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山姥切国広極めたらもう一人増えました

原作: その他 (原作:刀剣乱舞) 作者: レジス
目次

薬研藤四郎と乱藤四郎


突然声が頭上から降ってきて、驚いている私の目の前で乱藤四郎が動いた。
審神者さんを背後から山姥切極のほうへ突き飛ばして刀を抜き放つ。
その瞬間目にもとまらぬ速さで刀がぶつかり合った。
屋根から振ってきた少年と乱藤四郎の刀がぶつかったのだ。
「薬研!どうして!!」
乱藤四郎に薬研と呼ばれた少年は傷だらけの体で短刀を振り回す。
「お前こそどうしてそいつをかばう!とうとうそいつは俺っちたちのことを折るって言ったんだぞ!!」
「そんなの当たり前じゃん!!呪われてるってわかったら誰だってそうなるよ!薬研たちこそどうして呪詛なんかに手を出したの!!」
鋼がこすれ合う音がして薬研が距離を取る。
薬研から審神者さんを守るように山姥切国広極と山姥切国広が刀を抜く。
私と長義もいつでも刀を抜けるように身構えて立った。
「お前はいなかったもんな……そいつの暴力に耐えかねて秋田が顕現を解いたんだ」
「秋田が?!」
「なんだと?!」
乱藤四郎に、知らなかったのか審神者さんも驚いていた。
秋田藤四郎は私も知っている。
一期さんと畑仕事をしていると時に麦茶の差し入れをしてくれた優しい子だ。
そんな優しい子が審神者さんを見捨てて顕現を解いてしまうなんて一体どんな酷いことがされていたのだろう。
一瞬、ほんの一瞬乱藤四郎の動きに迷いが生まれた。
その隙を逃さず薬研藤四郎は乱藤四郎の横をすり抜け審神者さんに向かって大きく踏み込む。
「っ!!」
審神者さんを守るように山姥切国広が前に立ちはだかる。
「やめろ!室内じゃ短刀に勝てっこない!」
「近侍としてそれはできない!」
やめさせるように審神者さんが叫ぶがそれを彼は拒否した。
「そいつもろとも貫いてやる!!」
薬研藤四郎の刃が突き出される。
山姥切国広の刀はどう考えてもガードできていない位置にあって……

「させないっ!!」

とっさに間に乱藤四郎が飛び込んだ。
しかし短刀を構える暇は無かったのだろう、その体に深々と薬研藤四郎の刃を受け入れていた。
「乱!!」
驚いて私が駆け寄ろうとするのを長義が止める。
「や……げん……」
乱藤四郎は口から血を滴らせながら薬研藤四郎の目を見ていた。
「乱……どうして、そこまで……」
審神者さんを乱藤四郎が捨て身でかばった事が信じられない様子だった。
乱藤四郎は薬研藤四郎の問いに答える代わりに微笑んだ。
しかし気持ちを切り替えるように乱藤四郎から刃を抜くと私達の間を縫うように部屋から飛び出して行ってしまう。
ひとまず敵が去ったので安心したのか乱藤四郎がその場に座り込んだ。
「乱!おい乱!!」
審神者さんが短い距離を駆け寄る。
その様子だけで彼は大切にされているんだな、と分かった。
「主さん、山姥切……無事?」
「無理にしゃべるな!早く、て、手入れを……」
乱藤四郎は慌てる審神者さんの手に自分の手を重ねておく。
「主さんは部屋、出ちゃ駄目……僕は大丈夫、だから。長義、結界をお願い……」
そう言って、乱藤四郎は私たちに部屋に結界を張るようにお願いしてくる。
「審神者から刀剣男士を守るために持ってきた札をまさか審神者を守るために使うなんてね」
長義は懐から数枚のお札を取り出す。
するとそれを部屋の各面に張り付けた。
「これでこの部屋を出入りすることはできなくなった。安心しろ」
「うん……ありがと」
「あぁ、乱……なんで、なんで俺をかばった」
かばわれた山姥切国広が泣きそうな顔で言う。
その顔を見て乱藤四郎は少し笑った。
「一人でも欠けたら。主さん泣いちゃうでしょ……?」
「な、泣かないぞ?!」
「僕はね……また、前みたいに皆でわいわいしてたいんだぁ……」
どさりと乱藤四郎は倒れ込む。
驚いて抱き起こす審神者さんの目には涙がたまっている。

刀剣にヒビが入る嫌な音がした。

****

それから程なくして救助部隊が到着し私たちは救出された。
呪詛を放っていた刀剣男士達は全て各自の意思で顕現を解きそのまま刀解を受け入れている。
審神者さんの元に残ったのは二振りの山姥切国広、そして元気になった乱藤四郎の三振りだけだった。
あの時、誰もが音を聞いて乱藤四郎は折れてしまったんだと確信した。
しかし不思議なことが起こったのだ。
ヒビが入り今にも折れそうだった刀身が一瞬で綺麗な状態に戻り、乱藤四郎の容態も良くなった。
驚いている私達の前でピョンと立ちあがった乱藤四郎がポケットから取り出したのはお守りだった。

僕は大切にされている。

その言葉は刀剣破壊を防ぐお守りを貰っていたから出た言葉だったようだ。
渡した審神者さんも忘れていたのか驚いていた。
審神者さんと三振りの処分は軽くは無かった。
三振り以外の刀剣全てが刀解処分となり、広々としてしまった本丸、通常通り日課の任務が課せられるといった状態で本丸の運営を続けていくことになった。
それでも、初期刀、初期鍛刀、近侍の三振りさえいれば立て直してみせると審神者さんは言った。
三振りも審神者さんが今度こそ道を外さない様にしっかりと面倒を見ていくのだと言っていた。

今回の件で私は何もできなかった。
そのことは別に気にするなと長義に言われてしまったが、やっぱり私にも何か出来たのではと考えてしまう。
相も変わらず練度は1のままだし、こんなので本当に山姥切国広の仲間を助けることができるんだろうか。
そう不安にならずにはいられなかった。
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