人斬りのイメージ
・・・わぁ。やっぱり、麗憐は笑っていた方が綺麗だな。
・・・私が花を買ったから?お見舞いに行ったから?
だから買ってくれたんだ。嬉しい。すごく嬉しいよ、麗憐。
「・・・何故だ?何故、俺には分からない力を、麗憐が分かる?
お前に必要な力ではない、それは俺が手に入れるはずのものだ・・・!」
「ユノ様・・・!ごめんなさい。あたいは、ユノ様の力を奪ったつもりは・・・!」
「待って、違うの。違うんです!」
も~、そういうんじゃないんだってばー!
「愛っていうのは、みんなが持っていて。誰かが独り占めするものじゃないから。
だから、麗憐が愛を持ったからって、ユノ様の力が減るわけじゃないんです。
ユノ様の愛は、ユノ様の中だけにあるんです!」
・・・って、言って分かるかな?
「・・・そうか」
「そうです。だから・・・心配しないでください」
「そうか・・・分かった」
ユノ様はそう言うと、じっとひなのを見つめてくる。
「・・・な、何ですか?」
「いや・・・やはり、俺にはない力を、お前は持っているんだな。
お前の目を見ていると・・・なんだかな。
人斬りの俺たちとは、違うものを感じる」
「・・・。それは、い・・・嫌ですか?」
「・・・不思議な気持ちだ。嫌ではない」
二人の間に流れた空気を、感じ取ったのはひなのだけだろうか。
・・・あれ、なんだろ・・・
・・・ユノ様の細くて吸い込まれそうな目、嫌じゃない。
初めて会った時は、すごい嫌だと思ったのに・・・。
「へぇ。ユノ様がそう言うなら、ひなのさんは、本当に八龍の力があるんですね」
・・・いやいや、本当、普通の人間なんだけど・・・
私で力があるとか言ったら、世の中のもっと優しさに溢れてる人達、どうなっちゃうの。って感じだよ。
「おっと、ちょい待ち。ユノ様、止まって下さい」
突如、先頭にいた空牙は立ち止まると、その手で後ろ組を制した。
ひなのも驚いて立ち止まる。
何々?なんかいるの?!
「ユノ様、昨日の残党です。始末して来ます」
昨晩、ユノを襲ったという輩の残党が、向こうの曲がり角を曲がって行ったらしい。
「空牙、僕が行くよ。昨晩こっちは至って普通でつまらなくてね・・・僕の妖刀が動きたがっているから」
鬼優が、見えもしない妖刀を鞘から抜く。
「ユノ様は、ひなのさんを連れて宮古寺(みやこでら)に急いで下さい」
「あぁ、そうだな。任せるぞ、鬼優」
・・・可愛い顔して、強いのかな?鬼優って人。・・・大丈夫なのかな。
「じゃあ、また後で。・・・あ。
ひなのさん、髪にソフトクリーム付いてますよ」
「えっ!?」
「ごめんね、タオルとか今ないんで・・・髪ごと引っこ抜くか、妖刀で切って貰えばいいと思います」
そ、そんなことするわけないでしょうよ!!
「本当か?ひなの、あたいの東雲でぶった切ってやる!髪の先っぽよこせよ」
「だ、大丈夫!これくらい大丈夫!・・・ほら、ね!手で取れるから。後で手と髪洗うから平気!」
鬼優はとっくに行ってしまい、やけに優しさに目覚めた麗憐を抑える。
な、なんかこの人達といると、人斬りのイメージ壊れるな・・・
「昨晩やつらを見かけたのは、この先のティー路地右、それから髑髏沼(どくろぬま)の近くだ。
空牙と麗憐で、手分けして行ってくれ」
「御意。俺、ギリギリまで一緒行っときましょうか?
・・・まぁ、ユノ様に手傷を負わせるような奴じゃ、俺がいても太刀打ちできないかもしれないけど・・・
盾くらいにはなれるかも」
「ユノ様の盾なら、あたいで十分だ!」
・・・そんな、昼間っから襲われる可能性も、あるのかな。
「・・・あの。
その、昨日ユノ様を襲った人達って、強いんですか?まだいるんですか、この辺に?」
「だいたいは、昨日俺とユノ様で処分したよ。
ただ、一人やっかいなのがいてね・・・
・・・勿論ユノ様が斬ったけど、まだ仲間がいるなら一人残さず消しとかないと。
例えば、俺は班長だし結構強い方だと思うんだけど、俺が三人いてもユノ様にはかすり傷一つつけられない。
俺と麗憐、鬼優が組んでも無理な話だ。
それなのに・・・そいつは、ユノ様の手の甲に傷を負わせた。
そんなやつが平和町にいるとは、思ってなかったんだよ」
・・・そうなんだ・・・
かなりの一大事だったんだ、昨日の出来事は。
いつも平然としてる空牙の顔が、わずかながら深刻そうなのを見て、ひなのにもようやく事の大きさが伝わった。
「・・・もう宮古寺に着く。余計な心配はいらない。お前たち二人は先に行け」
「御意」
「はい」
商店街を抜け、雑木林や細い田舎道に入ると、ユノとひなのは二人と別れた。
「着いたぞ、ここだ、
人斬りの発端の地・・・秘蔵の眠る地・・・"宮古寺"」
・・・宮古寺。
ここが、人斬りの始まりの地。
なんか、普通の神社みたい。いや、宮古寺だからお寺かな。
人斬り一人おらず、まるで隠されるように林に覆われるこの場所。
大きな井戸に水が溜まり、寺といいつつ古ぼけた赤い鳥居が構えている。
その一番奥に、一階建ての建物があった。
昔の和風建築みたい。
「・・・お前は、人斬りをどう思っている?」
「・・・えっ?」
どう思ってるって・・・
「人を殺す人達・・・かな」
「・・・ふっ」
ひなのの、そのまんまの説明に、ユノは小さく笑わずにいられない。
「そうか。まぁ、そうだな」
「人斬りイコール処刑人みたいなイメージがあって。私達の日常には、接点を持つべき人種じゃないって。
でも・・・
なんだろ。純粋なのかもって思いました。麗憐とか特に。
それに、みんな・・・
思ってたのと違います。無差別じゃないし、犯罪者でもないし」
とか言いながらも、私もまだよく分からないんだけどね。
「人斬りはな、当初二人の男女から始まったんだ。
・・・来い。中に入れるようになっている」
ひなのはユノに着いて、建物の中へと足を踏み入れるー・・・
『弥之亥の者よー・・・』
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