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赦されざる者たちは霧の中に

原作: その他 (原作:かつて神だった獣たちへ) 作者: 十五穀米
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再会

 茎の中のオーレン(仮名)の幻覚世界にいた時間は、それほど長くはなかったような気がした。
 マックス(仮名)の仕掛けた幻覚の中では三日、四日くらいは過ごしていた感覚はあるが、現実に戻れば一晩程度だった。
 あちらでの時間経過、一日は、こちらの一時間か二時間くらいだろうか。
 そうやって計算をすると、こちらではほんの数分しか経っていないのかもしれない。
「あれから、みんなはどうなったのだろう……少佐は無事に助け出せたのかしら?」
 ハンクがいるのだから大丈夫という気持ちはあれど、楽観視はできない。
 と、その時。
 あたりにうっすらと霧がたちこみはじめた。
「霧……この辺りでは発生しないと言われているのに。これも誰かの?」
 もしマックス(仮名)たちの一族なら、話を聞いてさえもらえればどうにでもなるかもしれない。
 だけど、ケイン・マッドハウスの仕業だったとしたら?
「私には勝ち目なんてないわ。無駄に足手まといになるだけ」
 シャールは以前、ケインの手に落ちた時のことを思いだし、二度とそうはなりたくないと強く思う。
 どこか、物陰に隠れて……
 急いで辺りを見回し、そして座席の下にあるわずかな隙間に身を寄せた。

※※※

 クロード救出、オーレン(仮名)捕獲に成功した、五人の面々は、それぞれ思うところはあれどあえて言葉にも態度にもださず、来た道を戻り、無理矢理こじ開けた入り口まで戻ってきた。
 そのまま入った穴に入ればこの幻覚世界から出られると説明をされていたハンクだが、先頭を歩くピエロくんとキツネくんが片足を突っ込み、引きずるようにオーレン(仮名)を入れようとした時、あとに続くはずの足が止まる。
 するとすぐ後ろにいたマックス(仮名)がずんのめるような形になった。
「急に止まるな!」
 ボケーとしながら歩いていたマックス(仮名)に非があるとは思うが、確かに進もうとしていた足が止まったのはハンクにも突っ込まれる要因はある。
「ドウカシタカ?」
 すぐ後ろで場に相応しくない声がしたのだ、彼らだって気になり動作を一時停止し、振り返り、説明を求めるだろう。
「ハンクさんが急に止まるから……」
 マックス(仮名)は声を上げた理由を口にした。
「ハンクサン、ドウカ、シタノカ?」
 ピエロくんは、ハンクに問題ができたことを悟った。
 単純に進みを止めたわけではないことを、彼がまとうオーラで察したのだ。
「本当に、この幻覚世界の中に、ライザとシャールはいないんだな?」
 もしそうでないなら、クロードを彼らに任せ、ひとりでも戻るつもりで訊ねる。
「ウタガッテ、イルノカ?」
 淡々と感情を出さないで話すのが特徴だったピエロくんの声色が変わる。
 明らかに信頼を失った悲しみ、疑念にも取れる声のトーン。
 ここにシャールやライザがいたら、すかさず弁解をし、誤解を解くことを優先するだろう。
 しかし、ハンクにはその辺りが少し欠落しているところがある。
 信頼は不要と思っているわけではないが、深読みして自滅していくような人との信頼回復は不要と思っているところがある。
 信頼があれば多くを語らずともいい。
 そんなところだろう。
 ハンクは肯定も否定もせず、まっすぐにピエロくんを見据えていた。
「ちがう。かれは、しんぱいをしているだけだ」
 キツネくんがピエロくんを諭し始めた。
「シンパイ? ナゼ?」
「なぜ? きみは、ともにいたひとが、とつぜん、いなくなっても、しんぱいはないの?」
「モンダイ、ナイ。ダカラ、シンパイ、ヒツヨウナイ」
「え? ああ、もう、だから、ごかい、されるんだ、きみは」
 キツネくんはピエロくんの言い方を指摘しつつ、ハンクを見て「だいじょうぶ」という。
「えっと、うまく、せつめいできなかったら、もうしわけない」
 最初にそう頭を下げた。
 人間の世界でも国が違えば言葉も違う。
 すべてを網羅している人など、いないと断言しても問題はないだろう。
 彼ら、吸血鬼一族が、彼らにしかわからない言葉を使用していても不思議ではないし、人間の中に混ざって生きている吸血鬼もいるらしく、それらが人間の言葉をすべて把握しているとも思えない。
 ピエロくんとキツネくんがたどたどしくも、ハンクたちに馴染みある母国語で話してくれようと努力していることは非常に助かっていた。
 だから、うまく言えなかったとしても、責めるつもりはない。
 どうにもならなければ、マックス(仮名)が適切な対応をしてくれるだろう。
「ぼくたちは、けはいやにおいで、そんざいをはあく、りかいする。にんげんは、めでみたり、きこえたりすると、そんざいをしる。そのちがい。ぼくらは、みえなくても、そんざいをかんじられる。らいざ、しゃーる、ふたりのにおい、ここにはない。のこりが、それが、とぎれている。あの、ばしょで。ここをもういちど、とおっていない。これで、わかる? はんく」
 キツネくんは少し首を傾げた。
 自分でも不安だったのだろう。
「ここにはいないのだな。わかった。信じよう。では、どこにいると考えられる?」
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