3話
「おー、田舎娘。もしかしてお前ここら辺に住んでたりするの?」
「…どなたですか?」
「万事屋銀ちゃんでーす、昨日会ったばかりなんだけど。記憶喪失?それかなんだそっくりな双子でもいんの?」
はて、と首を傾げた彼女は少ししてから思い出したかのように頷いた。
昨日の着物姿とは違い今日は白い腰巻エプロンに白地の着物に袴を履いていた彼女は木の籠にたくさんの薬草を入れていた。夜に見た時はさほど気にならなかったが昼の明るいうちに見ると彼女の死んだ目は、子供には不釣り合いすぎて違和感があった。
「ああ、昨日の変態さん。その節はどうも」
「挨拶する前に人の名前覚えようや。それよりなんだその干からびた葉っぱ、おままごとでもしてんのか?」
「…干からびた葉っぱじゃありません、薬草ですよ。天日干ししていたので取りに来たんです」
そう言って屋根の上を指差した彼女につられる様に上を見上げると、屋根の上に並べられたのは均等に並べられた薬草。
「昨日は夜干ししていたものを取りに行こうとして引っかかってしまったんです」
「なに、お前の家ここなわけ?偉いねぇ、家の手伝いしてんだ。けど夜中に屋根登るのは親に任せようや」
「勘違いしているようですが私はもう成人していますし、ここを営んでいるのは私ですよ」
「…なんて?」
「私は成人していますしここを営んでいるのは私です」
「……なんて?」
神楽より年下の子供だと思っていた彼女がすでに成人していて、しかも経営者だと聞いて信じられないのかその後も何度も聞き直してくる銀時に、彼女は真顔のまま彼に背を向けるとそのまま薬師屋の方へ歩いて行ってしまう。
そんな彼らのやり取りを静かに見守っていた向かいの和菓子屋の主人は物凄い勢いで振り向いてきた銀時に肩を跳ね上げて驚きつつ、詰め寄ってきた銀時に小さな声で「いらっしゃい…」とつぶやいた。
「あいつ成人してんのか!?」
「あ、ああ…薬師屋の子ね。数年前に引っ越してきてからあそこで薬師屋をやっているんだよ、成人もしてるよ」
「マジでか。てっきり「お●ん」みたいに子供の頃から働かせられてるのだとばっかり」
「あはは、誰にだって勘違いはあるさ。俺もアンタのことてっきりあの子にタカっている悪い大人だと思ってたからね」
「あははは」
「あははは」
「ふざけんじゃねぇぞジジイ」
和菓子屋を出て、薬師屋の暖簾が掛かっている店の方を見ると、暖簾のむこうでちょろちょろと動き回っている人影が見えた。てっきり未成年の子供だと思っていたが、既に成人しているという彼女は働き者らしい休む暇なく忙しく動いている。
「おじゃましま」
「お帰り下さい、お出口はあちらです」
「オイオイせっかく来たお客に帰れはないんじゃないの?」
「お客さんだったのですね。てっきり冷やかし客だと思いました」
話をしながらも籠にある薬草を種類別に引き出しにしまっていく手際の良さからもこの仕事を始めてからだいぶ経っていることがわかる。数年前に引っ越してきたと、前の店の店主は言っていたがそれ以前にも他でやっていたのだろうか。
昨日のことがまだ根にあるのかあからさまにツンケンしている彼女に銀時は近くにあった椅子に腰かけると、辺りを見回しながらこちらを一瞥すらもしない少女を見た。
「もしかしてガキ扱いしたの怒ってる?悪かったって、うちにお前くらいのがいるからてっきりさ。それにしても小ざっぱりしてんなこの店。まぁ薬師屋なんてこんなものか、他の店行ったことねぇけど」
「そうなんですね、まぁ何とかは風邪を引かないと言いますし無縁なんでしょうね」
「それって銀さんがバカって言ってる?表に出るか?」
「ありがとうございました、ご来店はお待ちしておりませんが」
「冗談だって。塩撒こうとしないでくんない?撒くくらいなら俺にくれや、最近塩すら家にねぇんだ」
「塩をくれと言われたのは初めてなので戸惑いを感じますがもしかしなくても貧乏ですか?」
「うちに大食い怪獣がいるからな」
「それは…その、ご愁傷さまです」
死んだ目に哀れんだ色が映ったのを見て、銀時は「同情するなら塩をくれ」とその辺にあった薬草をいれるための木の器を差し出すと、握っていた塩をその中にさらっと入れた彼女に「強く生きてください」と言われ、何故か泣きたくなった銀時だった。
「薬草ってどんなの売ってんだ?無難に胃薬とかそんなんか?」
「まぁそうですね、漢方薬の類だと思ってもらって構いません。」
「二日酔いに効く薬とかあんの?」
「もちろん、飲んだら効果覿面なのがありますよ」
「今度二日酔いになったらここ来るわ、よろしく。」
「お金はきちんと取りますよ」
「バカヤロウそのくらいのお金くらいあるわァ!銀さんのことお前ニートかなんかだと思ってんだろ?コラ。ちゃんと万事屋の社長やってんだぞこっちとら。けどお金はないから、知り合い価格でお願いしまァす!」
「そんなものありません」
(知り合い価格ねぇの?ならお友達価格でいいや)
(私たち友達だったんですね)
(バカヤロウ、友達ってのはいつの間にかなってるもんだって総一郎君が言ってた)
(そうしていつの間にか去っているものです)
(あれ、デジャブ?)
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