ACT092 『5対6 その3』
6機のジェガンが夕闇のなかで散開していく。暗む東を背景にして、漆黒のカラーリングは闇に馴染もうとしている。
『……連中、闇に融ける戦いを好んでいるらしいな。練度を感じるし、集中力も高い。飢えた猟犬の群れみたいに、戦場に飛び込んでいる動きに迷いがないぞ。死ぬなよ、前衛。あいつらは、かなりの手練ればかりだ』
「……ああ。アンタは部下を守ることに専念してくれ。オレとスワンソンが、アタッカーになる」
『援護射撃は出来んぞ。オレのライフルはショットガン・パーツと組み合わせているせいで、高機動モビルスーツに対しては、精密な遠距離狙撃が困難だ』
『……ショットガン・パーツ?……そんな重いモンつけて、射撃システムの補正無しで早撃ちしやがったのかよ?……アンタ、なんでジェガンなんかに乗っているんだ?』
たしかに理由を訊きたくなる。あれほどの戦闘を実行するパイロットが、どうしてこんな場所に埋もれているのだろうか……?
色々なヤツがいるものだが、この大尉殿は、かなり変わっているらしい。
『……上司の命令なんてものを、マジメに聞くのって……バカらしいだろ?』
『……それは、本気で言っている……だろうな』
『ああ、本気だよ。自由気ままに生きていたら、大尉止まりで終わったのよ、オレちゃんね……撃破数をマトモに評価されたら、もっと出世することだって出来たはずなのによ。上司ちゃんと合わんのだよ』
「……だろうな。まったく。興味深い男だ。ビールを呑みながらでも、語り合いたいところだよ」
『奢ってもらうビールは好きだぜ、少佐殿よ』
「……ああ。奢らせてもらうよ」
……不吉なセリフをまた使ってしまったな。イアゴ・ハーカナ少佐は苦笑する顔の奥底で、そんなことを考えていた。ビールを奢りたくなるようなヤツから、早死にしていく。悲しいもんだ。
……それでも、守るさ。どうにか勝てばいい。あの2機……隊長機と、副長機か。まっすぐに突撃して来る。オレとスワンソンを狙っている。他の4機は、広がって、取り囲むつもりだ。
こちらが全機ジェスタなら、あんな分かりやすい包囲の動きを放置はしなかったんだが……ダメージを負ったジェガンが3機もいる。移動しつつ有利なフォーメーションを取り合うなんて時間稼ぎは出来なかった。
待ち構えるしかない。こちらの加速は、ギリギリまで使わない。引きつけておきながら、一気に加速し、白兵戦闘へと持ち込む。それで戦闘時間は最小限になる。
遠距離からの撃ち合いでは、こちらが不利だ……あちらの2番機には、ジェスタ・キャノンがるんだからな。
ジェスタ・キャノンが強烈な砲撃を始める。
『来たぞ!!』
『回避しやがれ、バカ・ツインズども!!』
『了解ー!!』
『これぐらいなら、余裕だわ!!』
闇を裂くように奔った光弾が、5体のモビルスーツが逃げ出した場所へと着弾する。閃光を感じ、爆音と衝撃波で機体が揺さぶられる。
かなりの威力だ。マトモに当たれば、一発でモビルスーツの形をした存在はバラバラにされてしまうだろう。
よほどの重装甲でも、アレは一撃で砕きかねない。ガンダリウム合金か、それより硬いサイコフレームあたりで作られた機体でもなければ、あのクレーターに焼け焦げた人形みたいに転がってしまうだろう。
遠距離からの砲撃だ。当たるとは思っちゃいないだろうが……まずは先手を取ろうということだ。戦術が、少しは読める。
あちらも時間をかけるつもりはないらしい―――オレたちが護衛する対象も、戦闘能力を十分に有しているようだ。
……さっさとオレたちを倒して、数的有利という種類の主導権をキープしたいということだろう。イアゴ・ハーカナ少佐はそう敵の動きを分析し、大尉も部下に叫んでいた。
『……いいなバカ・ツインズ。敵サンは数を減らそうって躍起になっている。今の調子で逃げ回って、時間を稼ぐ。お前たちの任務は、生き残ることだ!それが、敵の戦力を分散し続けることにもなる!』
『了解ー!!』
『死なねえように、逃げ回るっすわ!!』
……そうだ。それでいい……あとは、十分に接近して来たあちらの二機に対して、オレたちの仕事をすればいいのだ、スワンソン!!
「『シェザール隊』、突撃するぞッ!!」
『了解!!シェザール1に、続きますッ!!』
イアゴ・ハーカナ少佐とスワンソン大尉のモビルスーツが、『シェザール・ジェスタ』がスラスターを全開にする。大地を足蹴にして脚力も用いながら、スラスターの最大出力に、より瞬発的な加速を与える。
両機ともシンクロするかのように、同じタイミングで動いていた。ジェガンで右手から回り込もうとしている2機の敵に対して向かいながら、大尉はニヤリを笑うのだ。
いいパイロットたちの動きを見ているのは好きだ。それに、やはり、いいなガンダリウム合金が配合された脚は。
あんな動きする機体に乗せてくれるなら、こいつらぐらいオレだけでも排除出来そうなんだがなあ―――目の前に迫るジェスタは、実弾にこだわっている機体らしい。
二機ともマシンガンを掃射して、大尉のジェガンを蜂の巣にしてやろうとしていた。
……機体にダメージが無ければ、もうちょっと楽に戦えたんだが―――いやいや、泣き言を口から垂れてる場合じゃねえわな。
大尉のジェガンは右に左にと、巧みな動きを使いながら、マシンガンの掃射を回避していく。武装の選択から、戦術は想像がつく。この二機は、中距離戦闘を好む。それは、大尉の得意な間合いでもあった。
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