第六十二話 因縁
『……3回か。あの大人しげな校風の学園にしては、やけに多いような気がするな。まあ、いい。双葉の情報を確認しようじゃないか』
『最初の死者は、じつはかなり古い。どれぐらい古いかと言えば、昭和の初期だな。蓮の通っている学校は名門らしいぞ』
「昭和の初期から、うちってあるんだね?」
『いや、城ヶ崎は知っていろよ?丸々、二年間も通っているんだからよ……』
「てへへ。でも、フツーは気にしないよね、自分の学校がいつから建っているとかさ?」
「たしかにな。オレも興味がない」
『ふむ。蓮もかよ。学生らしいと言えば、学生らしい意見なのかもしれないか……』
『名前は分かってはいないが、女子だったらしいな。飛び降り自殺したようだ……情報の精度は、正直なところ信用しかねるが……学校の怪談話を集めているっていう、変なサイトの情報だ。三つのサイトから入手したぞ。そして……自殺の研究論文からもヒットだ』
「研究論文か……」
『信用がおけそうだな』
「自殺とかも、研究していたりする学者がいるんだね。それは、そうか……だって、大変なコトだもんね、ヒトが死んじゃうんだから……」
『……そうだな』
『その論文はマジメな論文だ。怪談話が示す女子生徒の飛び降り自殺の時期と、その論文にあるY・Tという子の自殺は一致しているし、Y・Tの通っているのは、おそらく聖心ミカエル学園だろう……断言するほどの根拠を示すことは出来ない。伏せ字というか、学校名もイニシャル表記なんだよ。だが、地区は一緒。M校ってのは……まあ、ミカエルってことだろう』
「そうだろうな。マ行の校名がつく高校は、この近くにはない」
「そうだよね。M校って言ったら、うちだよ。聖心ミカエル学園のことだろうね……レンレンのお友だちって、スゴいね。名探偵……いや、レンレンたちには、失礼にあたる褒め方になっちゃうのかな?」
『怪盗団だから?』
「あわわ。モルガナ、しーっ!……みんなにバレちゃうよ……っ」
慌てた城ヶ崎シャーロットは小声でモルガナに告げる。モルガナは苦笑するのだ。
『慌てんなって、城ヶ崎。我が輩の声は、我が輩が喋れると認識していない者には、ただの猫の鳴き声にしか聞こえないんだよ』
「おお。そうか、じゃあ……安心だね。モルガナが口をすべらせる心配はないんだね!」
『……どっちかというと、我が輩よりも城ヶ崎の方から漏れてしまいそうな気がするんだがな……』
「私はお口が硬いほうの女の子ですよー……まあ、ドジすることも多いけど、私は元気です」
『元気にドジられてもたまらないぜ……蓮、続きを頼む』
「ああ……」
蓮はスマホを指でこすっていた。双葉からのメッセージが下へとスクロールされていく。
『……とにかく。何十年も昔に、そういう事件が起きていた。それから、二番目は20年前の5月5日……休日だったらしいが、校舎から飛び降りた子がいる』
「20年前……」
『名前は書いてあるか、蓮?』
「……ああ。上柴雪菜」
『そうか。吉永比奈子じゃない……じゃあ、三人目が』
『三人目は8年前だ。比較的新しいな……この子の名前は吉永比奈子』
『やっぱりだ。我が輩たちが昨夜、戦った子だ……実在している。フィクションや恐怖の感情が生んだシャドウじゃない……』
『吉永比奈子は3年生だったみたいだな。自殺した時期は、8年前の4月の23日だ。蓮が小学生の頃だな……記憶にないか?』
「どーなの、レンレン?」
「……すまないな。オレには、そんなことが起きていた記憶はない」
『自殺というショッキングなニュースだからな。あまり小学生に聞かせたいとは周囲の大人は思わないだろう……』
「じゃあ、吉永さんがウワサの根源?」
「違うかもしれない」
『ああ。我が輩も蓮と同じ意見だ……彼女は、どこか囚われているよな気がするんだ。あくまでも、我が輩の勘なんだがな……』
『とにかく、現状で分かっているコトは、それぐらいだな。もうすぐ土日だから、私もそっちに駆けつけてやることだって出来る。ヒマそうな竜司も連れて行ってやれるかもしれんな。戦力は確保することが出来るんだ。ムチャはするんじゃないぞ、蓮、モナ』
蓮とモルガナを心配するセリフと共に、双葉のメッセージは終了する。他の七不思議についての情報も、昼休みまでには仕入れてくれるだろう……双葉は有言実行する。蓮は、現地での調査を行う必要を感じていた。
「……モルガナ、城ヶ崎。新聞部と、歴史の隈元先生に接触するぞ」
「そうだね」
『六十代の教師ってハナシなら、吉永比奈子のことは絶対に覚えているだろうし……20年前の自殺についても知っているかもしれない。いちばん古い自殺までは、さすがに把握してはいないかもしれないが……新聞部と歴史の隈元先生に接触して、情報を聞く……うん。他に手は無さそうだ』
「そうだな……ネット上にも多くの情報があるわけじゃない」
『あれば双葉が必ず見つけ出すハズだからな……我が輩たちによる、現地での情報収集が決め手になるかもしれない』
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