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クロスゲーム 【最終回編】

原作: その他 (原作:クロスゲーム) 作者: 野良作家
目次

クロスゲーム 【最終回編】

(一)

光が所属する神宮スワローズは、最終戦を待たずに4位が確定しており、クライマックスシリーズ進出が出来なかった。光は、朝早く家を出て、若葉が眠る所沢霊園にいた。

「今年もチームは4位でダメだった。でも最多勝利投手は決定したよ。・・・若葉がいたらどうなっていたかわからないけど、今日の最終戦で勝利投手になったら青葉にプロポーズするつもりだけどいいか?若葉がダメと言うならそれに従うよ。若葉の許しが無いと、この先進めそうもないからさ。」

と光は月島家の墓前の前で若葉に話しかけていた。

「あれから10年以上経つんだもんな・・・今日勝ったらまた報告に来るよ」

と言って光は月島家の墓前から立ち去った。

(二)

この日の数日前に、大宮アストライアの寮に、月島青葉宛ての手紙が、神宮スワローズの封筒で送られてきていた。寮長が封筒を持って、青葉の部屋に

「青葉ちゃん。手紙来てるから置いとくよ。」

と言いテーブルに置いて部屋出て行った。

光から青葉に神宮スタジアムの神宮スワローズと東京ジャイアンツの最終戦のチケットが3枚入っていた。中の手紙には、最終戦だから、たまにはスタジアムにチームの仲間と見に来い的な内容が書かれていた。

「たった3枚ってまた中途半端なんだから。」

とぼやいている青葉だったが、その表情は笑顔であった。

すると、青葉の部屋に2人が訪れた。1人は加藤亜矢選手と西川みなみ選手だった。青葉とは、同期入団で年も同じだったせいか、仲良し3人組だった。

「青葉~神宮スワローズから手紙が来たんだって!?」

と加藤が口を開くと

「青葉知り合いがいるの?私達神宮スワローズのファンクラブ入ってるんだけど、球団から手紙なんかもらった事ないよ~」

と西川も加藤に続いた。

青葉は、この2人ならと思って、とぼけた口調で

「何かで、当たったんじゃないかな~観戦チケット、それも3枚!」

加藤と西川は大騒ぎで日程を聞いて、一斉に

「行かさせていただきます」

とにこやかに青葉に答えていた。

(三)

試合当日、青葉と加藤・西川は、既に、神宮スタジアムの入り口付近に着いていた。

「順位決まってるのに、こんなにお客さん来ているんだ~!」

とビックリしている青葉に、加藤は

「青葉知らないの?樹多村投手とジャイアンツの東選手の最終の直接対決だからね。」

西川は加藤の言葉にうなずいている。

「それに、樹多村投手は単独最多勝掛かってるし、東選手も打点とホームランを、尾道カープの三島敬太郎選手と並んでいるからね~」

「よく知ってるね~感心感心」

と青葉はスタジアムの入り口に向かって歩きはじめていた。

青葉は心の中で光が絶対、東先輩に勝つ!と思っていた。

「え~と席は・・・」

と3人で探していると、もしかして、と顔を3人が見合わせた。その席は、ほぼ1塁側のベンチ裏に近い指定席だったのであった。

(四)

試合は神宮スワローズが東京ジャイアンツに1対0で勝っていた。樹多村に最多勝をとチームが一丸となっている感じが漂っていた。既に8回の表裏を終わって、9回のジャイアンツの攻撃に移っていた。

光がマウンドに登ると、捕手の古川が近づいてきた。

「樹多村!勝てば最多勝確定だからな!気合入れろ!勝っても順位に変動はないが、東だけは押さえろ!」

光は帽子のツバを持って、いつもの調子で

「了解」

「お前は、たいした奴だよ。」

と光の肩をたたき、小走りでホームベースに向かって行った。

青葉は光のフォームを見て確信していた。

(今日は、きっちり決まっている。)

青葉の両隣にいる、加藤と西川は必死に樹多村とスワローズナインを応援していた。

青葉は、昔と違って光の投球を1球ずつ確認しながら膝においた両手を握り締めていた。

既に、ジャイアンツは2アウト。ここで打席に立つのは、東雄平。

東がバッターボックスに立つと、光は肩のギアを一段上げた。

1球目ストレート159Km、空振り

2球目、160km、空振り。この球は高校以来初めて出した160kmだった。

驚く東に対して、冷静に光は、ボールを両手で擦り後ろを向き、帽子の汗をぬぐっていた。

緊張の3球目、青葉は目を疑った。今までで一番のフォームで球を投げたのだった。今季最高スピード165kmをマーク。東はバットを振る事さえできなかった。スタジアムは一瞬そのスピードに一瞬静寂になったのだった。



「今日のお立ち台は、もちろん日本最速を出した、樹多村光投手です。」

と紹介され、お立ち台に立った。光はアナウンサーの耳元で何かをささやいた。それを聞いたアナウンサーはスタッフに何かを確認していたがOKサインが、すると、アナウンサーが、

「ここで、湘南スタジアムのバックスクリーンと連動します。」

と言うと神宮のスタジアムに湘南スタジアムの様子が写しだされた。湘南スタジアムも9回の試合中だった。すると樹多村が、

「赤石~あかねちゃん聞こえてる~」

と手を振った。正捕手になっていた赤石は急きょタイムを取った。

光はマイクを借りて、フッと一息呼吸を整えた。

「月島青葉さん、俺と結婚してください。」

といった後、頭を下げた。スタジアムは騒然とした後、静寂感に包まれた。すると、東が3塁ベンチから光に近づき、マイクを手に取り。

「月島!スタジアムに来てるんだろ!樹多村に応えてやれ!星秀野球部の先輩命令だ!」

と大声で話した。動揺する青葉に、茫然としていた加藤と西川が、

「青葉!後で話はゆっくり効かせてもらうからね!ほら!答えてあげなよ」

と青葉の背中を押した。

各局のテレビカメラが青葉を捉えた所で、バックスクリーンに青葉の姿が映し出された。

青葉は、顔を赤く染めていたが、

「東先輩・赤石先輩ありがとうございます。光!私も大好き!これから料理覚えるから、宜しくお願いします。」

と青葉は大声でスタジアムに響くように答えた。

茫然とする光に、東は、光の肩をたたき、ガッチリ握手を交わした。

赤石とあかねも光のプロポーズを聞いて、心を決めたようだった。

「光。サンキュウ。タイム解除で」



1年後、一姉が結婚式をした教会で、星秀学園優勝時のメンバーも集まり、光と青葉の結婚式が行われた。

青葉は、ブーケを滝川あかねに手渡し、

「次は、あかねさん達だね。」

「おめでとう。青葉ちゃん。」

とあかねは涙ぐんでいた。

一姉は長男、航太郎君を抱え、紅葉と月島のお父さん・樹多村家の面々は大喜び。

光も青葉も、みんなの姿をみて、

「青葉、いっぱい幸せにしてやるからな。」

「わかってますよ~。旦那さま。」

といい光の右腕にしがみついた。
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