三十九章 タリアとの再会
タリアの命で白旗を掲げたカーラ軍船。
それを確認したケイモスたちはさらに動揺してしまう。
「どういうつもりですかね、白旗なんて。カーラのする事はめちゃくちゃだ。こっちを油断させて、リリシア様を略奪するつもりじゃ」
船員のひとりがそういうと、周りもその意見に同調していく。
そのざわつきを一喝したのがケイモスだった。
「ばかなことをいうな。誰か、双眼鏡を。あちらの顔ぶれを確認する。それと、クラウディアを連れてきてくれ」
「リリシア様を?」
「ああ、そうだ」
「危険です」
「大丈夫だ。私の勘に間違いがなければ、このタイミングでここにやってくる船は一隻しかない。ただ、まさか軍船をかっぱらってくるとは思いもしなかったがな」
※※※
「養父さん、わたしに確認させたいことって?」
クラウディアだけを呼んだのだが、なぜかダジュールもついてきていた。
しかし今のダジュールは目的を果たすためだけの妻であるクラウディアという存在ではないらしい。
彼女に寄り添い、彼女の身を案じていることは端からみてもよくわかる。
形だけの夫婦が身も心も夫婦になっていく過程を見させられているようだ。
「クラウディア、あの軍船は肉眼でわかるな?」
「はい、養父さん」
「ではこの双眼鏡であちらにいる人の顔を確認してほしい。私の勘が当たっていれば、敵の軍船ではあるが乗っているのは同志なはず」
「同志……タリアが乗っているのかを確認すればいいのね!」
「ああ、そうだ。私は正直、タリアであると確信できる自信がない」
クラウディアは任せてといい、ケイモスから双眼鏡を受け取る。
ピントをあわせ、あちら側を隈無く探していると見知った顔があった。
その者は誰かに何かを必死に言っているようでこちらを見ていない。
しかしひとりだけ、まっすぐにこちらをみている人物がいた。
金色の髪をした女性。
色白で線が細くて、でもまとうオーラは優しさで満ちている。
大地の母のような、そんな女性がこちらを見ていた。
クラウディアはその女性から目が離せない。
知らない女性なのに、とても懐かしい気持ちになる。
そうさせる不思議な存在がクラウディアの身も心も惹きつけて離さない。
「どうだ、クラウディア」
ケイモスに声をかけられ、我に戻る。
「タリアを確認したわ。揉めている感じがするの。すぐにでも救出をした方がいいのではないかしら?」
ケイモスはボートを数隻おろすように指示を出す。
漕ぎ手と護衛のふたりでひと組になってもらい、あの軍船に乗っている人を全員こちら側に連れてくるようにとさらなる指示をだす。
カーラの軍船では海域をでることができず、あちら側の者たちは海を泳いでこちら側にくるしか方法はないのだ。
もしタリアが揉めているように見えたのなら、その方法で意見が割れているのかもしれないとケイモスは、不安がるクラウディアを宥めた。
タリアたちがこちら側に来るまでの時間、待つしかできないクラウディアにとっては長い時間だった。
「大丈夫だって。ほら、望遠鏡で確認してみろ。ちゃんとボートに乗り換えている」
「うん、肉眼でもそれはわかる。あのね……」
「母上の姿を確認できのたか?」
「……母、上? おかあさま……て呼んで差し上げるべき、よね、やっぱり」
「無理しなくていいんじゃないか? 向こうだって、訳ありであることは承知しているんだからさ。問題は俺だな」
「どうして?」
「そりゃ、もう一度娘をもらった男として挨拶しなきゃいけないだろう? あれをもう一度するのかと思うと……」
「余計な気苦労で終わるんじゃないかな」
「……だといいんだが。けど、俺は反対されても絶対に許してれるまで向かい合うつもりでいるから」
「別にいいよ。だってわたしたちって……」
「ああ、利害が一致しただけの夫婦だ。そこに愛はない。だけど、今は違う。ああ、クラウディアの気持ちは尊重する。俺ってヘタレだろ? 愛想尽かされても仕方ない。それでも、俺は今からでも本当の夫婦になれたらと思っていいる」
「……ダジュール。それって、プロポーズ?」
「ということになるかな」
「……そっか。だったら嬉しいかな。でもね、ダジュールのお嫁さんになるのは素敵なことだって思う。でも、王妃となると違う気がして」
「そうだな。互いの目的だ達成されたら、一度真剣に考えてみてくれ。もう一度いうが、俺はクラウディアの気持ちを尊重する。でも、諦めるつもりはないから、落としどころを探す。きっと、方法はあると思うから」
「……うん。ありがとう」
わずかにふれ合った指先。
しかしそれがしっかりと握りあうまでそれほど時間はかかっていなかった。
ふたりだけの幸せな空気に包まれていると、クラウディアは妙な緊張感が薄れていることに気づく。
まさかこうなるとこを見越して場の空気無視してのプロポーズだったのだろうか。
不器用なようで実は他人の気持ちに寄り添おうとしてくれるダジュールの優しさは心地いい。
もう少し、この心地よさに浸っていたい、でも時間はそれを阻む。
ただし、よい意味で。
縄はしごが落とされ、下についたボートから人があがってくる。
船員が手を伸ばし、その人物を引き上げた時だった。
クラウディアの目から大きな滴がこぼれ落ちていく。
「……タリア、タリア、よく無事で」
立ち尽くすクラウディアの背中を押したのはダジュールの手。
少し前屈みになったクラウディアの体を抱きしめたのは、駆け寄ってきたタリアだった。
「お約束、お守りしましたわ、リリシア様」
「うん。ありがとう」
「いいえ。こちらこそ、無事でいてくださりありがとうございます。リリシア様に会わせたい方も無事お連れいたしまたのよ?」
それを確認したケイモスたちはさらに動揺してしまう。
「どういうつもりですかね、白旗なんて。カーラのする事はめちゃくちゃだ。こっちを油断させて、リリシア様を略奪するつもりじゃ」
船員のひとりがそういうと、周りもその意見に同調していく。
そのざわつきを一喝したのがケイモスだった。
「ばかなことをいうな。誰か、双眼鏡を。あちらの顔ぶれを確認する。それと、クラウディアを連れてきてくれ」
「リリシア様を?」
「ああ、そうだ」
「危険です」
「大丈夫だ。私の勘に間違いがなければ、このタイミングでここにやってくる船は一隻しかない。ただ、まさか軍船をかっぱらってくるとは思いもしなかったがな」
※※※
「養父さん、わたしに確認させたいことって?」
クラウディアだけを呼んだのだが、なぜかダジュールもついてきていた。
しかし今のダジュールは目的を果たすためだけの妻であるクラウディアという存在ではないらしい。
彼女に寄り添い、彼女の身を案じていることは端からみてもよくわかる。
形だけの夫婦が身も心も夫婦になっていく過程を見させられているようだ。
「クラウディア、あの軍船は肉眼でわかるな?」
「はい、養父さん」
「ではこの双眼鏡であちらにいる人の顔を確認してほしい。私の勘が当たっていれば、敵の軍船ではあるが乗っているのは同志なはず」
「同志……タリアが乗っているのかを確認すればいいのね!」
「ああ、そうだ。私は正直、タリアであると確信できる自信がない」
クラウディアは任せてといい、ケイモスから双眼鏡を受け取る。
ピントをあわせ、あちら側を隈無く探していると見知った顔があった。
その者は誰かに何かを必死に言っているようでこちらを見ていない。
しかしひとりだけ、まっすぐにこちらをみている人物がいた。
金色の髪をした女性。
色白で線が細くて、でもまとうオーラは優しさで満ちている。
大地の母のような、そんな女性がこちらを見ていた。
クラウディアはその女性から目が離せない。
知らない女性なのに、とても懐かしい気持ちになる。
そうさせる不思議な存在がクラウディアの身も心も惹きつけて離さない。
「どうだ、クラウディア」
ケイモスに声をかけられ、我に戻る。
「タリアを確認したわ。揉めている感じがするの。すぐにでも救出をした方がいいのではないかしら?」
ケイモスはボートを数隻おろすように指示を出す。
漕ぎ手と護衛のふたりでひと組になってもらい、あの軍船に乗っている人を全員こちら側に連れてくるようにとさらなる指示をだす。
カーラの軍船では海域をでることができず、あちら側の者たちは海を泳いでこちら側にくるしか方法はないのだ。
もしタリアが揉めているように見えたのなら、その方法で意見が割れているのかもしれないとケイモスは、不安がるクラウディアを宥めた。
タリアたちがこちら側に来るまでの時間、待つしかできないクラウディアにとっては長い時間だった。
「大丈夫だって。ほら、望遠鏡で確認してみろ。ちゃんとボートに乗り換えている」
「うん、肉眼でもそれはわかる。あのね……」
「母上の姿を確認できのたか?」
「……母、上? おかあさま……て呼んで差し上げるべき、よね、やっぱり」
「無理しなくていいんじゃないか? 向こうだって、訳ありであることは承知しているんだからさ。問題は俺だな」
「どうして?」
「そりゃ、もう一度娘をもらった男として挨拶しなきゃいけないだろう? あれをもう一度するのかと思うと……」
「余計な気苦労で終わるんじゃないかな」
「……だといいんだが。けど、俺は反対されても絶対に許してれるまで向かい合うつもりでいるから」
「別にいいよ。だってわたしたちって……」
「ああ、利害が一致しただけの夫婦だ。そこに愛はない。だけど、今は違う。ああ、クラウディアの気持ちは尊重する。俺ってヘタレだろ? 愛想尽かされても仕方ない。それでも、俺は今からでも本当の夫婦になれたらと思っていいる」
「……ダジュール。それって、プロポーズ?」
「ということになるかな」
「……そっか。だったら嬉しいかな。でもね、ダジュールのお嫁さんになるのは素敵なことだって思う。でも、王妃となると違う気がして」
「そうだな。互いの目的だ達成されたら、一度真剣に考えてみてくれ。もう一度いうが、俺はクラウディアの気持ちを尊重する。でも、諦めるつもりはないから、落としどころを探す。きっと、方法はあると思うから」
「……うん。ありがとう」
わずかにふれ合った指先。
しかしそれがしっかりと握りあうまでそれほど時間はかかっていなかった。
ふたりだけの幸せな空気に包まれていると、クラウディアは妙な緊張感が薄れていることに気づく。
まさかこうなるとこを見越して場の空気無視してのプロポーズだったのだろうか。
不器用なようで実は他人の気持ちに寄り添おうとしてくれるダジュールの優しさは心地いい。
もう少し、この心地よさに浸っていたい、でも時間はそれを阻む。
ただし、よい意味で。
縄はしごが落とされ、下についたボートから人があがってくる。
船員が手を伸ばし、その人物を引き上げた時だった。
クラウディアの目から大きな滴がこぼれ落ちていく。
「……タリア、タリア、よく無事で」
立ち尽くすクラウディアの背中を押したのはダジュールの手。
少し前屈みになったクラウディアの体を抱きしめたのは、駆け寄ってきたタリアだった。
「お約束、お守りしましたわ、リリシア様」
「うん。ありがとう」
「いいえ。こちらこそ、無事でいてくださりありがとうございます。リリシア様に会わせたい方も無事お連れいたしまたのよ?」
※会員登録するとコメントが書き込める様になります。