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赦されざる者たちは霧の中に

原作: その他 (原作:かつて神だった獣たちへ) 作者: 十五穀米
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ライザの消息

 そのため、罪を犯した時の刑罰もやたらと長いのが特徴だった。
 代わりに、死刑という処罰はない。
 人として罪を償うのなら、刑期も短い。
 それでも人間として生きるということは寿命は短くなるので、人生の中での刑期の割合は大差ない。
 それでも、恐怖に怯えながらあと数百年も生きることを考えれば、人間になって短い生涯を送った方がいいのかもしれない。
 オーレン(仮名)はジェラルドとアストレイ(仮名)を交互に見る。
 ふたりが示し合わせているだけかもしれない。
 すると、離れて見守っていたアストレイ(仮名)が一枚の紙、おそらく羊皮紙かと思われるが、それを目の前でチラつかせた。
「これは己の血でサインをして術を施すための羊皮紙だ。おそらく、おまえはこれにサインをしたがために、従わなくてはならなくなったのではないか? これには、要約もともに閉じこめられ、満たさなければ完了しない。満たされなかった場合の規約もあり、さらにサインした者は縛られる。が、保身のためにも強い効力を持つ。これにオーレン(仮名)の要望を取り入れるというのは、どうだ? もちろん、人間となりあちらで暮らすとなれば、吸血鬼一族は手出しはできない。それだけでもかなりの効力はあるのにも関わらず、羊皮紙の契約も追加するのだ。断る理由はもうないだろう?」
 たしかに! とオーレン(仮名)は強く感じた。
 上目遣いでアストレイ(仮名)を見る目は、じっとり、ねっとりとしていて気味が悪い。
 その視線がジェラルドへと移る。
 ジェラルドは確認を求めていると読みとり、頷く。
「羊皮紙の効力は我々人間にはわからないが、吸血鬼としてそれが必要なら応じて構わない。だが、我々の世界にはそういった類のものはなく、ただ書面として残すくらいしかない。オーレン(仮名)の心配は、吸血鬼一族からの追っ手のみであると認識しているが?」
 オーレン(仮名)は小さく頷く。
 オーレン(仮名)にとって生まれ育った吸血鬼一族の世界は、とても居づらかった。
 が、人間界はそれほどでもない。
 人は弱くなにも持たないからであるのだが、それと同じになっても吸血鬼として得た知識は役立つと考えた。
「……それで、いい」
 ぼそっとした声で返した。
「そうですか。賢明な判断であると思いますよ。それでは、交互に要求を出し合いましょうか」
「……わかった」
 オーレン(仮名)が応じた。
 アストレイ(仮名)は、真新しい羊皮紙を用意し、記載していく。
「それでは、オーレン(仮名)の方から要望をどうぞ」
「組織には、戻り、たくはない……」
「引き渡しまで二日。あなたが交わした羊皮紙があればどうとでもできると思いますが、簡単に提出はしないでしょうね。どんな条件を記されたのです?」
「……っう、それは……いえない」
「そうですか。困りましたね。引き渡しを拒否できるだけの情報がないことには、このまま約束した通り二日後に引き渡しとなります」
「じ、人命、きゅ、救助、するっていうのは?」
「人命救助? 行方がわからない人間の行方を探すということですか? たしかに、それは大事ですが、あなたの組織が人間の捜索など……と言い切られたら、それで終わりです。でもそうですね。ケイン絡みの情報を持っているらしいとでも臭わせておきましょうか。承知した。では、引き渡し拒否の要望に対し、不明者の捜索の手伝い。これはオーレン(仮名)が能力を使った余波で飛ばされたということで話を合わせてもらいます。というか、それは軍曹殿が必要としていることですね。ライザ少尉の居場所に検討でも?」
「あ、ある。けど、それ、マックス(仮名)でも、できる。と、思う」
「ほう。そうですか。そうなのですか?」
 とアストレイ(仮名)がマックス(仮名)に訊く。
「え? 俺? 知らないよ? あのさ、そういうの、やめてよ」
「そう、かな? あの人、特別。幻覚、かかりにくい。だから……マックス(仮名)も、最初、失敗、している」
「……え?」
「霧の中……」
 その話にシャールが、「あ!」と思わず声を挟む。
「マックス(仮名)さん。その方、嘘は言っていないと思います」
「……どういうこと、シャールちゃん」
「ライザさんは、ずっと霧の中にいたんです。ライザさん自身で幻覚は見ていません。私と同調することで霧から出られました。今回の、オーレン(仮名)さんの件も、あらかじめ刷り込みのようなものがあったから、霧の中ではなかったのだと思います。大きい蔦、動く植物。そして少佐。誰かが言葉に出していましたよね? そうすることで対応していたのだと思います。だから、なにもわからない場所ではなく、霧の中から出られないのではないでしょうか? だとしたら、誰の霧の中にいるのでしょう?」
 シャールはマックス(仮名)とアストレイ(仮名)を見てから、オーレン(仮名)を見た。
 マックス(仮名)は「盲点だったよ……」とうなだれる。
 それから、思い当たることがあるらしい。
「見えていないのに会話ができていたことから、彼女にとっての戦争は闇なのかと思っていたけど、そうじゃなかったのか。そうか。だとしたら、連れ戻せるよ」
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