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赦されざる者たちは霧の中に

原作: その他 (原作:かつて神だった獣たちへ) 作者: 十五穀米
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拘束の期日

「堪え忍ぶって感じかな。強情ではないと思うよ。いじられても黙ってやりすごすタイプ。そういうのって、見ていてイライラするから、よけいいじられるんだよね。まあ、俺はどちらも人としてどうかなって思うから、一歩引くけど」
「拷問は得意ではないが、いろいろやり方はある。耐えることに慣れているなら、それはそれで……」
「うわっ、不慣れとかいいながら、凄くエグいことを平気でやっちゃうタイプ?」
「……?」
「……あ、いいや。今のは聞き流して。おっと、アストレイ(仮名)が出たね。何か情報得られているといいんだけど」
 と言っているところにアストレイ(仮名)が現れた。
「身の安全の確保のため、ジェラルド軍曹に口添えをしてやってもいいと提案しておいた」
「どうだった?」とマックス(仮名)。
「顔色を変えていたな」
「……そうか」
「……? どうした、なにか気になることでもあるのか?」
「ああ、まあ。この一連、誰が得するのかって考えると、人間にも俺たちにも利点はないんだよな。じゃあ、ケイン側にあるかっていったら、微妙だ。あいつは自分の国を作ろうとしている。国主でいようと考えるなら、無差別的な行為は逆効果だと思わない?」
 そこにハンクが入ってくる。
「たしかにそうだが、ケインも人を襲っている。しかも軍人相手ではない。シャールのような人物にも容赦はない。無関係とは考えにくい」
「そう、そこなんだよ。じゃあ、得するのは誰かではなく、別の視点で考えようか」
「たとえば?」
「どうにかして、視点を返させたい。ケインのオリジナルは俺たち一族の誰かか、もしくは提供したか。誰が……って一時、疑心暗鬼になっていた時があったよね? その時、名前があがったのって、オーレン(仮名)の組織の人じゃなかったっけ? 俺も記憶力がいい方じゃないから断言はできないけどさ」
 と、ハンクと話しながらアストレイ(仮名)をみた。
 場にいる者たちが「そうなのか?」という視線でアストレイ(仮名)を見る。
「……言われてみれば」
「犯人探しから目をそらせたかったって考えると、辻褄があうところが出てくる」
「ならば、たたみかけてみるか。先の打ち合わせ通り、におわせておくから、その後のことを頼みたい」
 アストレイ(仮名)がハンクとジェラルドをみる。
 ふたりは静かに頷いた。
「感謝する。では、ぼくとマックス(仮名)とで責める視点をかえてから例の件をふる。だが、もしこの仮説が正解なら、本当に人間の世界の人たちには申し訳ないことをした。保身のために別世界を矢面に事件を起こすとは……」
 アストレイ(仮名)はただの仮説であってほしいとせつに願いながら、再びオーレン(仮名)の尋問に立ち会うのだった。

※※※

 オーレン(仮名)が拘束されている地下牢に、ジェラルド、ハンク、マックス(仮名)、アストレイ(仮名)の四人が顔を揃えた。
 アストレイ(仮名)は少し距離をとって立ち、ハンクはオーレン(仮名)を追い込むために斜め後ろから見下ろす。
 ジェラルドとマックス(仮名)が真正面にある椅子に腰掛けた。
「席を用意した。座ったらどうだ?」
 まずジェラルドが椅子に座るよう促す。
 一旦、全員が地下牢から退却したため、オーレン(仮名)は隅っこの方で膝を抱え体を丸めていたのだが、促されても従う様子がないので、ハンクが首根っこ掴んで強引に座らせる。
 彼はハンクをとても怖がっており、抵抗も反論もする気力も意欲もない。
 だが、「ハンク曹長、もっと丁寧に扱ったらどうだね。彼は奴隷ではない」とハンクの行為を窘めたので、ジェラルドにはもしかしたら……という期待を抱く。
 そもそも、オーレン(仮名)にとってジェラルドは紳士的な態度で接してくれているという印象がある。
 マックス(仮名)も根本的に世話好きで温厚なのだが、怒らせると静かに淡々と正論をぶつけてくるので、どちらかといえば苦手であった。
 それでも、ほかの一族のようにいじったりしてこなかった分、まだ信用してもいいかもしれないくらいには感じている。
 さて、こうも主な面々が顔を揃えるとなると、いよいよ……と察してしまう。
 いよいよ……終わりなのか、それとも妥協案の提案か。
 残り二日と迫っていた。

「さて……」とジェラルドが流れを断ち切り、新たな話をはじめる。
「さきの交換条件について、考えてくれただろうか。こちらも、アストレイ(仮名)殿と話し合いをした結果、オーレン(仮名)の保護はこちら側で担当をしてもいいという承諾を得られたよ。つまり、人間として我々の生活圏内で生涯を送るということだ。ただ、問題がある。こちらとしてもあれだけの事故を未解決で処理はしたくない。そこで、オーレン(仮名)にその役をやってもらいたい。刑に処するかどうかはまた別問題だが、刑が軽くなるよう尽力しよう。その提案として、姿をそっくり変えてもらうことで、新たな人生の約束をしたい」
 吸血鬼一族の一生は長い。
 人間の平均寿命の五倍とも六倍とも言われているが、人の血を吸わないようになってからは、若干、短縮はされてはいるが、それでも長い。
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