ACT068 『宇宙を目指すモノたち』
……『袖付き』との商売は、美味しいモノだった。こちらの身分を隠せば、ヤツらは出所の怪しい品でも、すぐに受け取ってくれた。
しかも、証拠が残らぬように、現金あるいは現物と交換。宇宙空間に大量のヘリウム3を所有することだって、出来たんだ。
連邦軍の安月給をしているよりも、彼らとの密輸を実行した方が、何十倍も儲かる。一攫千金の夢が目の前にあれば、誰だって、それをするに決まっている。
「オレたちは、チャンスに反応しただけなんだが……バレちまうとはなぁ」
陸戦特化型のジェガンの操縦席で、元・連邦軍人は愚痴をこぼす。自分たちの『商売』は、上手く行っていたハズだった。『袖付き』の部隊に、軍用品を横流しする。
訓練でバカしていたら壊れちまったとか、45本あるライフル砲の砲身を、数え直したら42本しか見つからなかったことにするとか―――新品の電子パーツを、旧式パーツと交換しておくとか。
そんな地道な仕事をコツコツと行うことで、発生していった備品たちを、『袖付き』が作っていたダミー会社に持ち込んで、オレたちは宇宙に資産を保有することにしていた。
その結果、150万人が、3ヶ月はエネルギーに困らないほどのヘリウム3を、オレたちは獲得したハズだったんだがな……。
「悪いコトは、するもんじゃねえなあ……っ」
『何を今さら、言っているんすかー、大尉?生まれ持ってクソ野郎でしょう?』
『そうっすよ。大尉らしくもない。自分の産まれを否定するなんてネガティブ過ぎっすよ』
こいつらはオレをどんな悪人だと思っているのだろうか。大尉は考えた。だが、自分のことを傷つけることになりそうなので、思考を放棄することにしたよ。
「……今後に活かしたい言葉ってものを、つぶやいているのさ。オーストラリアの景色を見ていたら、そんな気が起きちまうんだ!」
『懲りちまったんすかねー、あんな美味しい仕事を?』
『宇宙行ったら、またやるって言ってませんでした?』
「まあなあ。でも、色々と考えちまう。この罪深い大陸を見ているとなぁ。宇宙に上がって、ヘリウム3を回収することが出来たら……オレ、火星にでも行くよ。あっちの居住地は、開拓用モビルスーツ乗りを募集しているみたいだしな」
『マジですかー?』
『向いていないっすよ。大尉みたいなヒトが、コツコツとした仕事とか……』
「オレはマジメだよ。そもそも、コツコツと作業していたじゃないか?事務仕事までしたりして、帳簿を操作したんだぞ?」
『ハハハ。それは、そうですけどねー……』
『ボクら、これからどうなるんすかねえ……ホントにオーストラリアに、宇宙への道なんてものがあるんですか?』
「あるはずだぜ。仲の良い情報屋が言っていたんだ。オーストラリアの復興政策の目玉として、打ち上げ用のシャトル基地を、ここいらでコッソリと作ってるんだってよ」
『んー?』
『……何故、目玉の政策が未公開なんです?』
「バカかテメー。反対派が多いからに決まってんだろ。地元住民には、宇宙と関わるモノは、何だって悪だっていう考えのヤツも多い」
『あー。コロニー落としなんて、喰らっちまえばー』
『そうなりもしますよね?』
「そういうことだ。そういう反対派の政治的な結束は強い。そんなとき。政府と、政府と仲のいい業者がすべきことなんて、決まっているな」
『バレる前に作っちまえってことですか?』
「ああ。議会の許可を拡大解釈して、市民たちに気づかれる前に作る。案ずるより産むが易しと思っているんだろうよ。環境派は結束は強いが、選挙には弱い。正論よりも、皆、金だ。有権者ってのは、大人なんだから、正しさよりも利益を提供してくれる方になびく。シャトル基地が出来たら、そこにつく助成金に、大人は皆で媚びへつらうんだからよ!」
『なんか、大尉の発想って、歪んでいますよねー』
『大人過ぎるっていうかさ』
「知らねえよ。オレはいい年こいたオッサンだもんな!……ともかく、オレの情報を信じろって。そうじゃなきゃ、すぐに追撃部隊を出されて、オレたちなんか、死んじまうよ」
『大尉は生き残りそうって、思ってるんすよねー、オレ』
『なんか、オレたちだけが死にそう。大尉、モビルスーツの操縦、アホみたいに上手いわけだしさ。大尉が全部、悪いのに』
「おい、ちょっとまてよ。なんていうか、全部じゃないぞ?……一連のことの、黒幕なだけだ。そもそも、お前たちも軽いノリでついて来ただろうが?」
『大尉を信じたんですよ』
『信じて損しましたー』
「うるせえよ。ノリノリで犯罪に荷担していたくせによ」
『大尉が、皆やってることだって言いましたー』
『そうだよ。戦中戦後じゃ、こんなちょろまかしぐらい日常茶飯事だって言ったぜ』
「……騙される方が悪いんだよ」
『あ!!言いやがった!!言っちまいやがったー!!』
『今、ついに本音を口にしたよ、この人!!』
「うるせえ。バカ双子ども!!……今さら、文句言ってもしょうがないだろ?……オレたちは、希望のシャトルを奪い取って、宇宙に夜逃げして、ヘリウム3をたんまりとゲットするしか、もう道が無いんだ!!」
『宇宙に夜逃げ……はあ、なさけないー』
『そんなマンガみたいなマネ、実際にすることになるなんて?』
「……人生には、ユーモアがあった方がいいだろうがよ?」
『笑えないレベルだとー』
『ユーモアにもならんすよ』
「……苦労はヒトを磨くよ、若人。ピッカピカに育ちやがれ…………ん。おい、止まれ!!」
大尉は陸戦型ジェガンを急停止させる。部下の二人のジェガンも、同じように停止する。
『なんすかー?』
『追撃部隊っすか?』
「……いいや。お前たち、パイロットは目と注意力って、いつも言ってるだろ?……地面を見ろよ」
『地面?』
『ん。足跡……?』
「……ああ。クソ、情報屋め。オレたち意外にも、あのネタ売ってやがったな」
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