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赦されざる者たちは霧の中に

原作: その他 (原作:かつて神だった獣たちへ) 作者: 十五穀米
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真相を知る

「ハンクさんと一緒です。あの、少佐が……」
 険しい顔つきで怒号していたジェラルド軍曹は、シャールの顔を見た途端、険しい顔を緩めていた。
 しかし少佐が……とシャールが言うと、再び険しい顔に戻る。
「少佐がどうしたのです?」
 シャールに問うジェラルドだが、彼女の背後にハンクが現れると、視線をそちらへと向け「ハンク・ヘンリエット。どういうことか。説明を」と対象を変えた。
「すみません」とハンク。
 続けて。
「俺ではなく、シャールが説明します」
「なぜかね?」
「俺では説明不足になるからで……まあ、状況を冷静に受け入れているのが彼女なんで」
「それでは説明になってない。民間人に説明? なにを言っているか」
「その民間人の作戦参加を認めたのは、あなたです、軍曹」
「……っう。くっ……。わかった。ではシャール。聞かせてもらおうか。少佐がどうしたのだ?」
「はい……」
 シャールはまっすぐにジェラルド軍曹を見た。
 シャールたちはかなりの時間、行動をしていたが、この現代ではまだ数時間しか経っていない。
 まだ夜明け前。
 しかしシャールたちは丸一日、動き回ったくらいの披露がある。
 それでも、今はまだ倒れる時ではない。
 シャールは両足に力をいれ、「少佐を保護しました」と述べた。
 瞬間、その場の時が止まったかのような感覚になる。
 ジェラルド軍曹の表情が壊れ掛けた映写機から流れ出る映像のように、カクカクと、見えた。
「もう一度」
「はい。クロード少佐を保護しました」
「少佐を……保護といいましたね。無事、なんですね。今、どこに? 外ですか? それとも、汽車の中? すぐ、人を向かわせますので、同行を!」
「いえ、待ってください、ジェラルドさん。私の話を聞いてください」
「話は聞きます。少佐が先です」
「わかります。でも、今は動かせる状態ではなく、ある場所で適切な人に診てもらっています」
「……なにを言っているのかな? きみたちはあの汽車の中で、もう一度同じことを体験するという作戦だったはずだ。蔦が襲いかかり兵士が負傷。ハンク曹長がひとりを外に脱出させ伝令で走らせた。その報告は受けている。少ない人員をどうにかやりくりし、向かわせる算段をしていたところだ。だが、思うように人が動かず。そんな時に、きみたちが、今の吉報を持って現れた。どこに? 少佐はどこに? 適切な人? 誰のことだ? そういえばライザ少尉の姿がないな。彼女が診ているのか? 彼女には医療に特化した能力があるとは知らなかったが……」
 やはり、ジェラルド曹長は現実のことしか受け入れない。
 シャールやほかの隊員、兵士が幻覚を見ていたようなと報告をしても、にわかに信じがたいといい、みながそういうのだから、とりあえずは信じてみてもいい。
 その上での今回の作戦であった。
 霧が出ないのに巨大な蔦は動く。
 その時点で作戦は失敗と思っても間違いではない。
 こうなってはムリヤリにでも連れていくしかないのか。
 ハンクも、シャールでさえそんな考えが過ぎった時だった。
「いや、待て。ライザ少尉が戻ってきていたな。伝令の報告を受けてそう時間も経っていない時だ。ついさっきまで、ライザ少尉はここに……彼女はどこに? いったい、どうなっている?」
 ジェラルドは時間の感覚がおかしいことに気づいた。
「ジェラルドさん。汽車の中にいた私とハンクさん、そしてライザさんと、ジェラルドさんとは時間の流れが違うんです。本当に、どう説明すればいいのか、わからないのですが、汽車の中で私たちはほぼ一日くらいの時間を過ごしています。とある方々の協力を得て、少佐を保護し、そして今回の主犯も捕らえました」
「……な、主犯? どこにいる!」
「その人物も、しかるべき場所で厳重に監視しています。彼らは今回の事件の捜査をしている軍に情報共有を求めています。対等の立場で解決に望みたいと考えています。私とハンクさんは、その協力者たちの代弁者として、ここにいます」
「……言っていることがわからない。いや、わかろうとしていないだけなのか?」
「簡単に理解をしていただけるとは思っていません。ただ、それでも、私たちと共に来ていただきたいのです。そこに主犯と少佐がいます」
「この状況下で、私にここを離れろと?」
「時間の経過が違いますので、そんな長い時間、留守にするわけではありません。それともうひとつ、報告することがあります。少佐発見の際、ライザさんが行方不明になりました」
「……なに? どういうことだ」
「ライザさんの捜索と、少佐の回復には、主犯の自白が必須なんです。人を介して得る情報ではなく、ジェラルドさんの目と耳で判断してほしいと思います。ライザさんの件は、私やハンクさんではお手上げ状態で。すみません」
「……いや、あなたを責めるのはお門違いだったな。また、民間人であるあなたの参加を認めたのも私だ。私に責がある。だとするならば、協力者という者にあうのも、私の義務なのかもしれないな。時間の経過が違う。信じ難いが、もうありえないことなど、この世にはないのかもしれないな。わかった。きみたちに同行しよう。その者たちにあわせてくれ」
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