第四十一話 ブランク・レス・ファイト
「暗がりを利用して、隠れながら進むぞ。シャドウの気配もするからな」
『そうだな。足音、そして毛が逆立っちまう独特の嫌味な気配……敵意剥き出しのシャドウがウジャウジャといやがるようだ』
「……オレに続け」
『了解だ、ジョーカー』
二人は闇に紛れるように、その廃墟染みた通路を進んでいく。
『うううううっ』
この通路には包帯を手足に巻いたシャドウが、徘徊している。彼らは、皆、苦しそうなうめき声を上げていた。
シャドウはネガティブな雰囲気を放ってはいるものだが……ここにいる連中は、もっと陰鬱な存在に思えた。
闇に隠れながら、ジョーガーとモナは、目の前に巨大なシャドウが通り過ぎるのを待った……。
『……行ったな』
「ああ。今まで見て来たシャドウと、少し印象が違うな」
『う、うむ。我が輩にもよく分からないが……この現象の『主』が、ああいう歪みを引き起こしているのだろう。本来のシャドウは……大衆の心の象徴のような存在だ。それを、この現象に引きずり込んだヤツがいる……そいつが、多分……』
「……聖心ミカエル学園の七不思議」
『……そんなところだろう。七不思議自体に力が宿っているのかもしれない。怪談ってのは学生たちの心の力が集まりやすいんだろう。未知への恐怖、あるいは渇望……そういうものが重なると……人格めいた存在になるのかもしれない』
「……ふむ。よくは分からないな」
『ぶっちゃけるなよ。でも、たしかにそうだ。とにかく、これはパレスじゃない。生者が持つ欲望の輝きを感じない……ここには、欲望はなくて……怠惰が蔓延しているのでもなく……あるのは、そうだな……昏い絶望ってところだ』
「絶望……」
『……多分だがな。我が輩としては、非科学的過ぎて信じたくもないことなんだが、もしかすると……この現象の『主』は……もしかしたら、本当に自殺した女生徒ってヤツなのかもしれないぞ』
「……そうか。進むぞ」
『……ああ。早く、城ヶ崎を見つけてやらねえとな。こんな場所に、彼女は不釣り合いだぜ』
まったくだ。ジョーカーはそう思う。あのマヌケなところもあるが、明るい少女に、こんな陰鬱な場所は似合わない……。
ブブブ。
「……っ!?」
『どうした?』
「……異世界ナビからだ」
スマホには再びメッセージが届いていた。
『城ヶ崎シャーロットは罪深い。学園に猫を連れ込み、男を聖なるマリアさまの御前に連れ込み、ヒトの食事を奪い、色欲に溺れた。大罪人である』
『……色欲に溺れた?そんなイメージはないが……他のことについては、今日の……いや、機能の出来事っぽいな……まあ、色欲に溺れるってのは、もしかして、ジョーカーが脚をペタペタと触っていたからか?』
「治療のために、やむを得ずにな」
『そうだが……見る人から見れば、エッチな行為に見えたかもしれない……』
「見る人か」
『……ああ、この現象の『主』は……自殺した女生徒の霊ってヤツは、もしかしたら学校での出来事を見届けて、城ヶ崎シャーロットを獲物に選んだのかもしれないな。『主』からする『悪事』を働くと……断罪されるのかもしれない』
「勝手なヤツだ」
『そうだな。たとえ、自殺した女生徒の幽霊だったとしても、そんな勝手なことが許されるハズがないぞ』
モナは憤慨しているが、どこか怒りを全開にすることが出来ない。自殺した女生徒に対して、同情しているのかもしれない。モナは、それぐらい紳士な『イケメン』なのだ。
『……だが、何であれ。生きている者を優先するべきだ』
「そうだな――――っ!!モナッ!!」
『おうよ、分かってるッ!!』
『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!』
シャドウが襲いかかってくる!!プロレスラーのように巨大な体で、その太い腕には釘のついたバットが握られていた。
その釘バットを、シャドウは思い切り振り落としてきた。怪盗たちを狙ったのだ。
だが、その打撃が二人に命中する寸前に、二人は左右に跳んでいた。風のゆうに軽やかな回避のテクニックに、その釘バットは床しか打うことはなかった。
「遅いぞ」
『ハハハッ!!でも、かなりの威力だぜ。床にヒビを入れちまいやがったぞ!!油断はするなよ、ジョーカー!!ひさしぶりの、戦いになるんだ!!』
「ああ!!」
巨大なシャドウがジョーカーに対して振り向こうとする。だが、ジョーカーはそれを許さない。
二丁拳銃を抜き放ち、その銃撃の乱射を浴びせるのだ!!
ダガガガガガガガガガガガガガガガッ!!
『ぐおおおおおおおおおおんんんッッッ!!?』
巨大な体躯のあちこちに銃弾が突き刺さり、シャドウの体が大きくバランスを崩してしまっていた。モルガナは、そこにチャンスを見出す!!
『今だ、チャンスだ!!しっとめるぞおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!』
「……決めるッ!!」
怪盗たちの瞳に必殺の殺気があふれて、その身は風に踊る影のように速く、とらえどころがなく、まったくの容赦が無いのだ。ジョーカーのナイフと、モルガナの剣がシャドウを深々と斬り裂いていた―――。
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