第三十五話 また明日
『サムライみたいな言葉話しているのに、包丁が怖いっていうのもな……刃物が怖いという発想は分からなくはないけど、女子として料理ぐらい出来た方が良いと思うんだけどな……って、アレかな?』
「……ん。城ヶ崎のマンションは、アレか?」
「うん。そーだよ。駅から微妙な距離にあるし、ペットは禁止という、ちょっと残念な物件。それが、マイ・ホーム!!」
『自慢にならねえ要素だな……城ヶ崎の家らしい。ちょくちょく、残念が顔を出して来やがるんだよな……』
7階建てほどのマンションだろうか。新しくもなければ古くもない。
昔からあるような気もするが、ハッキリとした記憶はない。自分の友人が住んでいたことは無さそうだった。
少なくとも、あのマンションに行ったことはなかった。
「……せめて、ペットがオッケーだったらなー……私も猫さん飼いたかったー」
その発言を聞いて、紳士のモルガナが行動する。カゴからぴょんと飛び出して、サドルを踏み台にして城ヶ崎シャーロットに抱きついていた。
「あはは。慰めてくれてる。スゴいね、モルガナ。私の心も、私の言葉も分かってくれているんだね」
『まあな』
「モルガナは、スゴいなー……男前な猫さんだ」
『そ、そうだな。我が輩は、そういうタイプの猫さん……いや、猫じゃないし。猫っぽいケド、そこは違うんだからな?……まあ、別にいいけど』
美少女の胸に抱きしめられていることを、猫っぽい生物は喜んでいるらしい。
モルガナを抱っこしたまま、城ヶ崎シャーロットは再び猫さん成分のチャージ時間に入ったようだった。
やがて、二つほど信号を通り過ぎると、城ヶ崎シャーロットのマンションの手前にたどり着いていた。
……駐輪場を見つけた蓮は、赤い彗星号をその場に運んで、鍵をかけると、城ヶ崎シャーロットに自転車の鍵を手渡した。
「これで任務完了だ」
「うん。ありがとうね、レンレン」
「それじゃあ、オレたちはこれで帰る」
「え。おもてなしをしようかと……?」
「それは嬉しいが、もう日が暮れかけているからな」
「あー。そうだねー」
「おもてなしてもらうのは、後日にしてもらおう」
「うん。そうだね。レンレン、今日は、本当にありがとね。あとでさ、ライン送るね!」
「ああ。送ってこい。オレも送るよ。それじゃあな、城ヶ崎」
「うん。バイバイ、レンレン。また明日ねー。はい、モルガナを返却しまーす」
『……返却て』
蓮はモルガナを受け取る。モルガナは蓮が下げている買い物バッグの中へと潜り込んだ。通学バッグに比べると、慣れていない。なんというか、ごわごわするが……文句は言えなかった。
買い物バッグから大根のように頭を突き出して、モルガナは前脚を振り上げて、バイバイの仕草を送る。
「うおおおおおおおっ!!モルガナ、超絶に可愛いッ!!写メ撮るねッ!!」
カシャパシャカシャパシャ!!
足首を捻挫していた人物とは思えないほどに素早く、城ヶ崎シャーロットはよく動き、よく撮影した。
猫好きの執念を蓮は感じて、少しだけ……ドン引きしていた。
「はっ!!……し、しまったぁ。ちょっと暴走しちゃった。大丈夫?」
「ああ。大丈夫だ」
やさしさを使って、蓮はニッコリと微笑んだ。
「うー。レンレンがちょっと気を使ってくれているタイプの笑顔だよー……なんだか、失態を見せてしまったよーな気がするでござーる」
「城ヶ崎らしくていい」
「そ、それ、フォローになっているのかなあ?」
「なっている」
「そう?」
「ああ。気にするな。猫が好きなんだろ、城ヶ崎は」
「うん!」
「オレも猫は好きだ。気持ちは分からなくもない」
「レンレン。さすが、猫好きのそこそこモテモテな紳士サムライ……っ。ええ子やで」
『なんで、いきなり関西弁なんだろうな……』
「そろそろ寒くなってくる。部屋に入れ」
「分かった。レンレンも、モルガナも、気をつけてね?信号は、点滅したら、止めとけ!だよ?……変なチャレンジ・シップを発揮しないようにね?」
「了解だ」
『……さてと。なんだか、一日中、騒がしかったな』
「ああ」
『でも、楽しい子だ。美少女だし。残念な要素が、そこらに転がってはいるが。ああいう子、蓮はタイプか?』
「美少女は好きだぞ」
『うお。なんて、素直な言葉なんだ。でも……あまり世間一般には公開するなよ?我が輩とか竜司あたりに、一対一の時に話すようにしろ。あんまり素直過ぎても、世の中は厳しいもんだ。とくに、女性陣には言わないようしておけ』
「……そうするとしよう」
ブブブブ。
スマホが振動する。蓮は、スマホを確認した。城ヶ崎からだ。さっき撮られたモルガナの写真も添付されていた。
『今日は楽しかったよー!また、明日!!』
『城ヶ崎はマメな子だなぁ……しかし、我が輩、写真映りがいいな』
「ああ。『モルガナが、気に入ってドヤ顔している』……と」
『え。あ、送信しやがったし。ドヤ顔しているって言うなよ。なんか、恥ずかしくなるだろ』
「……わかった。さてと。カレーの材料を買いに行くとしようか」
『おう。たっぷりと食べて、明日からの学校生活に備えようぜ!!』
※会員登録するとコメントが書き込める様になります。