ネット喫茶.com

オリジナル小説や二次創作、エッセイ等、自由に投稿できるサイトです。

メニュー

運命を背負い役目を果たせ

原作: 進撃の巨人 作者: こだま
目次

運命を背負い役目を果たせ

なぜ自分がその立場にいるのか
偶然なのか必然なのか

もし、自分ではなく
他の誰かに代われるとしたら
俺は誰に代わって欲しいのか

いいや。俺は特別だ。
他の誰かにこの役目は果たせない。


「……おい、ポンコツ野郎」

そう呼ばれ瞬時に振り返る。
正確には自分の名は呼ばれていないが、その声につられて振り返った。
振り返ったら俺を見つめていたので、どうやら振り返ったのは正しいらしい。

「なんでしょう。リヴァイ兵長」

神妙な面持ちで、上長の次の言葉を待つ。

「次に俺が何を言うか当ててみろ」
「えっ…何ですかいきなり」

思ってもいなかった返答に俺は困惑する。
すると上長は間髪入れずに言い放つ。

「待ってればなんでも指示がくると思うなよ、ポンコツ野郎」
「せめて名前を……」
「あ? 口答えする気か? お前も肉塊になりたいのか?」

鋭い目付きで、その顔が狩りをする目になったので慌てて首を振る。
なんだ。何を言いたいんだ。

「……えっと、寝室の掃除が甘いとか?」
「てめーがそう思ってるなら、端から掃除し直せ」

違うらしい。
余計なことを言った。
兵長が俺に声をかける他の理由…

「……俺が、巨人の力を上手く使えてないことですか?」

そういうと兵長の眉がぴく、と動いた。

「上手く?」
「俺の力が唯一のカギなのに……」
「誰なら上手く使えると思ってる」

俺の言葉を遮るように兵長は言葉を投げかける。

「それは……エルヴィン団長やアルミンとか」
「それは頭が良いからか?」
「はい」
「頭が良いからか巨人の力を上手く使えるのか?」
「えっ…いや…」

益々兵長の言いたいことがわからない。
困惑する俺に兵長は視線をそらした。

「確かに他の奴だったらもっと上手く使えるのかもしれない」

その言葉を聞いて、自分で言ったくせに兵長に改めて言われて傷ついている自分に気がついた。

「……でも意味なんてあるのか?」

そういう兵長になんて返すべきか悩んでいる内に兵長は続ける。

「俺の目の前で、何人も巨人に食われた。そいつらに意味はないのか? ただ巨人の餌になって終わる命だったのか?」
「そんなことはありませんっ!」

兵長の言葉に咄嗟に否定する。
母親も巨人に捕まり…そして、食べられた。
母親の人生は巨人に食べられるためにあったわけでは決してない。
理不尽に蹂躙される恐怖や絶望感。

巨人は人間を食してエネルギーにしているわけではない。
言うなら趣味で食べているようなものなのだ。
奴らにとってはガキが蟻の巣穴に水かけたり、埋めたりするのと同じ感覚なんだろうな、胸くそ悪いが、と兵長が吐き捨てる。

「そもそも、そんなことで悩めるだけ幸せなことなんだと気づけ」
「……はい」

本当にその通りだ。
巨人のことは何も知らない。何もわからないのだ。
ただ俺には何故か巨人の力を有していて
それは人類の希望となり得る。

いつまた巨人が現れて、襲われるかわからない恐怖にただ怯えているだけではなく
自分にはできることがある。

「お前は与えられた使命を果たせ。余計なことは考えるな」
「はい! すみません!」
「どうせ考えたところで、何が正しいんだかわからないからな。……でも安心しろ」

兵長から出る言葉にしては珍しい。慰めてくれているんだろうか。
兵長の顔を見つめるけど、いつもと変わらず何の表情もない。

「お前が脅威となると俺が判断したら
すぐに殺してやる。」

そうだ。俺は人類の希望となり得ると共に
人類の脅威にもなり得るのだ。

壁の中でも色んな考えが疾走して
エルヴィン団長の機転とリヴァイ兵長の実力がなければ俺は殺されていた。
今があるのは奇跡だと言ってもいい。

団長と兵長は強い信頼関係がある。
もし、団長が巨人の力を有していたら
兵長は団長を殺すことはできなかっただろうか?
聞いてみたいが、怒られるのが目に見えていたのでやめた。

「はい。よろしくお願いします」
「覚悟はできてるようだな」
「それまでは少しでも調査兵団の役にたてるよう頑張ります」

巨人への無知が俺に対する恐怖に繋がる。
もし、これから巨人の正体がわかってきて
俺が人類の道標になることができたとしたら
兵長にそれだけの信頼を勝ち取れることはできるだろうか。

「少なくともエルヴィンとハンジはお前の力に期待している」

そう言い残して、立ち去ってしまった。

リヴァイ兵長は俺に期待してますか?
と心のなかで聞いた。

まだ、それを聞けるほど
貴方に近づいていない。
でもいつか、聞けるように。


「リヴァイは何て?」
「え?」

次の日、訓練の休憩中にハンジさんは脈絡もなく聞いてきた。

「いや、昨日君が巨人の力をコントロールできないことに落ち込んでいたようだから、リヴァイに励ますように言ったんだけど……後で考えてみたらリヴァイがなに言い出すかわからないからね。」

あぁ…どおりで珍しいと思ったわけだ。

「ちゃんと励ましてもらえたかい?」
「はい。気持ちが切り替わりました」
「そうか…リヴァイも部下の面倒が見れるようになったんだねぇ」

そう笑うハンジさん

「エレン……君の力は人類の希望だ。リヴァイもそう考えている。だから、頑張って欲しい」
「わかっています」

他の誰でもない。
自分が背負った運命だ。

まだまだ何も見えないが、この巨人の力があれば、わかることも出てくる。
エルヴィン団長始め、ハンジさんやアルミンもいればそこから更に様々な可能性が広がる。

そして、貴方の信頼を勝ち取ることができれば
貴方の力になることはできるだろうか

「……おい、エレン」
兵長に呼び掛けられて振り返る。
「はい!兵長」
訓練再開するのだろうか。

「……部屋の掃除をし直せ」

鋭い目付きと冷たい表情。そして低い声で言われる。

「はい……」

まずは掃除をマスターする必要があるようだ。


END
目次

※会員登録するとコメントが書き込める様になります。