手探り
「霜月監視官」
「は、はい!」
「ひとりで大変なのはわかる。だから、助けなくてはダメよね?」
「はい、そうです」
「財団はなんと?」
「言っている意味がわかりかねるが、必要なら好きなように調べればいいとのことでした。東金朔夜に関しては汚点でしかなく、もう一度あれと同じものを作れるかという件については可能だが、再びはない、断言できるとのことです」
「そう。では財団の捜査はまだあとでいいわね。だとしたら、動き方も見えてくる。まず霜月監視官と宜野座か須郷のどちらかが征陸さんと映画館の方に確認にいく。そこで使われた移籍があるのなら、執行官のひとりがそこの狡噛たちとあつらの世界に行き、もうひとつの仮説の捜査をする。執行官を無事こちらに戻してもらうために、いいかたは悪いけど、チェ・グソンか狡噛にはこちらにとどまってもらう。単独で戻れないらしい狡噛の方がいいわね。で、いいでしょう、宜野座」
ふだん、指示待ちで動くことが多い印象の六合塚の行動的な姿に圧倒される。
だが、これが一番それぞれいい落としどころなのかもしれない。
宜野座は「それで問題ない」といい、霜月監視官と六合塚と征陸をもう一度あの映画館に向かわせた。
そして須郷とチェ・グソンがあちらに行き、チェ・グソンの仮説の捜査にあたることにした。
本当なら自分が行きたい。
だが、それぞれの結果を聞き指示を出せる人物はいない。
監視官だった頃の経験が活かせるかは疑問だが、自分が残るのが最善だろうと考えたのだった。
「ずいぶんと思い切ったことをしたわね。本当はあなたが誰よりも先に駆けつけたいんじゃないの? 朱ちゃんのこと、心配だものね」
唐之杜なりに、宜野座の判断を評価したつもりだが、今の宜野座には嫌みにしか受け取れなかった。
※※※
宜野座に指示を出されたことに不満タラタラの霜月美佳だが、六合塚と行動できることで次第に機嫌が戻っていく。
「先輩には早く戻ってきてもらわないと」
霜月は何度も呪文のように繰り返す。
面倒なことはイヤだと思いながらも、朱に新人扱いされたり、仕事を任せてもらえないのも不満である。
面倒な仕事ではないことを任され、そして認められ出世したい、そんなところだろう。
反面、朱に対し後ろめたいこともある。
諸悪の根元である東金朔夜の登場は、美佳にとって想定外のことでしかない。
理屈では同一であっても別人とわかりながらも、後ろめたさがある分、割り切れない。
東金朔夜をなんとかしなくてはと気持ちだけが焦るが、この感情は誰にも知られてはいけない。
信頼している六合塚にでさえ……
映画館に戻ると征陸がスタッフを見回し、先の件で対応してくれたスタッフを見つける。
その者にいえばいちいち説明しなくても融通がきくのではないかと助言をする。
「だったら、あなたが言えばいいじゃない」
と、霜月は初対応を来訪者である征陸に押しつけた。
「おい、いくらなんでも……公安として中に入り調査するには、監視官の立ち会いが必須だ」
宜野座はせめて名乗るくらいはしてほしいと頼む。
そこに六合塚のひと言がくわわり、美佳は渋々征陸に同行する。
その後ろに宜野座と六合塚がつき、
「すまないが、数刻前の件でちょっと落とし物をしてしまったみたいで、もう一度トイレを確認させてもらえないだろうか」
と、征陸が切り出した。
ところが、スタッフは軽く小首を傾げる。
「お客様、数刻前、とはどのようなことでしょうか?」
「……? いや、娘(秀ちゃん)が戻ってこないと護衛の執行官を呼び入れて捜した件だ。キミが対応してくれたじゃないか」
「いえ、人違いでは?」
「そんなことはない。それに、スタッフのひとりが……」
と言い掛けて、そのあとの言葉を飲み込む。
朱拉致の一件は確かに起きたことなのに、周りの者たちはまるで無関心だった。
まるで、その光景が見えていないかのように。
そう考えると、対応したスタッフも自分たちが子供を捜すふりをして別件を捜査したことも、実は自分たちがそう思っているだけで実は起きていないことなのかもしれない。
であるならば、これはもう監視官がそれっぽいことを理由に中に入れるよう交渉してもらうしかない。
「監視官どの、頼む、中に入れるよう交渉してくれないだろうか」
「なんで私が! だって、対応したスタッフなんでしょう?」
「その筈なんだが、なにかがおかしい、とにかく、中のトイレを確認したい」
押しの強い口調で迫られた美佳は、
「なにもなかったらそれなりの責任をとってもらいますから」
と、なにかあれば征陸に責任を押しつけるわよと脅した。
それでも監視官になっただけのことはあり、上手く説明をして中に入れるようにしてくれた。
「それで、どうなの? 目的のものは正しかったの?」
美佳にとってはというより、征陸以外の目にはただの個室トイレでしかない。
目を凝らせばゴミのようなものがボヤけて浮いているように見えなくもないが、普通にしていたらまったく気づかない程度だった。
「は、はい!」
「ひとりで大変なのはわかる。だから、助けなくてはダメよね?」
「はい、そうです」
「財団はなんと?」
「言っている意味がわかりかねるが、必要なら好きなように調べればいいとのことでした。東金朔夜に関しては汚点でしかなく、もう一度あれと同じものを作れるかという件については可能だが、再びはない、断言できるとのことです」
「そう。では財団の捜査はまだあとでいいわね。だとしたら、動き方も見えてくる。まず霜月監視官と宜野座か須郷のどちらかが征陸さんと映画館の方に確認にいく。そこで使われた移籍があるのなら、執行官のひとりがそこの狡噛たちとあつらの世界に行き、もうひとつの仮説の捜査をする。執行官を無事こちらに戻してもらうために、いいかたは悪いけど、チェ・グソンか狡噛にはこちらにとどまってもらう。単独で戻れないらしい狡噛の方がいいわね。で、いいでしょう、宜野座」
ふだん、指示待ちで動くことが多い印象の六合塚の行動的な姿に圧倒される。
だが、これが一番それぞれいい落としどころなのかもしれない。
宜野座は「それで問題ない」といい、霜月監視官と六合塚と征陸をもう一度あの映画館に向かわせた。
そして須郷とチェ・グソンがあちらに行き、チェ・グソンの仮説の捜査にあたることにした。
本当なら自分が行きたい。
だが、それぞれの結果を聞き指示を出せる人物はいない。
監視官だった頃の経験が活かせるかは疑問だが、自分が残るのが最善だろうと考えたのだった。
「ずいぶんと思い切ったことをしたわね。本当はあなたが誰よりも先に駆けつけたいんじゃないの? 朱ちゃんのこと、心配だものね」
唐之杜なりに、宜野座の判断を評価したつもりだが、今の宜野座には嫌みにしか受け取れなかった。
※※※
宜野座に指示を出されたことに不満タラタラの霜月美佳だが、六合塚と行動できることで次第に機嫌が戻っていく。
「先輩には早く戻ってきてもらわないと」
霜月は何度も呪文のように繰り返す。
面倒なことはイヤだと思いながらも、朱に新人扱いされたり、仕事を任せてもらえないのも不満である。
面倒な仕事ではないことを任され、そして認められ出世したい、そんなところだろう。
反面、朱に対し後ろめたいこともある。
諸悪の根元である東金朔夜の登場は、美佳にとって想定外のことでしかない。
理屈では同一であっても別人とわかりながらも、後ろめたさがある分、割り切れない。
東金朔夜をなんとかしなくてはと気持ちだけが焦るが、この感情は誰にも知られてはいけない。
信頼している六合塚にでさえ……
映画館に戻ると征陸がスタッフを見回し、先の件で対応してくれたスタッフを見つける。
その者にいえばいちいち説明しなくても融通がきくのではないかと助言をする。
「だったら、あなたが言えばいいじゃない」
と、霜月は初対応を来訪者である征陸に押しつけた。
「おい、いくらなんでも……公安として中に入り調査するには、監視官の立ち会いが必須だ」
宜野座はせめて名乗るくらいはしてほしいと頼む。
そこに六合塚のひと言がくわわり、美佳は渋々征陸に同行する。
その後ろに宜野座と六合塚がつき、
「すまないが、数刻前の件でちょっと落とし物をしてしまったみたいで、もう一度トイレを確認させてもらえないだろうか」
と、征陸が切り出した。
ところが、スタッフは軽く小首を傾げる。
「お客様、数刻前、とはどのようなことでしょうか?」
「……? いや、娘(秀ちゃん)が戻ってこないと護衛の執行官を呼び入れて捜した件だ。キミが対応してくれたじゃないか」
「いえ、人違いでは?」
「そんなことはない。それに、スタッフのひとりが……」
と言い掛けて、そのあとの言葉を飲み込む。
朱拉致の一件は確かに起きたことなのに、周りの者たちはまるで無関心だった。
まるで、その光景が見えていないかのように。
そう考えると、対応したスタッフも自分たちが子供を捜すふりをして別件を捜査したことも、実は自分たちがそう思っているだけで実は起きていないことなのかもしれない。
であるならば、これはもう監視官がそれっぽいことを理由に中に入れるよう交渉してもらうしかない。
「監視官どの、頼む、中に入れるよう交渉してくれないだろうか」
「なんで私が! だって、対応したスタッフなんでしょう?」
「その筈なんだが、なにかがおかしい、とにかく、中のトイレを確認したい」
押しの強い口調で迫られた美佳は、
「なにもなかったらそれなりの責任をとってもらいますから」
と、なにかあれば征陸に責任を押しつけるわよと脅した。
それでも監視官になっただけのことはあり、上手く説明をして中に入れるようにしてくれた。
「それで、どうなの? 目的のものは正しかったの?」
美佳にとってはというより、征陸以外の目にはただの個室トイレでしかない。
目を凝らせばゴミのようなものがボヤけて浮いているように見えなくもないが、普通にしていたらまったく気づかない程度だった。
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