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赦されざる者たちは霧の中に

原作: その他 (原作:かつて神だった獣たちへ) 作者: 十五穀米
目次

逃亡者

「でも、それが誰かはわからないままなのでしょう?」
「それがわかっていれば、手を打っていますよ」
「……そうよね」
「無事を祈るしかできないのは歯がゆいですが、いざという時のために、出動待機を指示しておきましょう」
「こっちで戦闘が?」
「それも視野に。ですが、そうならないことを願いたいものですな」

※※※

 同時刻、それぞれがそれぞれの思惑を抱いていた。
 その中で、一番危険が迫りつつあるのはマックス(仮名)で、彼は重たい体をゆっくりと起きあがらせ、自分の置かれている状況を把握するまでしばしの時間を要した。

「なんてことだ……」
 マックス(仮名)はすべてを悟り愕然とした。
 信じていたものが足下から崩れていく。
「まさか、こんな近くにいたとは……代表の旅も怪しいな」
 アストレイ(仮名)が仮面の下を見せ始めたとなると、シャールに危険が迫っていると確信をした。
 シャールから直に話を聞きたいという要望は、彼女がケインの元から逃れ、さらに生きていることが知れた時、一族の半分くらいはその意見を出していたが、では、人間の世界に出向くのか、それとも招き入れるのかでまた意見がわかれた。
 結果、近くで監視する程度で落ち着いたのだが、それに納得をしていない面々も多々いたことは知っている。
 アストレイ(仮名)の目的はシャールだとして、彼が内通者である確証はない。
 内通者でいる理由が見あたらない。
 代表代理としての権力を持っているのだから。
「なんて、ここで悩んでいる時間はないな。どうやって抜け出すかが問題だ」
 そう、マックス(仮名)は地下牢に閉じこめられていたのだった。
 あいにく、手枷、足枷類はついていない。
 しかし、扉には何重にも呪文が施され、ひとつひとつ解除していくしかないが、解除すればただちにアストレイ(仮名)の知るところとなるだろう。
 それくらいのトラップは仕込んでいるはずである。
 どうにかして危険をシャールに伝えられれば……と、霧の中に伝言を入れて飛ばすという手もあるが、能力を使ってもトラップ発動となる可能性もある。
 八方塞がり、このままアストレイ(仮名)の思惑通りになってしまうのかと思うと悔しくて仕方がない。
 そんなマックス(仮名)に近づく足音があった。
 人数はふたり。
 その足音が扉の前で止まり、その人物の姿を見て驚いた。
「凸凹コンビじゃないか」
 オーレン(仮名)に羊皮紙の契約をさせていたあの、小柄の男と大柄の男だった。
 マックス(仮名)は彼らをまとめて「凹凸(でこぼこ)コンビ」と脳内で名付けていたのだが、ついうっかり、それが口からこぼれていた。
 言われたふたりはとても不愉快な顔をしたが、
「ふん。間抜けないまのおまえがなにを言っても負け犬の遠吠えにしか聞こえねーわ」
 とカウンターを食らう。
 まったく、その通りであった。
「まあいい。おい、取引をしないか?」と小柄の男。
「取引?」
「こっちはしてもいねぇ内通の罪を着せられそうで胸くそ悪いんだよ」
「まあ、そうだろうね。組織に戻れば、その不快も少しは薄れるんじゃない? オーレン(仮名)のことは諦めてさ」
「うちのボスと同じ事をいうな、ムカつく。一応、あんな出来損ないでも使い勝手はよかったんだ。最後まで見届けるのが主人の役目だろうが」
「なんだ、意外とまとも。そして人情に厚いんだ」
「……っう。そんなんじゃねーよ。つーか、話をそらしてんじゃねーよ」
「ごめんね。でもさ、取引ってなにとなにを?」
「おまえをここから出す。代わりに、おまえらがピエロと呼んでいたあの男のことを教えろ」
「構わないけど。そんなんで条件、対等? あとで貸しがあるだろうって難癖つけない?」
「そんな面倒なことするかっ! とにかく、受けるのか受けないのか?」
「……受けます」
「ったく、最初からそう言っていればいいんだ」
「それで、どうするの?」
「泥人形の黒魔術を使う。といっても、魔術師ではないから張りぼてだけどな」
「泥人形のって随分とレトロな術を持ち出したね」
「しょうがねーだろ。育ての親が魔術師の端くれだったんだ。見よう見まねでいくつかはできるんだよ。けど、泥人形は高度だからな、わずかな目くらまし程度だ」
「その程度で、どれくらいの勝算なの?」
「ここからトンズラする程度だよ。それで十分だろ」
「もちろん、話せる場所くらいはあるよね?」
「まあな。で?」
「いいよ、それで」
 マックス(仮名)の爪が鋭い刃の先端のように尖り、それで片方の指先に刺す。
 鮮血が糸のように流れ出、その血が滴りドロ人形に滴ると、凹凸コンビが呪文を唱える。
 ドロ人形はマックス(仮名)の体を複製した。
 ほんの一瞬、ふたりがかりでかけられていた術を解くというよりは遮断させると、マックス(仮名)の体がすり抜け、ドロ人形が牢屋の中に。
 時間にして一秒もない早業だった。
 すぐに霧が三人の姿を隠し、地下牢から気配もろとも消し去った。

 マックス(仮名)が脱獄に成功した頃、シャールとハンクがいる客間にはアストレイ(仮名)がいた。
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