ACT071 『腐れ縁』
「……例の情報屋から買った情報を頼みに、オーストラリアへ密入国したんだよ。そしてシャトルの港に向かった」
『貴様、宇宙に帰るのか?』
ちょっとだけ、羨ましそうだな。スペースノイドにとっては故郷だもんなぁ……オレからすれば、行くところなんだが。立場が変われば、色々と世界観も変わるもんだ。
「ああ。ヘリウム3を、たんまりと手に入れたんだからな」
『……自軍の備品を売ったか。悪人だな』
元ジオン公国軍のエース・パイロットらしい。スペースノイドは備品を大事にする。宇宙ってのは、地球以上にモノが無い場所だからな。
汗の一滴まで、高度な空調技術で再利用しなければならない。本当に、貧乏臭い世界だ。だからこそ、自分たちの資源を敵に渡す行為に、異常に怒るヤツもいる。この男も、そうらしい。
いや、あるいはオレの落ち度をボロクソに言うのが好きなだけか。親友だもんな!
『薄汚い裏切り者のコソ泥め』
「……バレなきゃいいんだよ。まあ、バレちまったんだが……って、それはいい。問題なのは逃亡先が同じ先客がいるってことだ。しかも、そいつらはジェスタだ」
『ジェスタだと?……連邦の精鋭用のモビルスーツか。いい追っ手がかけられたようだ。お前らの貧乏モビルスーツじゃ殺されるな』
「しかも、6機もいやがるんだ」
『……6機か……お前たちは?』
「オレがジェガン、バカな双子のジェガンが二つ。三つだな」
『死ぬな。おめでとうと言っておこう』
「ハハハ!ブラック・ユーモアを覚えていやがるなあ!!ニューホンコンの男らしいぜ、このクソマフィア!!」
『……オレに何を期待している?』
「……あー。金はないが、金になるものなら宇宙に浮かんでる。そいつで支払うから、ルオ商会のコネを使って、オレたちを援護してくれよ?上手くすれば―――ルオ商会はジェスタを6機手に入れることになるんだ。何なら、オレたちのジェガンも3機くれてもいい。大もうけだぞ」
『……お前たちの機体などゴミだ』
「しかし、ジェスタには微量ながらもガンダリウム合金が使われているのは、知っているだろ?……6機もあれば、それを回収するだけでも……ガンダム一機分ぐらいの、ガンダリウム合金を入手することが可能となる」
実際に、それぐらい含有されているのかは、ちょっと分からないが―――交渉ってのは、ハッタリも大事だ。こちらのアピール事項は過大に宣伝したっていいだろ。
商売なんだからな……いや、その前に、今は命もかかっている。このまま乏しい戦力で巻き込まれるべきじゃない状況が、すぐそこにあるわけだ……。
「……いいか、ガンダリウム合金だぞ、ガンダリウム合金!」
『何度も言うな、理解している』
「それは、お前のようなカスタム・マニアには嬉しい素材じゃないか?軽くて、頑丈。何よりも、ガンダムの一部。愛機に使うだけでも、お前は日々を今より15%は楽しく過ごせるんじゃないか?」
……沈黙しやがった。だが……通信は切らない。まったく、ツンデレ野郎ちゃんだぜ。
大尉は勝利を確信している。あのルオ商会のエースさまは、血に飢えた獣だし、どんな美女よりもモビルスーツを愛していやがる。
かなり危険なヤツだが……シンプルさはあるんだよ。まっすぐで、一本気な……ヒト殺し。
『……どう援護して欲しい?』
「……戦力を貸してくれたなら、オレが部隊を指揮して、ジェスタ隊を仕留める。腕がいいヤツなら……一機でもいればいい。お前が来てくれたら、最高だが」
『オレはニューホンコンを動けん』
「……残念だぜ。他の、腕っこきを寄越せよ」
『……オーストラリアだと言ったな』
「ああ、言った。オレはそこにいる。座標もチェックしてるんだろ。一緒にそのデータも送っているんだからな」
それぐらいはやってくれているハズだぜ。ジェスタ―――ガンダリウム合金のためなら、ヤツはそれなり以上に真剣になってはくれるはずなんだからな……。
『……そのジェスタは……本当にアフリカから来たのか?』
「……おそらくだろうがな」
『……地上装備か?』
「そう見えるぜ。オレの見立てじゃ、足跡から推察するに、砲戦仕様のジェスタもいる」
『……6機のジェスタか。偶然にしちゃ、出来すぎじゃある……お前たちは、関わらない方がいい事案かもしれんな』
「関わりたくはないが、関わらなければ宇宙が遠ざかる。ルオ商会が絡んでいるような仕事なら、無理やりにでも顔を突っ込んでやってもいいぞ」
『どんな立場だ、お前は?』
「お前の大親友だよ。連邦軍を利用して、何かを企んでいるっていうのなら……ニューホンコンから動けないお前の代わりに、オレがお前の手足になってもいいんだぜ」
『……チッ』
「……舌打ちしたが、通信を切らないところを見ると。お前、オレの戦力を欲しがっているんじゃないか?……オレの実力は知っているだろうし……器用さも知っている。オレたちを雇えよ?……オレたちがお前の代わりに色々と動いてやる。報酬として、ニューホンコンから宇宙に連れて行ってもらえれば、ありがたい。もちろん、偽装したパスポート付きでな」
『……それだけでは、足りないな』
「何をしろってんだよ?」
『……オレの仕事を手伝え。殺すべき相手がいるんだ。そいつを殺し、オレは、オレが生きるに相応しい場所を創りたい』
「……思想家みてえなこと言い出しやがって」
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