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コンビニ

ジャンル: 現実世界(恋愛) 作者: 渚
目次

コンビニ

「今日もコンビニで弁当ですませるか。しょうがない、これも仕事だ仕事。」

俺は、それなりに名のある食品加工メーカーのサラリーマンをしている。仕事内容は、コンビニの新メニュー開発などなど・・・そんな理由を建前にして日々研究熱心にコンビニに通っているわけだ。
というのは半分嘘で、25歳独身の俺としては家で誰かが飯を作って待っている訳でもなく、料理とかも苦手だから結局コンビニ弁当を食べる選択肢しかない。
(今日のメニューは何にしようかな。)
そんなコトを考えなら近所にある行きつけのコンビニに入った。

ピーンポーン

コンビニの入り口で鳴っている聞き慣れたチャイムを聞き流しながら、レジの前を通り過ぎた俺は弁当コーナーまでの道をまっすぐ歩いていった。
時間はすでに12時を回り、日付が翌日になっている。こんな時間だから、予想通り弁当コーナーにはろくなモノが並んでいない。わかってはいたが、売れ残りですと言わんばかりの定番メニューを手に取ってまっすぐレジに持っていった。

「・・・いらっ・・いませ・・・」

レジに立っていたのは、疲れているとか関係なく普通に聞き取れないほど小さな声で接客している見慣れない女性従業員。そして、店内に人の気配が一切無い。どうやらあからさまに自身なさそうにしているその女一人しかいないようだ。最近は行ったばっかの新人か?なんでこんな奴一人に店を任せるとか、ありえないだろ。
名前は・・・“はたしの”?変わった名前だな。
店にぽつんと一人取り残されてしまったのうな雰囲気でレジに立つ女は、分厚いメガネに長い髪を後ろで一つにまとめている。どう見ても俺より年上で、しかも独身だろう。見た目もパッとしないし、きっと彼氏とか絶対にいないんだろうなぁ。
でも、もう少しキレイにしてればそれなりな雰囲気もないわけでもないとは思うが・・・
俺は弁当を暖めている女の後ろ姿を見ながらふとそんなコトを考えていた。
その女は新人で慣れていないのか、弁当の温め時間に悪戦苦闘していた。何度か弁当の温度を確認してはレンジの中に戻すという作業を繰り返し、結局15分ほど待って出てきたのは温めすぎて淵すら持てない程熱くなった弁当だった。
こんなコトをクレームにして言ったってどうしようもないし、俺としてもそんな面倒なコトはしたくない。袋から漏れる湯気が弁当の暑さを物語っているが、終電帰宅の疲れ果てていた俺の腹減りはMAX状態。相変わらず聞こえるか聞こえないかの微妙な声で謝罪の言葉を繰り返す女に少しイラッとしていたが、何も言わずコンビニから出て行った。

「・・・すみません、すみま・・・」
ピーンポーン

結局女が口にする謝罪の言葉は入り口のチャイムでかき消されてよく聞こえなかった。
家に付く頃になっても熱いままの弁当をテーブルに置き、疲れた体をリフレッシュさせるために俺は風呂に入った。
さて、暖まりすぎた弁当でも食うかな・・・・って、あの女箸も入れ忘れてる。どうしようもなく使えない奴だ!ああいう女は、きっと社会に出てもロクなことにならんな。うん。
俺はしょうが無く台所から自分の箸を取り出し、その弁当を胃袋に納めて寝ることにした。

翌日、近所のコンビニの本社と新メニュー開発の会議が行われた。昨日の件が気になっていたが、余計な事を言って商談がまとまらないなんてことになったら俺の人生終わってしまう。このメニューが決まれば今年一番の売り上げらしく、会社としても一大プロジェクトだと言われた。
絶対にこの企画は何が何でも成功させてやる!
今日はバイヤーとの初打ち合わせという事で、俺の緊張はMAX。しかも、噂では相手会社のバイヤーは女性で、かなりのやり手らしい。どの関連メーカーの営業も一目置くほどだそうだ。今回の商談もやっとのことで直接の打ち合わせまでこぎ着けた。この日までどんだけの苦労があったかを話すと一晩では語れないほどだ。

コンッコンッ
「お待たせ致しました。惣菜及び米飯担当の畠です。宜しくお願いします。」

待つように言われて通された会議室に現れたのは、長い髪を後ろで一つにまとめたメガネの似合う大人の雰囲気を醸し出している女性だった。そして、パンツスーツを着こなす立ち姿にうっすらオーラのような輝きすら見える。

「ほ、本日は貴重な時間を頂き、あ、ありがとうございます。ほ、本日は宜しくお願いします。」
「こちらこそ、宜しくお願いします。どうぞおかけください。」

女性バイヤーのオーラに負けそうになった俺は、あからさまな緊張を見せてしまった。それでも会社としての大きな仕事任されている責任がある俺はなんとか自分を勇めて商談の話を始めた。
1時間ほど新規で取り扱う提案メニューの説明を聞いた女性バイヤーは、急に立ち上がり誰かに電話し始めた。

「そうです。・・・はい。・・・はい。わかりました。では、こちらで進めさせて頂きます。」

「あの~いかがでしたでしょうか?」

「一先ず今回のご提案はとても良かったと思います。ただ、試作品を作ってみてからの再検討ということでよろしいでしょうか。」

「はい!ありがとうございます!!」

やったーーーー!俺やったよーー!!
会ってから商談中も眉一つ動かさなかったクールな女性バイヤーが、最後ににっこりと微笑んで俺を見送ってくれた。
あ、惚れそう。
きっとなんでも出来る凄い女の人なんだろうなぁ。あんな人と結婚する相手ってどんな男なんだろう。
商談が上手くいった事に安心しきった俺は、仕事の事をすっかり忘れて見惚れてしまう程のキレイな相手の女性の言葉ばかり考えていた。

会社に戻った俺は、早速試食の発注と再設定する書類の書き直しに大忙しだった。残業確定を革新した俺は、指定された次の会議までになんとか間に合わせるため必死で会社のパソコンと向き合っていた。
そんなこんなで時間はあっという間に過ぎ、気づけば終電ギリギリの時間。
今日も終電か・・・
そして、今日もいつものコンビニか。

ピーンポーン

毎度聞き慣れた入り口のチャイムをスルーした俺は、そのまま通り慣れた弁当コーナーまでのルートをまっすぐ歩いて行った。
こんな時間だし、予想はついていたがやっぱり今日もこんなもんか。
徐に手に取った弁当を持ってレジに向かうと、あのオーラゼロ女が一人レジに立っていた。またあいつか・・・・

「・・・・いらっ・・しゃ・・・せ・・・」

昨日よりさらに聞こえにくい声で接客していた女にイラッとしたが、今日の俺はMAXに機嫌がMAX良い。小さな事は気にしない。なんたって今日の俺は気分が良い。
だがしかし、未だ仕事に慣れていない女は昨日に続いて弁当の温めに大苦戦。弁当温めるくらいボタン一つなのに、なんでそこまで苦戦出来るのか想像出来ない。
そして出てきたのは、やっぱり温かいとは言えないほどの湯気を放出している熱々弁当だった。

「そういえば、昨日箸入ってなかったんで入れてくださいね。」

「は!すみませんすみません!!」

なんか見覚えあるんだよな、この女。
はたしの、はたしの・・・はた・・しの?
いやいやそんなはずはない。だって見た目とオーラが全く違う。
そう思いながら俺は名刺入れから1枚の名刺を取りだした。
“新規惣菜開発部門部長:畠志乃”
?!?!

「あの~もしかして、畠さんですか?」

「・・・そうですけど、どこかでお会いしましたでしょうか・・・?」

うつむいたまま俺を見ようとしない女に、俺の名前を伝えると言葉にならないほど驚いた様子でカウンター裏に隠れてしまった。

「あの~・・・」

「こ、これは会社の方針で・・・現場を知らないと良い商品が出来ないからと言われて・・・でも私接客とかしたことないし、料理も機械も駄目で、仕事しか出来ないから・・・本当は嫌だったんですが、見下されるのが嫌っていうか・・・その・・・」


「とまぁこんな感じでパパとママは出会ったんだ。わかったか?」

「ふ~ん。ママが機械音痴で料理が苦手なのって昔からだったんだね。」

ガシャーン!!!

背中越しに、突然皿の割れる音が家中に大きく響き渡っていたが、俺はそんな小さな事は気にせず小学生になる息子を膝の上に置いて懐かしい昔話を聞かせていた。
息子の宿題で、なんかいい話がないかと言われてふと昔の事を思い出していた。
あの運命的な出会いがきっかけで、俺は志乃と結婚した。しかも、今では息子もいる。
あんな美人が俺の嫁さんになるなんて、当時は想像も出来なかったな。

「ママ、またやってるよ。」

「そういうな。昔よりはマシになったんだから。」

「ふ~ん。」
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