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赦されざる者たちは霧の中に

原作: その他 (原作:かつて神だった獣たちへ) 作者: 十五穀米
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黒幕の正体

「ようするに、そっちのふたりは、そういう細かいことは気にしない性質なんだね」
「ああ? まるでバカとでもいいたいのか? ただ……あいつはコミュニケーションが苦手っていうか、まあ、どもった話し方してたし、カタコトも別に……だが、親しくなれば普通に会話する。それだけの時間を共にしてそれがないっていうりは怪しい」
「きみたちは、かなり前から……だと思ってるんだね?」
「ああ。今の話を聞いて確信した。あいつ、おまえらがピエロと呼んでいたあいつは、かなり前に死んでいた。もしかしたら殺されたのかもしれないな」
「なあ、確認したいことがあるんだけど」
「なんだよ」
「俺たちが使える力と、術は違うんだよね?」
「当たり前だ! 魔術は鍛錬の積み重ね。吸血鬼が使える力は生まれ持ったもので、個人差はある。ピエロの持つ幻覚操作の凄さは魔術を織り交ぜているからだ。あんな芸当、マネできねーよ。でも、それをやれてしまったっていうなら、かなり絞られるぞ」
「たとえば?」
「言っただろ。純潔の吸血鬼は魔術は使えない。使えるのは人間と人間やほかの種族との混血だ。吸血鬼は混血を忌み嫌う習性がある。捨てられるか隔離されるか。でだ、魔術が使えるなら俺らと同じ人に育てられた可能性がある。俺はかなりの期間、その人と共にいたから、入れ替わりがあってもだいたいは把握しているが、ピエロと同等かそれ以上の能力を持ったやつはいなかった。これをどう考える?」
「ほかにもそういった子供たちを収容している場所があった。そこから使えると判断し連れ出された者がピエロと出会い、魔術を習った。もしくは、おまえらが保護される前にいて、出て行った人物。なあ、そういう人物は幹部クラスまで昇格できるのか?」
「できるわけねーだろ。純潔吸血鬼のプライドが許さねーよ」
「……だよね。じゃあ、やはり違うのかな」
「あ?」
「黒幕だよ。俺はさ、アストレイ(仮名)がそうなんじゃないかって思ったんだ」
「それなら俺たちも思ったよ。けど、おまえらが人間の世界に行っている間、あいつはずっと組織の中にいた。たとえドロ人形の術を使ったとしても、長時間操作はできない。実際、おまえの代わりにおいてきたあの人形だって、今じゃもうただのドロになってるよ。距離が長ければ長いほど思うように操作できないって難点がある。それを克服したっていうなら……あんま、考えたくねーな」
「そうですか。ということは、凹凸コンビの思っている黒幕は別ってことですね」

※※※

 マックス(仮名)が行方不明になったと知ったシャールは、純粋に彼を心配していたが、ハンクは違っていた。
「先手を打たれたな」
「ハンクさん?」
「あいつは、ジェラルド軍曹の言っていたことを信じなかった。なぜなら、自分も疑われ、自身は潔白であると知っているからだ」
「ハンクさん。それって、アストレイ(仮名)さんがマックス(仮名)さんを手にかけたと言っているようなものですよ?」
「俺は、そうだと言っている」
「そんな……!」
 シャールはそうは言ったが、いまのアストレイ(仮名)は初めてあった頃とは雰囲気が違っているように思える。
 物腰は柔らかく、口調も物静か、その辺りは変わらないのに、放つオーラが違っているのだ。
 だからといって、疑うかといえばそうではない。
「とにかく、シャールはここを動くな」
「ハンクさんはどうするのです?」
「マックス(仮名)のことも気になるが、クロードのことも気になる。面会をしたいと申し出て様子を見てくる」
「だったら、私も行きます!」
「……なに?」
「だって、危険ならハンクさんといた方が安心だと、私が思うからです」
「……わかった」
 受け入れてはくれたが、仕方がないという感じのハンク。
 それでもシャールは、ひとりで残るよりはいいと思った判断は間違いではないと思った。

 ※※※

 その頃、人間の世界に残されたライザは、ジェラルドと最悪の場合の作戦を練っていた。
 ふたりは、この一連だけでことが終わるとは思えないと判断をした。
 ところが……
「報告があります!」
 偵察班として近辺の調査に赴いていた兵士が、血相を変えてジェラルドに敬礼をする。
「挨拶はいい、報告を」
「はっ! 近辺の調査をしていたところ、地盤沈下が起こりまして……」
「地盤沈下……だと? それで?」
「数名の兵士が巻き込まれました……それと、あの巨大な蔦ですが」
「蔦がどうした?」
「はい。あの……なにをやってもどうにもならなかったあの蔦が、どうも地番沈下の影響で傾きはじめています。それで、絡まっている蔦に引っ張られ、汽車の車体が……」
 地盤沈下は汽車のある場所から離れてはいたが、揺れがそこまで響いたのだという。
 しかし。
「この陣営はなんともないが?」
「そうなのですか?」
 兵士が不思議そうな顔で聞き返す。
 ジェラルドは、そうだな? とライザに確認をした。
「ええ。まったく」
 ライザも揺れを感じていなかったらしい。
 しかし、特段珍しい現象でもない。
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