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赦されざる者たちは霧の中に

原作: その他 (原作:かつて神だった獣たちへ) 作者: 十五穀米
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ライザのもとへ

 マックス(仮名)はジェラルドを見た。
「わからなくも、ないですが。ただ、今のハンクの状況を考慮すれば、打ち明けておいた方がよかったのかも、しれないですよ?」
「まったく。本当にそう思うよ」
 ハンクはマックス(仮名)の話に偽りはない、そう判断をした。
 だが、
「どうやって、無意識の状態で作り出せる、幻覚を。そしてその中にどうやって入る?」
 納得できないことは、まだある。
 厳しい表情を少し和らげたが、まだ口調はきつい印象が残っていた。
「それね。だから、香り。ええっと、こっちでは薬草とか言うんだっけ? それが大活躍するわけ。詳しくは、ピエロに聞いてよ」
 マックス(仮名)はそれ以降の説明をピエロくんに丸投げしてしまう。
 押しつけられたような感じになったピエロくんは、表情すら面で見えないが、明らかに困惑気味のオーラが出ていた。
 彼にしてみれば、人間の、そしてこの国の言葉は堪能ではない。
 適切な単語を知っていればいいのだが……と内心はドキドキしていた。
「エット……」
 いったん、頭の中で言葉を確認しようと、間を取る。
 それに対しハンクは、
「寝ている時でも脳の半分が動いているというのはわかった。人は呼吸をする。香りは嫌でも嗅いでしまっているってことだ。それがどんな臭いでも。だが、嫌悪する香りは目が覚める。また危険を察知するような香りも……だ。となれば、安心できる香りで意識の主導権を握る。そんなところか?」
 と、これまでの話から推測できる答えを出した。
「ウン、ソウ。ソンナ、カンジ。デモ、ハジメカラ、ソレヲ、スルタメ、デハナイ、ノハ、ハイリガ、アサクナル」
「つまり、事前にそれを認識しているかどうかで、善し悪しの差がでる……ということだな?」
 ピエロくんが頷く。
「それで? そいつの意識はある。合意しているということだな?」
 ピエロくんがオーレン(仮名)を見た。
 オーレン(仮名)はわずかに頷く。
「で? この状態は、例のふたりに見られているんじゃないのか?」
 その問いかけにはマックス(仮名)が答えた。
「その辺の抜かりはないよ。万が一、見られてしまっても、問題はないかな。こっちにいる限りは。戻ったらどうなるかはわからないな」
「ずいぶんと他人事だな」
「先に破ったのは、オーレン(仮名)たちの組織だ。多種族を殺すなんてタブー。しかも、私利私欲と言ってもいい。大義名分はケインの追跡と情報収集だと言い張るとは思うけど、そのために無関係の人間を無抵抗のまま殺してもいいという理由にはならない。そっちだって、情報収集で動いている時に、どうにもならないからと殺したりするのかな?」
 ハンクは小さく「いや」と呟く。
 だが、ジェラルドはなんとも言えない、複雑な表情をした。
「あ……軍曹殿はちょっと立場的にも無理なのかな? でも、たまたま乗り合わせた一般人を巻き込むなんて失態はしないよね?」
 それにはジェラルドも頷く。
 それを確認したマックス(仮名)も頷きながら話を続けた。
「俺たちは人の生き血を吸わなくても生きていける、欲を押さえられる、そんな薬に頼ったり、進化したりして今がある。いまでも、食事は人間の生き血でないとという年寄りと、その年寄りの考えに共感する若者もするにはいる。それを一方的に否定はしない。が、別の生き方を選んだ者の方が多かった。何百年とかけて今がある。それをほんの一握り暴走でゼロにはしたくない。あっちではアストレイ(仮名)たちがリンクできないよう、術の強化なんかもしているはず」
「突起の機転。あちらにいる者たちも知っていると?」
「思念で話せるからね。とはいっても、すごい精神力が必要だから、滅多なことでは使わない。それに、俺はあれ、気持ち悪いんだよね……脳の中に侵入されているようで」
「……わかった。では、ライザの救出はマックス(仮名)に一任していいんだな?」
「そうだね。でも、ライザ少尉に信じてもらうためにも、そちらの誰かには同行してもらいたいところだけど」
「では、俺が行く」
 ハンクは考えることなく即答した。
 だが。
「それは軽率です」
 ジャラルドが意義を唱えた。
 続けて。
「ライザ少尉のことでしたら、私が同行いたしましょう。ハンク曹長には、こちらにとどまり、なにかの時の歯止めになっていただきたい。擬神兵の力は、こういう時にこそ役立ててこそ、とは思いませんか?」
「……つまり、俺ひとりで、シャールと意識を無くすオーレン(仮名)と術を仕掛ける者を守れと?」
「私がするよりはるかによい提案かと存じますが?」
「……クッ、そうだな。それでいい」
 すると、ずっと黙っていたシャールが「あの……」と声を発した。
「ライザさんのことでしたら、私が行きます。ジェラルドさんもこちらに残ってください。その方が戦力にもなりますし、もし、軍の誰かが来たとしてもジェラルドさんなら、説明も信憑性もあると思います」
 たしかに、それもひとつの案なのだが、ハンクとジェラルドのふたりが却下と下す。
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