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謎だらけの善子さん

ジャンル: コメディー 作者: 渚
目次

謎だらけの善子さん

この街には、有名な幽霊の噂がある。
それは、4丁目にある大きな空き屋に女性の幽霊が出ると言われるものだ。しかし、その正体を見た者はいない。いつからか、空き屋になっているその家で幽霊が出るという噂が流れ出したが、実際に見た者はなくあくまでも噂の域を超えなかった。
そんな、何処にでもあるありふれた普通の噂話がある空き屋の前を通り過ぎた時、僕は見てしまった。その幽霊を・・・・

『お帰りなさいませ、ご主人様。
今日はどちらに行かれていたのですか?ご主人様。』

そう、その幽霊は今何故か僕に取り憑いているのだ。

「善子さん。あなたはあのお屋敷に住む地縛霊でしょ?
なんで僕と一緒にいるの?というか、一緒にいて大丈夫なの?」

『はい、ご主人様。
私は幽霊歴も長く、地縛霊と言ってもあのお屋敷に直接縁があった訳でもないので、こうやって長く生命線を伸ばす事で何処にでも行ける体になっているのです。
これって凄くないですか?!私凄くないですか?!』

「いやいや、近いって。
そんな自由なら早く成仏しちゃいなよ。」

『私だって早く成仏して新しい人生へ進んで、大人の階段を勢いよくグイグイ昇って生きたいのですが、どうやら私も良くわからない未練?という線が私をあそこから離してくれないのです。あ、ちなみにこの少し太めで薄ら青みがかったのが生命線で、こっちの少し細めで薄ら緑がかっているのが未練線です。』

「いやぱっと見じゃよくわからないし。」

『そうですか?80年くらい睨めっこしてたらぱっと見でもわかるようになりますよ。』

「僕はまだ16歳だ!」

腰まであるさらさらの長い髪と、見るからにお嬢様といった雰囲気で真っ白いワンピースを身にまとった善子さんは、空き屋の前で偶然僕と目が合ったという理由から今では僕の部屋に住み着いている。他の人には見えないから、周りから最近独り言が増えたという風に見られてしまっている。

「海斗!また独り言?
独り言ならもう少し小さい声で話してくれる。」

「母さん。だから勝手に入ってくるなって。」

「まぁ。思春期だからってエッチな本とか隠しているのかしら。」

「そうじゃないけど。」

『どうもお母様。海斗さんにはいつもお世話になっています。
善子は、海斗さんの為ならエッチな事でも少しだけなら覚悟出来ていますので大丈夫です!』

「いや、聞こえてないから。」

「何が聞こえてないって?まったくおかしな子ね。」

そういって不思議そうな顔もせず、僕の態度と独り言に呆れたような顔つきで母親は部屋から出て行った。
16歳の高校生だからって、そんな偏見の目で見られても困る。確かに善子には内緒の隠し場所もあるけど、最近は隠しっぱなしだから見ることも出来ないし。

『海斗さん?もしかしてお母様が探してらっしゃったのはこの薄い本の事ですか?』

「わーーーーー!どっから出してるんだよ!」

『あらあら、海斗さんってこういう趣味を持っているんですね。くすくす。』

「見るなーーーー!!」

こんな賑やかな日常になって、1ヶ月という時間があっという間に過ぎていった。
このままでは私活問題になりそうだ。そろそろ本当に善子さんの未練を探し出さないと。

「善子さん。あの空き屋以外で記憶に残っている場所とかないの?」

『そうですね~・・・
150年くらい前の事ですし、最近はここ10年で辺りもすっかり変わってしまって、私的にも新しい街に引っ越してきたのではないかと思うくらいの街並みですから。』

「そんなもんかな。
じゃぁ、図書館で地図とか見ればわかるかな?」

『図書館とは、そんな本まであるのですか?
私のいた時代には、殆どの場合自分の家にある本で捜し物や勉強をする程度でした。
大きな建物でたくさんの本を置いてある場所なんてなかったですから驚きです。』

「図書館って昔からあるんじゃないの?」

僕と善子さんは、街にある一番大きい図書館へ向かった。
150年くらい前って明治とかそのくらいかなぁ。そんな時代に白いワンピースを着ている女性って目立つからわかりやすいと思うんだけど。善子さんのビジュアルからして、今の時代なら当たり前の格好だけど、150年も昔の事となると話は別だ。肌の露出が多い服装は好まれない時代だからこそ、良いとこのお嬢様で、もしかしたら名前や顔が出ている記事もあるかもしれない。
そう思った僕は、図書館にある時代に見合いそうな新聞など情報関連の書物を片っ端から見て回った。

「もう夕方か。一日中探して、何も見つからないなんて・・・
善子さん、本当は何処に住んでたの?あの家じゃないの?」

『そうですねぇ。あの家にはほんの少しの間しかいなかったように思えるのですよ。
ご主人様も多分一緒に住んでいたはずですが、覚えていませんか?』

「いやいや。僕はまだ16歳だよ。150年も前にあの家に住んでいたなんてあり得ないよ。」

『そうですか。私にゆかりのあるご主人様だから、もしかしたら私の未練もわかるのかなって思っていたのですが。』

「ちょっと待って!そんな話初耳だよ。」

『言いませんでしたっけ?
私の左手の薬指から伸びている、このとても細く薄ら赤みがかった線は運命線で、自分とゆかりのある人物と繋がっているのです。そして、その繋がっている人だけはご主人様のようにこの世の存在ではなくなった私たちみたいな人間を見る事が出来るのです。』

僕は自分の左手を改めてじっくりと見た。すると、今まで気が付かなかったが、確かに薄ら赤みがかった細い線が延びて善子さんと繋がっていた。

「こんな線、前からあったっけ?」

『はい。ご主人様とお会いする前からちゃんとありましたよ。あまりの細さに凝視しないと確認出来ないですが。
だから、私はご主人様に話しかけるきっかけをずっと待っていたのです。』

今まで気が付かなかったはずの僕の左手の薬指に繋がっているその運命線は、夕焼けで赤く染まった図書館の中でも今ではくっきり見えている。この線があるから、僕と善子さんは話す事も出来ていたのか。

「今日は遅いから、また今度善子さんの過去探しをしよう。」

『はい。ご主人様。』

その後、毎週のように図書館へ通ったが、手がかりは何一つ見つける事が出来なかった。
そんな日々が半年過ぎ、善子さんの過去探しを諦めていた僕は何気なく街をぶらぶらと散歩していた。

『ご主人様。潮の香りがします。』

「は?ここは内陸側だから海はないよ。潮の香りなんて・・・
え?本当だ!海の匂いがする。」

『ご主人様!こっちです!』

僕は善子さんに手を引かれ、普段は通らない袋小路になっているはずの裏道に入っていった。薄暗いはずの道は眩しく光、僕は目を開ける事が出来なかった。
そういえば、善子さんに触れたのは初めてだ。今まで触ろうともしなかったけど、善子さんって触れるんだ・・・

『着きましたよご主人様。ここは私も見覚えのある場所です。』

「こんな裏路地に何があるって・・・」

目の前に広がる光景を目の当たりにした僕は、驚いて声を失った。
そこは、さっきまでの内陸側で山が近くに感じる住宅地ではなく、海の見える大きな草原で、大きな木が1本だけ生えている見晴らしの良い広場だった。

『ここは、150年たっても変わりませんね。
私はここで生まれて、ここで育ちました。』

「ここ、どこ?」

『ご主人様。改めまして、私はこの領土を納めるマルシエ家の跡継ぎ、領主のヨシュコラータ・ヴィ・マルシエです。ご主人様を異世界召喚でお迎えする為に異世界の“ニホン”へやって来ました。うっかり間違えて150年も前に飛んでしまいましたが、やっと会うことが出来ました。
てへっ。』

「てへっじゃない・・・これはいったいどういうこと?」

『あのお屋敷は、150年以上前からずっと空き屋になっていて、偶然私の住む城で造った異世界転送の魔法陣と共鳴し、ワープホールとして繋がった場所なのです。
ですが、ワープホールの喪失と共に私の記憶も喪失してしまい、気が付けば150年も彷徨うことになってしまいました。
てへっ。」

「どんなうっかりだよ!」

『そして、なんとご主人様は城の能力者によって勇者となるべく選ばれた選定者です!
是非この国を救ってください。そして魔王討伐に一役かってください!
あ、ちなみに過去に99人の勇者を召喚しましたが、歴代の勇者様は魔王討伐で見事に散っていきました。ですが、ご主人様なら、多分きっと大丈夫です!
てへっ。』

「えーーーーーー!!!」
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