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赦されざる者たちは霧の中に

原作: その他 (原作:かつて神だった獣たちへ) 作者: 十五穀米
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裏切者

「でも、姿を変え記憶を塗り替えって……。それで、マックス(仮名)たちは納得できるの?」
「冷たいことを言えば、オーレン(仮名)の人生でケインに関することがひとつでも知れればいいんだ」
「そう……。もちろん、その気持ちや考え方を否定するつもりはないし、そういうのもわからないでもないのよね。いいわ、それはそういうことにしておきましょうか。で、残るはそちら側の件よね」
「そうだね。内通者。裏切り者。スパイ。言い方はまあ、いろいろあるけど、俺たちがしようとしていることを邪魔されたくはないんだよね。あと、その裏切り者がもしかしたらケインと繋がっているかもしれない。と、俺は考えてしまうんだよ。こうも情報が入らないって、少し異常だと思うんだ。誰かが意図的に隠している。もしくはもみ消している。というのも、組織から情報収集者が派遣されていて、集まった情報は各組織で共有することになっている。でも、オーレン(仮名)たちの組織のように単独で動くところもあるから、情報すべてを把握はしていないけど、それでも、出てこなさすぎる」
「わからないでもないわ。でも、それは軍としても同じよ。尻尾を掴んだと思ってもすぐにすり抜けられてしまう。こっちこそ、誰か内通者がいるんじゃないかって……」
 ライザとマックス(仮名)の会話がここで途切れると、ジェラルドが「少しよろしいか」という。
「その内通者のことですが。実は少佐にはまだ打ち明けていませんでしたが、その可能性は危惧しておりました」
「どういうことなの、ジェラルド軍曹」とライザ。
「言葉そのままの意味です。あまりにも情報がなさすぎるのはむしろ怪しむべきと考えるのがセオリーかと」
「……たしかに。そうかもしれないわね。それで、なにか策でも?」
「我々だけで、ひと芝居というのはいかがかと」
「あぶりだすというわけね。ここにいるだけで?」
「少ない方が効率がいいです。もちろん、今回、我々に好意的であった方々は信用に値しますが、逆に、親切すぎるがゆえに怪しいという見方もできます」
 それには、マックス(仮名)が顔色を変えた。
「軍曹殿は、誰を疑っているのかな?」
「申し訳ないが、最初に接触をしてきたマックス(仮名)殿と、そしてアストレイ(仮名)殿でしょうか」
「……っう。へえ、俺をね……本人を目の前にして言ってくれるじゃん。でも、たしかに、その疑い方は鉄板だよね。あれでしょ。死体の第一発見者が怪しいとかいうやつ。最初って疑われ役って感じだもんね。それで? 裏切り者かもしれない俺を入れてひと芝居するって、それってもう、種明かししているようなものでしょ? いいの、それで」
「いいんですよ。打ち明けたのも私なりの作戦のうちですので」
「へえ……。それって、実はここにいる全員を疑っていると言っているようなものでしょ」
「そうともいいますね」
「了解。じゃあ、俺は疑いを持たれているって自覚しながら行動することにするよ。それで? どうやってあぶりだすの?」

※※※

 汽車の事件から三ヶ月が経過した。
 三ヶ月、という月日は吸血鬼一族の世界での時間経過であり、人間の世界では一週間と少しくらいだろうか。
 すでに事件は人間たちの知ることになり、強者の記者たちが現場取材に訪れたりもしている。
 ジェラルドはあのままその場に陣営を維持し、行方がわからなくなっている兵士と少佐の捜索と、現場維持の監視を行っていた。

「そっちはどう?」とマックス(仮名)。
 マックス(仮名)とピエロくんは、オーレン(仮名)を連れ、先に一族の世界へと戻り、それからシャールとハンク、そしてライザを迎えにきた。
「どうもこうもないわ。もう大騒ぎよ!」とライザ。
 彼女は続けて、
「とにかく、この巨大な蔦。これが異様すぎて大パニック状態。そして擬神兵への風当たりも強くなってね。いろいろ目撃情報が入ってくるようになったのは、いいのか悪いのか。ついでに、異常現象的な怪事件の情報も入ってきて、ケイン絡みじゃないかって推測がでているわ。でも、少佐不在なので、動かないけど。そっちは? なにか進展はあった?」
「それなりの収穫はありましたよ。少し、話をしませんか? あっちでもここでもない場所で」

※※※

 あちらの世界に行く前に、少し話をしたいというマックス(仮名)の要望に応えたハンク、ライザ、そしてシャールは、以前連れられた洋館へと瞬間移動をした。
 あの時と変わらず暖炉が焚かれた場所、その近くに置かれたソファー。
 あの時と同じ場所に腰をおろし、マックス(仮名)の話に耳を傾けた三人。
 マックス(仮名)は三人の顔を確認したのち、「実は……」と切り出した。
「あっちでは三ヶ月くらい経っていて、正直な話、進展はないといった方が正しい感じかな」
 進展がないという事実に、シャールは疑問符が頭に浮かび、ハンクはそんなものだろうと肩の力を抜く。
 ライザだけが感情を露わにした。
「ちょっと、三ヶ月もあって、なにをしていたのよ! もしかして、隠しているってことは、ないでしょうね?」
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