ネット喫茶.com

オリジナル小説や二次創作、エッセイ等、自由に投稿できるサイトです。

メニュー

赦されざる者たちは霧の中に

原作: その他 (原作:かつて神だった獣たちへ) 作者: 十五穀米
目次

ライザの体質


 シャールは改めて隠れていたところをまじまじと見られることの恥ずかしさを痛感する。
「えっと。なぜだか、私だけ戻ってきちゃったんで、隠れていた方がいいかなって。あの、ほかの人に見られるのも、想定外で接触してしまって体になにかあったら申し訳ないので」
 ごそごそと狭い場所から体をだし、服についた砂などを軽くはたいて落とす。
「だからって、座席の下? 汽車なら客室車両とかで、よかったんじゃないの?」
「……あ。たしかに、そうですね」
「まあ、なんにしても無事でよかったよ」
 と言いながら、背後にいたハンクに対し、
「な? 言った通りだったでしょ?」
 と、ドヤ顔で言った。
 シャールはマックス(仮名)の後ろにいたハンクの姿を確認すると、わずかに目頭が熱くなる。
 さらに、彼が担いでいた人物が少佐と気づき……
「無事に。少佐も無事に連れ戻れて。よかったです。全員、無事だったんですね?」
 喜ぶシャール。
 だが、彼らの様子は手放しで喜べる生還ではないらしい。
「シャール……」
 ハンクが近くの座席にクロードを横たわらせる。
 それからシャールの方を向き……
「ライザと一緒じゃないのか?」
 と、聞いた。
 そこで、ライザが不明になっている事実を知る。
「……ライザさんは、一緒ではないのですか?」
「ああ……。一緒にいたはずだが、なにがあった? あいつにしては珍しく、感情むき出しだったが」
 クロードの串刺しあたりのことを言っているのだろう。
「あの時、ライザさんは必死に平常であり続けようとしていたのだと思います。幻覚であるとわかっても、やはり少佐が傷つけられるのは耐えられなかったのだと……。ライザさんはオーレン(仮名)さんの幻覚に屈しないよう、心の目で感じようとしていたのだと思います。私も、負けたくなくて。目で見ず気配だけを感じていようと。そしたらなにかに引っ張られる感じがして、気づいたらここに戻っていました。あの、ライザさんも同じだったのでしょうか?」
「いや。それはわからない。気づいたらふたりが消えていた。近くにいたのは、ジェラルドの面をつけていた……あいつだ」
 ハンクは少し辺りを見回し、その人物を見つけ視線を向ける。
 しかし、彼も近くにいただけで、その瞬間は見ていないらしい。
「すみません。私もわかりません。目を閉じていたので。ただ、ライザさんは私に、目を閉じ耳を拒絶して、幻覚に惑わされないようにと励ましてくれていました。だとすれば、同じようにどこかに飛ばされたのではないでしょうか」
「ああ。それはこちらもそう見解している。ただ、ライザがその瞬間、なにを思い感じたのかがわからないことには、ピンポイントで探せないということだ」
「それは、私にもわかりません」
「シャールはなぜここに戻った?」
「わかりません。ただ、どこかに引っ張られるくらいなら、もう知らない場所はイヤだって思いました。そういうのも、影響しているのでしょうか?」
 シャールは、マックス(仮名)を見てからピエロくんを見た。
 一番知っていそうなのはピエロくん。
 わからやすく説明してくれるのはマックス(仮名)だったからだ。
 だが、すでにこの話は彼らの中で結論がでているようで、マックス(仮名)がざっくりと説明をしてくれた。
「まあ、そういうわけだから。無意識であっても意外と意識していたりすることもある。だから、ここに戻って来たんだと思う。それを踏まえて、ライザ少尉はどうだろう? なにか気になることとない?」
 シャールは少し俯き、記憶を遡っていく。
 無意識でも意外と自覚していること、根底にある思いなどなど。
 もし、自分がライザ少尉なら……
「あの、漠然とした答えになるんですけど」
「ん、いいよ。教えて」
「霧、ではないでしょうか?」
「霧? なんで?」
「今回は霧が関係していることが多いです。無意識に霧に関わるなにかを連想してしまったのではないでしょうか。ライザさんは、マックス(仮名)さんの幻覚操作のとき、なにもなく、ただ濃霧の中にいると言っていました。意識して、心の中を覗かせないような訓練かなにかを受け、その影響がそういう現象を起こしてしまっている。なんかこじつけのような話ですけど」
「擬神兵でもあるハンクさんでさえかかった幻覚を、ライザ少尉はかからない? いや、そんなことはない。だけど、どうなんだろう?」
 とマックス(仮名)はピエロくんを見た。
「アリエナイ、ハナシデハナイ、ト、ボクハオモウ。ニンゲンテキニイエバ、サスミンジュツ、ナドニ、カカリニクイヒトモイル。ソウイウヒトニ、ムリヤリカケルト、ノウガ、コワレル。ライザ、モシカシタラ、キケン、カモ、シレナイ」
「強靱な精神力が仇となった感じかな。どちらにしろ、ここでは解決できないから、一旦、あっちの世界に行くことになった。少佐も、このままでは眠り続けることになりそうだし。オーレン(仮名)の件もあるし。シャールは……どうする?」
「行きます。ライザさんのこと、私も協力できることがあればいいのですが」
目次

※会員登録するとコメントが書き込める様になります。