終演
「イヤァ、前回で終わりだなんて惜しいなァ。超人気だったのになぁ」
土方「オイおっさん。この紙見えねぇのか?苦情の束だ。よく見ろ」
お偉いさんの顔面にバシィと叩きつけられたのはこれまでの苦情の束。
分厚いそれは江戸版P●Aから来た「子供が家の中でチャンバラごっこをする」や各ご家庭からの「乱暴な言葉遣いをします!どうしてくれるの!」と言った苦情であった。
それにお偉いさんは「イヤァ」と額に流れる汗を手ぬぐいで拭って笑う。
「予想外の反響だったね」
原田「予想通りの反響だったよな」
永倉「こんな事だろうとは思ったな」
新選組が演劇をやると決まった日から何となくそんな予感がしていた彼らはお偉いさんの前でも構わずに愚痴をこぼし、それにお偉いさんも「アハハ」と笑ってから大きくうなずいた。
「俺も思ったよね、絶対この企画上手くいかねぇなって」
沖田「土方さん、僕何だか刀の切れ味試したくなっちゃったや」
土方「お前も一緒になって配役決めてただろうが総司。俺も刀の切れ味が気になったから2人並んでもらっていいか?」
近藤「コラコラ、トシも総司もいいじゃないか。たまにはああしてみんなで楽しく演劇するのも俺は楽しかったぞ」
藤堂「あれ楽しかったか?」
原田「俺に聞くな」
近藤「いつもはピリピリとしていたトシもあの期間だけは楽しそうに過ごしていたじゃないか。いつも徹夜ばかりのトシの体調が気がかりで俺は仕方なくてな」
土方「近藤さん…」
近藤「息抜きになってよかったよ」
土方「苦情の対応が忙しくて外駆け回ってただけだ。」
近藤「そうなのか?トシ、それはいかんな。いや、総司がトシは演劇が楽しすぎて野山を駆け回ってるって言ってたもんでな…幼少期を忘れない事は素晴らしいと思っていたんだ…」
沖田「土方さん夏が楽しくて虫取りに出掛けてたんじゃなかったんですね。な~んだ。てっきり「その笛はなぜ遠くまで聞こえるの?」って言いながら笑顔で野山で7つの球を追いかけながら駆け回ってたのかと思ったのにな」
土方「何か混ざってねぇか?それ。」
沖田「良く分からないけど流行りらしいよ。150年後に流行るやつらしいから多分最先端だね」
土方「お前が何言ってるんだかわからねぇ。」
原田「総司…その笑顔で手を広げながら走ってる土方さんの写真引っ込めてくれねぇか…なんか痛々しい…」
土方「痛々しいってなんだ」
藤堂「何か怖いよ、土方さんがそんな笑顔でいると何か…ごめん…」
土方「怖いってなんだ」
永倉「2人とも土方さんに失礼だろそれ。そいつァアンタによく似てて、いい絵だ。魔除けくらいには使えそうだし、捨てさせねぇから安心してくれ土方さん。」
土方「いっそ捨てろ」
「イヤァ、何はともあれ17回も続いたんだ。なかなかじゃないか!なァ近藤さん」
近藤「そうですなァ、近所の子供たちも棒きれを持って走り回ってて大変よろしいことで」
土方「それが苦情の大半を占めてんだよ近藤さん」
近藤「そうなのか?俺たちが小さい頃はそんなの年中だったけどなァ、ここではだめなのか。寂しい世の中になったものだな」
沖田「今はそうやって昔を思い出して喋る大人が嫌がられるそうですよ。未来ではハラスメントって言うらしいですよ。今のは年代差別のエイハラって言うそうです」
近藤「そうなのか!?いやぁ…生きづらい世の中になったなぁ…」
土方「何でお前は未来の話を知ってんだ。」
沖田「秘密です」
近藤「チャンバラがダメなら何をして遊ぶんだろうなぁ…」
土方「あんまり近藤さんに変な知識植え付けんじゃねぇよ。落ち込んじまったじゃねぇか」
沖田「えー…じゃあ近藤さん、この土方さんの絵あげるんで元気出してください」
土方「自分がいらねぇもん人に押し付けるんじゃねぇ」
近藤「トシの絵か、一応貰っておくかな」
土方「近藤さんもそんな社交辞令見え見えに受け取らねぇでくれ頼むから」
沖田「そう言えば一君はどこいったの?さっきから姿見えないけど」
原田「ああ、斎藤ならさっき用事があるって屯所から出て行ったぜ。何だか指南を頼まれたとかで張り切ってた」
藤堂「へぇ、隊士に剣を教えてくれって頼まれたとか?一君強いからねぇ」
永倉「いや…何でも子供が斎藤の演技がえらく気に入ったらしくてその指南に抜擢されたらしいぜ」
沖田「一君何か変な方向に向かっちゃったね」
土方「誰のせいだ誰の。」
原田「そういやァ、この前戸口のとこに張り紙が貼ってあって「暫く公演会に呼ばれて忙しい、我妻を迎えに来るのはほとぼりが冷めてからにしよう」って紙が貼ってあったぜ」
藤堂「我妻とかいう奴なんて一人しかいないよね」
沖田「それなら僕も街で見かけたよ。千鶴ちゃんのお友達の千姫だっけ、と風間で何か演劇軍団組んだみたいよ。あれ演劇ってより夫婦漫才みたいだったけど」
永倉「やめとけって、そんな事耳に入ったら怒鳴り込まれるぜ」
沖田「僕らも続けちゃう?演劇」
土方「勘弁してくれ」
「おとぎの国へようこそ」これにて完結です!
お付き合いありがとうございました!
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