても、これなのか?」
『状況によって自分のペースを変える。器用でマジメなことだが、オレたちみたいなのには向いちゃいねえよ』
『たしかーに!』
『そうだよな!』
「……愉快な連中だな。ルオ商会だか、連邦軍の上層部の内部争いに、オレたちは巻き込まれているようなんだぞ?」
『そうだとしても、することは一つ。皆で恐いジェスタ6機を相手に、がんばりましょうってことだ』
「……そうだな。せめて……スワンソンが生きていてくれたら―――」
『―――オレは、殺す勢いではビームを撃っちゃいねえぞ。収束を粗雑にした、衝撃重視の一撃だ。コクピットを揺さぶって、パイロットを失神させるのが目的の一撃だよ。アンタら、ルオ商会の正規の護衛だし、ガンダリウム合金が入っている。死んではいないんじゃないかな?……多分だけど』
『いいかげんな言葉すねー』
『ヒトを撃ち殺したがどうかなんですよ?』
『いいじゃねえか、生きてるだろうってハナシだ。なあ、叩き起こせよ。戦力になるはずだ。オレの射撃に、少しばかりは反応していた。強いヤツだな』
「……ああ!!」
スワンソン大尉のジェスタに、イアゴ・ハーカナ少佐は愛機を接近させた。
そして、その場にしゃがみ込みながら、『お肌の接触回線』を使用する。通信だけじゃない。シェザール隊のシステムは、もっと重要な情報を伝えている。パイロットの生体反応だ。
少佐の口元はニヤリと歪んでいた。
「……スワンソン、生きているな?」
『……え、ええ……っ。体のあちこちが脱臼でもしたみたいでした。まさか、早撃ちで、しかも、照準補助無しで……あの距離を当てられるなんて……』
「相手が悪かったようだ。地球にも凄腕がいるらしい」
『みたいですね……』
「それで……ハナシは聞いていたか?」
『オープンチャンネルですからね。6機のジェスタに、包囲されている……こっちは、ボロボロの機体も多いし、パイロットも疲れている』
「戦うしかないな。脚が無事なら、逃げるのも有りだが……今は、もう逃げても追いつかれる。それは、不利になるだけだ」
『勝つしかない。そういう状況ってコトですか……』
「そういうことだ。だが、いい腕のパイロットが一人と、そこそこの連中が二人。オレたちを合わせれば、5人。5対6なら……悪くない勝負も展開できる」
『……肋骨が無事な状態で、戦いたかったもんですよ。モルヒネを打ちます。こう痛くちゃ、戦うことも出来ない』
「そうしておけ。ここで死ぬわけにはいかん。痛みを消して、無理やりにでも鋭さを持って動けるようにしておくんだ」
『了解……』
「…………おい、大尉、殿?」
『なんだ?』
「アンタたち、オレの指揮下に入るか?……オレなら、ジェスタの動きと戦術を、誰よりも深く理解しているつもりだぞ」
『……普段から、動かしているわけだからな。悪くない。しかし、そいつは相手さんから見ても同じコトだってのは、忘れるな。おそらくは、アンタたちを仕留めるために、編成されたんだろうからな』
「……ああ。で。どうする?」
『いい提案じゃある。オレたちは、ジェスタを深くは知らない。お前さんが指揮を執ってくれ。オレたちは駒として動いてやる。死にたくないからな……死なせるなよ?』
「……任せておけ。オレほど、ジェスタの強さも、そして弱さも知り尽くしている男は他にはいないはずだぞ!!」
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