ACT111 『ストレガ・ユニット/加速』
「まだ、速くなる!?……それって、どういうことなんだ!?」
『……ジュナ・バシュタ少尉。あの機体は、砲撃戦仕様のジェスタです。キャノン・ユニットは―――』
「―――戦闘中でも、パージか可能というワケね」
『ええ。8トン以上は軽くなるでしょう』
「……そんなに軽量化されちゃったら、オーバーコートのホバーとスラスターでも、一瞬で間合いを詰められてしまいそうね……」
『そうなると計算出来ます。敵が、砲弾を残している今のうちに、とにかく持ち弾を撃ち尽くす勢いで挑みましょう』
……それしかないか。もっと上手く当てろと怒鳴られている、私の腕で?……十分なダメージを与えられるものだろうか。
「まあ。こちらも脱げないことはないんだけどね……」
『装甲の厚みがとんでもなく薄くなりますから、止めておいて下さい』
「……そうね。それで、サイコ・ジャックに対しての防御力って、サイコスーツにはあるの?」
『想定はしていません。ジュナ・バシュタ少尉に、そういう能力があれば、増幅されるかもしれませんが……』
「無いわね。感じることが出来るぐらいよ」
『……感じる、ですか……?いったい、どんなことをでしょうか?』
エンジンニアは知りたがりだな、ジュナ・バシュタ少尉はそんなことを考えて苦笑する。私のチームのくせに、私が殺されそうだって逃げ回っている最中にも、自分の知的好奇心を優先しちゃうなんて……どうかしているわね。
だが、教えてやろう。自分の感覚が、あの『バケモノ』のサイコ・ジャックへの対抗策につながるかもしれない。私じゃ思いつけないことでも、ルオ商会のエンジニア&医療チームなら思いつくことだってあるのだから―――。
「―――あの機体には、私が知っている子たちがいる」
『子たち?……複座なのですかね?』
「そういう意味じゃないわ。あの機体に、閉じ込められている感じ。オーガスタ研究所で見たコトある子たちが、何人も、あそこにはいるの」
『……何人も?』
「心あたりがあるんだ?」
『……ええ。おそらく……それは生体ユニットではないのでしょうか?』
生体ユニット。
言葉で聞くと、なかなか冷たい感じがするなと、ジュナ・バシュタ少尉の表情は暗くなってしまう。
目の前に接近して来る、狂気的なサイコフレーム・モビルスーツを視界におさめながら、悲惨な運命への哀悼の方法を探して、見つからないから悲しげな微笑みを口もとに浮かべるのみだった。
「……そうね。きっと、開頭手術で死んだ子たちや、生きたまま脳の一部を取られた子たちが、乗ってるの。ヒトの体じゃなくて、脳を……精神を作るための部位を、機械の一部に使われたままね」
『……なんだ、それはッ!?』
イアゴ・ハーカナ少佐は嫌悪に震える。スワンソン大尉も同じだった。オーガスタ研究所で行われていた所業に対して、彼らはそれぞれが持つ価値観から、怒りを感じるのだ。
『子供の、脳を、兵器に……使う……だとッ!?』
『……しかも、それを……そんなものを、パイロットに、接続しているってのか?』
『……ほー。外付けの脳みそか。パイロットが戦闘時に使う脳内の処理や、知覚に対しても、サポートする……あるいは、並列処理させるってことかい』
『詳しいですね?』
『色々と変なヤツとつるんで来た履歴がある。ああいうシロモノに対しても、噂ぐらいなら聞いたことがあるよ。アフリカ戦線は……オーガスタ製品の、試験場にされていたようだな……』
『そんなことが、許されるハズがない!!』
そんなこととは、どんなことなのだろう?
……オーガスタが子供の脳の一部で、兵器を使ったことか?……それとも、ティターンズが滅びたはずなのに、ヤツらの施設であるオーガスタの兵器を、まだ地球連邦軍が使っていることだろうか?
あるいは、スワンソンくんみたいに、パイロットに対して、精神が汚染される装備を使用していることへの怒りなのだろうか?……大尉はくたびれた老犬みたいに、眉間を寄せながら覇気の無い目で考えていた。
『……まあね、少佐さん。この場には、怒るに相応しいことが、多すぎるね。オレちゃんみたいな、陽気なオッサンには、不釣り合いだ』
『……連邦軍を、告発したい気持ちになる』
『……シェザール1、オレもです。オレもですが……今は、シェザール7の援護を』
『……ああ、そうだな。今は、生きている者を優先した考えなければ……スワンソン、何か気づきはあるか?お前はやられっぱなしを許せる男じゃないだろ?』
『サイコ・ジャックが始まった時、周りの者の声があれば、動けます。そして、サイコ・ジャックを放つ時、ヤツも、そのスピードを落としているようです。カメラのデータの……復元と、オレの推測によるとですが』
『でかしたぞ、スワンソン。いいアドバイスが出来そうだ』
「そうね、続けてくれる?」
『……サイコ・ジャックを仕掛けると、ヤツも反作用を生じるのかもしれない。訓練された能力じゃないから、パイロットが拒絶しているのかもしれん……とにかく、その影響を受けて、動きを鈍らせるみたいだ』
「……幻に囚われても、少しぐらいは余裕がある。だから、アナタは殺されなかったのね」
『そうらしい……ヤツの……パイロットの能力じゃない。『外付け』の能力だから、使いこなせていないのさ……きっと、耐えられない。死者の脳と、接続させられるなんてな……』
『オーガスタの子供たちの、怨念ってものが、詰まっている機械か……何とも、業深いものだ』
「……そうね。私も、下手すりゃ、あそこに乗せられていたワケか……ゾッとするわね。というか……この感覚は―――」
―――お久しぶり、ジュナ!!
『ネームレス2』の動きに変化が生じていた。
「……ッ!!」
ジュナは、全ての弾を撃ち尽くしていたマシンガンを、地上へ向かって投げ捨てる。軽くしたいと感じたからだ。ムダな装備の重量は、戦闘の邪魔にしかならないのだから……。
『ネームレス2』は、砲弾を『残していたわけじゃない』。残弾が無くとも、砲戦用の追加フレームは、防弾チョッキとして使える。だから、こちらがマシンガンを撃ち尽くすまで、待っていたのか。
「……外付けの機能だから、パイロットの戦術やしたたかさも、残っているのか?……教化人間ほど、シンプルじゃない存在ってことだな……ッ」
『ネームレス2』のキャノンと、それを固定するための装甲一式が、パージされていた。軽量化される……それと同時に、当然ながら、『ネームレス2』は加速していた。
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